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電波につられて/福富優樹(Homecomings)【連載エッセイ「わたしとラジオと」】

インフルエンサーや作家、漫画家などさまざまなジャンルで活躍するクリエイターに、ラジオの思い出や印象的なエピソードをしたためてもらうこの企画。今回は、バンドHomecomingsのギター担当・福富優樹さんにラジオを通してひろがった新しい世界のおはなしを綴っていただきました。

小学6年生の頃、ようやくスピッツ以外の音楽にも興味を持つようになった僕は、毎晩のようにラジオで音楽番組を聴いていた。これを聴いていればその月にリリースされる新曲は大体チェックできるからだ自分もバンドをやりたい、と思うきっかけになったレミオロメンやGOING UNDER GROUND、ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下アジカン)のようなアーティストにはそうやって出会っていった。そのなかでもくるりの「ロックンロール」という曲はとても印象的で、今でもとても大事な曲だ。なにかでもらったカタログギフトのなかからお母さんが僕のために選んでくれた小さな青色のCDコンポではラジオとカセットテープも聴くことができて、僕は毎晩そのコンポの前に座って、曲がかかるごとにわくわくしていた。

当時、インターネットはまだまだ図書館のパソコンで観るもので、先に家にやってきたケーブルテレビが僕の音楽の情報収集の舞台になった。それまで深夜にやっていた音楽番組『CDTV』でサビの部分だけしか観られなかったミュージック・ビデオをフルで観れることが新鮮で、朝から晩まで時間があればとにかくケーブルテレビにかじりついていた。それまで聴いていたラジオの音楽番組は熱心にチェックしなくなっていった。それでも毎週水曜日にあったアジカンのラジオ番組だけはずっと聴き続けていた。メンバーや、ゲストで出演するスピッツやBEAT CRUSADERSといった大好きなアーティストたちが、影響を受けた洋楽の曲をかけてくれるのがとても嬉しかったからだ。その曲をMDに録音しては何度も繰り返し聴いていた。当時僕がもっていたコンポでは、MDからMDへの録音ができなかったので、ダブルMDのコンポを持っている友達の家に行っては番組の中でかかったお気に入りの曲を一枚のMDに集めていった。今でいうところのプレイリストを作っていたのだ。電波のノイズが混ざり、少しだけくぐもった音のプレイリスト。ギターソロの途中で音量が下がり曲紹介がのっかってしまっている曲もあるようなそんなボロボロのプレイリストがあの頃の僕の宝ものだった。

アジカンのラジオ番組は、オープニングのジングルがとても印象的だったことをいまでも覚えている。NUMBER GIRLやWeezer、ELLEGARDENといった色んなアーティストの曲をそれぞれ5秒くらいずつ切り取ってつなげたもので、とにかくかっこよかった。そのなかで流れたWeezerの曲だけがいつまでも見つからなくて諦めていたのだけど、何年後か手に入れたB面集のなかでその曲を見つけたときの興奮は未だに生々しく覚えている。Weezerの「You Gave Your LoveTo Me Softly」。たくさんあるWeezerのアルバムのなかでも、この曲と同じ時期に作られた、『Pinkerton』に一際思い入れがあるのはそんな理由からだ。

高校を卒業してからは、京都で一人暮らしをはじめた。街にはレコード屋さんがいくつもあり、育った町にあったTSUTAYAの倍くらいの量のCDが大学の図書館には置かれていた。また、この頃にはすっかりインターネットが普及し、ノートパソコンでYoutubeを観るのが当たり前になっていた。アルバイトをたくさんして、軽い気持ちでCDをジャケ買いしたりするようになった。ラジオの音楽番組はほとんど聴かなくなって、代わりにお笑い芸人のラジオをよく聴くようになった。テレビとは違う、深夜ラジオの温度感にワクワクしながら、アルコ&ピースやおぎやはぎのラジオを聴いていた。いつしか深夜ラジオ独特の距離感に夢中になっていった。レコードで音楽を聴くようになったり、シネコンじゃない映画館で映画を観たり、そんな自分にとっての新しくてワクワクすることのひとつが深夜ラジオだった。

それからまたしばらくして、自分で音楽を作るようになり、色んなことを考えるようになった。それはいつまでも子どものふりをしていられなくなった、ということかもしれない。そんなとき、宇多丸さんの『アフター6ジャンクション』や荻上チキさんの『荻上チキ・Session』を聴くと、まるで本や映画と同じように、新しいことや新しい角度を知るとても大きなきっかけをくれた。TBSラジオのいくつかの番組で選曲を担当している高橋芳朗さんが流す音楽とその解説には、自分が知らなかった世界や歴史が映されていて、視界が少しずつ広がっていくような感覚になった。

今住んでいる東京郊外の町の部屋はキッチンに大きな窓がある。窓を開けてAirPodsでラジオを聴きながらごはんを作るのがここに引っ越してきてからの日課になった。『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』を聴きながら夜中の町を散歩していると、時間も疲れも忘れてどこまでも歩いていけそうな気がする。ふたりの話すペースが歩くペースとぴったり合うような感覚になってくるのだ。もちろん今でもお笑い芸人さんのラジオも大好きで、真空ジェシカやアルコ&ピースの番組を聴きながら、電車の中や帰り道にふいに声を出して笑ってしまうことが数え切れないくらいある。ここ何年かで、自分もラジオ番組をもたせてもらう機会が増えた。どこかで、あの頃の自分が興奮してくれるような、そんな番組にしたいという思いがある。音楽だけじゃなく、文学や映画も紹介するし、自分が爪を塗る理由や、そのときどきのニュースのことを真面目に話すこともあるし、かと思えば最近あったくだらない話をゲラゲラ笑いながらしゃべったりもする。

いつのまにか、ラジオは自分の生活のなかでとても大切なものになった。楽しむものでもあり、自分で作りものでもある。これからもずっと、場所や形が変わっても、生活が踊り続ける限り僕はラジオを手放しはしないだろう。

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生活になじむ福富さんの愛用ラジオ


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福富優樹/1991年5月生まれ石川県出身。Homecomingsのギター担当。好きな映画は「ロイヤル・テネンバウムス」。映画の上映とバンドのライブ、zineの発売が一体となったイベント「NEW NEIGHBORS」をイラストレーターのサヌキナオヤとバンドの共催で定期的に行っている。これまでの上映作品は「アメリカン・スリープオーバー」「ヴィンセントが教えてくれたこと」「スモーク」「ゴーストワールド」。自身がストーリーを、イラストレーター・サヌキナオヤが作画を手がけた漫画作品『CONFUSED!』の単行本が発売中。5月に、メジャーデビューアルバム『Moving Days』をリリース。

llustration:stomachache Edit:ツドイ
(こちらはTBSラジオ「オトビヨリ」にて2021年12月16日に公開した記事です)