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フラクタル 〈2〉

精神と肉体との自己複製へのあくなき欲求を断ちきるために、かつての私は考え続けていた。考え抜いては彷徨し、あるいは昏々と眠る。そうすることで、膨らみゆく自己から逃げのびようとしていた。

出口のない自問自答を繰り返し、バターと化したあたりで何につけても「誰かのせい」というのはありえなくなる。「自業自得」が色濃くなる。ゆえに苦々しい。ならば変わるか逃げるかするより他ないだろうと。そうして日々推力を得ては、寝床を抜け、家を出た。変わったのか、はたまた逃げ出したのか、私自身わからぬまま。

まるで判で押したかのように同じ朝を自動的に、ぼんやりとやり過ごしていたせいか、後になって通勤中の記憶がふと蘇ってもそれが今朝のものなのか、昨日/一昨日/一週間前のことだったのか判然としなかった。

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別れたくないと言われれば、憎みながらも微笑んで別れずにいるしかない。別れたいと言われたなら、傷みながらも笑って別れるしかない。そうしてどこまでも自分に不実になる。他にどうすればいいのか判らなかった。

否、続けること自体は容易いのだ。立ち去りさえしなければいい。難しいのは、侵犯も審判もせずにいることだ。自分のことも相手のことも。感情は得てして、対象の心に無遠慮に踏みこんでは対価をもぎとろうとする。

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