マガジンのカバー画像

掌編小説

22
運営しているクリエイター

#田舎

【掌編小説】草場の影の夢枕

 不快感を煮詰めたようなじっとりとした暑さがこの村には漂っている。季節が過ぎれば四季の移ろいとともにその不快感も流されるには違いない。しかし、私がここに来るのはこの時期だけだ。  梅雨。私はまだ約束を破れないままでいる。  かこん、と何度目かの鹿威しが落ちて響いた。静謐な空間に水を打ったような響き。だが、余韻は風化している。雨は一頻りの波を越えてさらさらと砂が流れる程度の微かな音で背景にある。虫は黙っている。離れた竹林のざわめきも馴染みきって新しくない。この庭と同じである。