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若手エンジニアが伊集院光のひとことにガッツポーズ/石井裕也【#ネクストクラフトパーソンズ】

これからのTBSラジオを担う若手スタッフへのインタビュー企画「#ネクストクラフトパーソンズ」。

今回ご登場いただいたのは、TBSラジオ入社2年目、UXデザイン局・メディアテクノロジー部の石井裕也さん。『赤江珠緒たまむすび』火曜日や『伊集院光とらじおと』木曜日のミキシングなどを担当する、いわゆる“エンジニア”です。

メディアテクノロジー部、”エンジニア”とはいったいどんなお仕事なのか? 我々にはちんぷんかんぷんだったりもします。そこで今回は石井さんに“エンジニア”の業務についてうかがいつつ、その中で見つけたやりがいや、失敗談・ファインプレイなどをうかがいました。


ハードな体育会暮らしが巡り合わせたラジオの存在
学生時代、体育会系の部活動に所属していて、部員は全員寮住まい。先輩後輩含めて4人の相部屋の上に、1年生は5時の起床時間の10分前に起きて、5時になったら先輩を起こさなきゃいけないという厳しいルールがありました。当然部屋にテレビなんてナシ。そういう環境で生活していたので、23時の消灯時間後の楽しみはラジオを聴くことだったんです。

そこでTBSラジオなら「JUNK」、他局なら「オールナイトニッポン」なんかを通じてラジオの面白さを知って、さらにお昼の『赤江珠緒たまむすび』も聴くようになり、次第に「ラジオ局で働きたい」と思うようになりました。

ただ、実は新卒のときにはTBSラジオは落ちちゃって(笑)。別の放送局に就職し、そこではCM管理の仕事をしていました。そして一昨年、ついにTBSラジオに転職、今の部署に配属され、エンジニアになりました。

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エンジニアの第一義とは「放送の安全を守る」こと


技術の仕事の役割は簡単に言ってしまえば「放送の安全を守ること」。

放送スタジオのコンソール(ミキサー卓)を操作して、マイクが拾ったパーソナリティの声や、CDプレイヤーなどで再生される、音楽のバランスを整えることももちろん重要な仕事なんですが、それはあくまで業務のひとつ。
そのコンソールやマイクやCDプレイヤー、それから送信所などの保守点検も大切な業務なんです。実際、このあとは国会議事堂に置かせてもらっているTBSラジオの中継機材のメンテナンスに行きますし。

しかも自分はまだ入局2年目ということもあって、スタジオに入って放送中・録音中のコンソールを操作する、いわゆるミキサー——TBSラジオではテクニカルディレクター、略してTDと呼んでいるんですけど——その仕事をするのは週に2回。『赤江珠緒たまむすび』の火曜日と、『伊集院光とらじおと』の木曜日のTDを担当しています。

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火曜日の「~たまむすび」のアシスタントは南海キャンディーズの山里(亮太)さんだし、「~らじおと」のメインパーソナリティは当然伊集院さん。学生時代からの「JUNK」リスナーとしてはおふたりが出演する番組に携わらせてもらえるのはやっぱりうれしいですね。おふたりとも打ち合わせをしっかり行ってからオンエアに臨んでいたりと、リスナーだったころには知り得なかった「パーソナリティの入念な準備があるから番組は面白くなる」ということに気付けました。

新人としてTD研修を受けていたころ、先輩によく言われたことがあります。

「TDは最初のラジオリスナー」。

自分がミキシングして作った心地よいと思える音が、まずマスター室(主調整室)に送られて、そこから各送信所に送出されるので、自分の操作ひとつで音が出なくなってしまうこともある。それだけに放送中はひとつひとつの動作に本当に注意を払っています。

特に自分は経験が浅いので、コンソールの隣に座っているディレクターと声を掛け合いながらミスを極力減らすようにしていますね。……あっ、ちゃんと音が送出されているか、地震のような緊急事態時にもきちんと動作するかなど、そのマスター室の保守点検もエンジニアの仕事のひとつです。

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マスター室監視業務をしている実際の様子(本人提供写真)


「たまむすび」「らじおと」それぞれの番組での綿密な音作り術


自分自身は新型コロナ禍直前にこの仕事に就いたので、新型コロナ禍以降のラジオ局のあり方、エンジニアのあり方しか知りません。それ以前の状況とは具体的な比較はできないんですけど、出演者ひとりひとりの手前と左右にアクリル板を置いたりと新型コロナ感染対策には非常に気を遣っていますし、一時期はスタジオの中に入れる人数を大幅に制限するということもしてました。

パーソナリティとアシスタントに加えてゲストの方やニュース解説の記者さんがスタジオに入る場合は、アシスタントさんには廊下に出ていただいて、そこに立てたマイクで番組に参加してもらうこともあったんです。
そういうときは顔の見えない人の声を拾わなきゃいけないし、廊下だからそこを通る方の足音やおしゃべりの声を拾ってしまうおそれもある。それだけにほかの番組のTDを交えて「マイクの機種を変えたら出演者の声以外拾いにくくなるんじゃないか?」とか、細かく打ち合わせをして、新型コロナ禍以降ならではの放送スタイルを作っていました。

あと、担当番組ごとに気を配るポイントも違っていますね。「~たまむすび」に関しては基本的にスタジオには赤江(珠緒)さんと山里さんしかいらっしゃらないので、おふたりの声と音楽をミックスしていればいいんですけど、「アメリカ流れ者」という最新映画や米国の現状を紹介するコーナーでは、米国在住の映画評論家・町山智浩さんに Web会議サービスや電話でご出演いただいています。だから、放送開始前には毎回、その海外との通信環境まわりのチェックには細心の注意を払っています。

一方「~らじおと」では伊集院さんとパートナーの出演者の方とアシスタントのアナウンサーさんに加えて、ゲストもいらっしゃる。最大でスタジオの中の人数が6人くらいになる上に、たいていの場合、お話が非常に盛り上がるので、とにかくしゃべっている方のマイクの音声をリアルタイムで追いかけて、その面白さをしっかり届けられるようにしています。

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まあ、それでも失敗は思い出したくないくらいたくさんあるんですけど(笑)。本当に新人のころ、先輩に見てもらいながらミキシングをしていて。そのとき、CM明けに本来上げなければいけないボリュームではなく、間違えて隣の何も入ってないボリュームを上げてしまい数秒無音になるという、ものすごくカッコ悪い番組にしてしまったことがありました。あれがTDとして初めてやらかした失敗だったので、だいぶ落ち込みました(笑)。

伊集院光から贈られた「ナイスフェードアウト」


でも、うれしいこともたくさんあって。ラジオやテレビのCMの中には「○時~×時のあいだに放送すればいいもの」と「○時×分に自動で放送されるもの」があるんです。

ある日「~らじおと」のTDをしていたら、伊集院さんと柴田(理恵)さんのお話がすごく盛り上がって「このままだと、○時×分に自動で放送されてしまうCMまでにお話が終わらないのでは?」ということがありました。そのときに、そのCMが放送される時間に合わせてゆっくりとおふたりのマイクのフェーダーを下げて声をフェードアウトさせたら、CM中に伊集院さんが「今のフェードアウト、よかったね」っておっしゃってくれたんです。
聴いている方には気づかないような、言ってしまえば些細なことではあるんですけど、思わずガッツポーズが出ました(笑)。

あと、今後はTDをはじめ、エンジニアとしての腕を磨くことはもちろんのこと、もうひとつラジオ局での働き方をより効率化させられたらいいな、と思っています。
前職でCM管理——広告代理店から「この番組ではこの企業とこの企業のCMを流してください」という表をいただいて、各企業のCMを入れる時間を調整する仕事——いわゆる内勤業務をしていたこともあって、今はそのCMを含めた番組全体のこともなんとなく把握できるようになってきました。
それだけに「これ、もうちょっとシンプルでラクにできるんじゃないかな?」と気付くことも少なくなくて。そういう取り組みにも挑戦してみたいですね。

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石井裕也/1993年生まれ。2019年TBSラジオ入局。UXデザイン局・メディアテクノロジー部の一員として、スタジオ設備、送信所の保守管理を行うとともに「赤江珠緒たまむすび」火曜日、「伊集院光とらじおと」木曜日のミキシングも担当する。

Photo:飯本貴子 Text:成松哲 Edit:ツドイ

(こちらはTBSラジオ「オトビヨリ」にて2021年6月18日に公開した記事です)