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【声劇シナリオ】こどもと秋の坂道で

内容

◆ほのぼの
◆文字数:約2000文字
◆推定時間:10分

登場人物

◆オトナ:村の薬屋さん
◆こども:無邪気なこども

スタート


こども:「ねえねえ、おじさん。自転車の後ろに乗せってってよ」
オトナ:「だめだよ。警察に捕まっちゃうからね」
こども:「ここのチューザイさんなら乗せてくれるよ」
オトナ:「何やってんだあのおっさん……」
こども:「この坂道、自転車二人乗りすると、すっごいスピード出るんだよ」
オトナ:「そうじゃなくて、坂道をスピード出して下りると危ないでしょ? だからやっちゃいけないんだよ」
こども:「でも楽しいよ?」
オトナ:「怪我するかもしれないんだよ」
こども:「でも楽しいよ?」
オトナ:「死んじゃうかもしれないんだよ」
こども:「でも楽しいよ?」
オトナ:「全然引かないじゃん。坂道に取り憑かれてんのかよ」
こども:「だって楽しいんだもん」
オトナ:「楽しくてもだめ。夢中になりすぎだろ。将来が不安なるわ……」
こども:「しょうがないなあ。じゃあ、ゆっくりでいいから後ろ乗せてよ」
オトナ:「後ろは薬箱が乗ってるでしょ? そもそも乗れないよ」
こども:「今日は山ジイ、あんまり買ってくれなかったの?」
オトナ:「ん? そんなことないぞ?」
こども:「じゃあ、なんで空じゃないの?」
オトナ:「空になんて普通はならないんだよ」
こども:「エーギョー不足だね。ホケン屋さんなんだからもっと頑張らなきゃ」
オトナ:「うーーーーん、いっぱい間違ってるね。まず保険屋さんじゃないし」
こども:「えっ。でも、この村のホケンの先生でしょ?」
オトナ:「ああ、そういう間違いか。えっとお兄さんは薬屋さんなんだ」
こども:「あっ。知ってる! じゃあ、おじさんはヤクザイシさんなんだ」
オトナ:「うーーーーん、違うよ?」
こども:「じゃあ、おイシャさん?」
オトナ:「違うね」
こども:「違うの?」
オトナ:「薬学部にもいけなかったしね……。えっとね薬剤師さんよりも……ちょっと小さい仕事……かな? まあ薬屋さんだよ」
こども:「ふうん。ねえ、前のカゴには乗っちゃダメ?」
オトナ:「無邪気だなあ。ダメ」
こども:「ダメかあ」
オトナ:「ほら、帰るんだろ? 一緒に下りよう」
こども:「ヤクザさんは自転車乗らないの?」
オトナ:「うーーーーん、間違いだなあ」
こども:「何が?」
オトナ:「お兄さんは薬剤師でもないし、医師でもないし、ましてやヤクザでもないの。なるほどヤクザイシを小さくしたんだね。でも、俺は薬屋さん。OK?」
こども:「おじさんは薬屋さん。おっけー」
オトナ:「よし。それじゃあ、ゆっくり帰ろうか」
こども:「サボり?」
オトナ:「もう、配達はないから大丈夫なんだよ」
こども:「わかった!」
オトナ:「今日は山路さんの所で何してたの?」
こども:「これ! たくさん集めたんだ」
オトナ:「お、イチョウの葉っぱ」
こども:「綺麗なのだけを集めたんだ」
オトナ:「風情があるなあ。どんぐりは拾わなかったの」
こども:「どんぐりはもういい……」
オトナ:「ああ、山の洗礼はもう受けたか」
こども:「こないだお母さんにめちゃくちゃ怒られた。虫が入ってない綺麗なやつだけ山ジイに預けてる」
オトナ:「思い出したら、なんかポケットがムズムズしてきた」
こども:「でも、これは綺麗でしょ!」
オトナ:「おう、それはめちゃめちゃ綺麗だな」
こども:「ふふふふ……どうしてもというなら、売ってあげるよ」
オトナ:「むっ……そうだなあ。イチョウの葉っぱは何枚お持ちかな?」
こども:「えっと、二十枚……くらい!」
オトナ:「なら、五枚とこのちょっと温いならヤクルト一本と交換でどうだい?」
こども:「温いから八枚2本ちょうだい!」
オトナ:「商売上手だね。はいどうぞ」
こども:「ありがと。はい、葉っぱ。おまけで全部あげる」
オトナ:「え、あ、え……」
こども:「やっぱり一枚は持って帰る!」
オトナ:「あ、うん」
こども:「おじさん、オトナなのに葉っぱに目がないんだね」
オトナ:「うーーーーん……まあね」
こども:「こどもだなあ。はい、一本あげるね、ヤクルト」
オトナ:「奢られてしまった……」
こども:「温いけど、美味しい!」
オトナ:「無邪気だなあ」

オトナ:「この村は楽しい?」
こども:「うん、咳ももうほとんど出ないよ!」
オトナ:「そっか。よかったな」
こども:「うん、町よりずっと遊べるところがあって楽しいよ」
オトナ:「ああ、そっか。こども視点だとそうなるのかあ」
こども:「おじさんは町遊びの方がいいの?」
オトナ:「町遊びって言われるとなんかいかがわしいな」
こども:「イカガワシイ?」
オトナ:「なんでもないよ。あと、人混み嫌いだからここで十分楽しいよ。おじさんは」
こども:「あ、おじさんて認めた!」
オトナ:「おいこら、ついに譲歩してやったっていうのに」
こども:「んふふふ」
こども:「僕はここが好きだよ」
こども:「コンビニもないし、友だちも近くにいないし、学校に通うのもお母さんに送ってもらわなきゃダメだけど、ここはみんな僕と友だちになってくれるし、みんな僕と遊んでくれるもん」
オトナ:「うーん、確かになあ。楽しいってこういう童心みたいなのかもしれないなあ」
こども:「あ、遊びたいの? でももう僕そろそろ休まないと危ないかもしれないから。また今度遊んであげるね!」
オトナ:「そっか、じゃあ今度遊ぼうか」
こども:「その時は薬箱の中身全部売り尽くしといてね!」
オトナ:「たとえからにしてたとしても入れないから」
こども:「チューザイさんがこの山はチガイホウケンだからいいって……」
オトナ:「だから何やってんだ、あのおっさん……」


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