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流れる端から疚しさに濁るン 〈田園 #4〉

「個性は大事にされても、個別性は見逃がされやすい。前者を容認することはできても、後者には気づきにくい。ゆえに、あなたがあなたであることの尊さが、ボクとあなたは違うということにおいて、ときに否認の種になりもする。ボクとは違うあなたを認めてほしいと願うのなら、あなたとは違うボクのことも認めないと。あるいは人を呪わば穴ふたつ」

などと怒り心頭まくしたてたがために、一同無言のうちに散開となった円卓は数知れない。祭りのあとの後のまつりにポツネンと、取り残された稲穂いわく

「こういうときはネェ、会話ではなく対話をしてルンだ。対話のほうがより、テメェの馬鹿さ加減が際立つってことなンだ。誰も彼も、真っ直ぐにならないって癇癪おこして手当てしないまま傷んでくンだ。だから耐性もないのに混沌に逃げこむようなことをする。真っ直ぐに線を引いて、何かが分断しやしないかと怯えている。弱い。弱いナァ」

「混沌の曖昧さは、ぬるくてあったかいがネェ、じわじわと人を腐らせる。涙はいつも、流れる端から疚しさに濁るンだ。アァ堪らない、濁度が増す。だから泣き顔を覗き込まれるのがネ、ボクは大っ嫌いナンだ」

稲穂とて、息を大きく吸うために限界まで息を止めるような、不毛を演じている自覚はあった。しかし稲穂には深呼吸のしかたが理解できなかった。うまくいかない後ろめたさに背中をおされるようにして、真っ直ぐ前にすすむ。うまくいかないほうへ、うまくいかないほうへと。そしてまた後ろめたさに背を押され… D.C.

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