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掌編小説

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#庭

【掌編小説】草場の影の夢枕

 不快感を煮詰めたようなじっとりとした暑さがこの村には漂っている。季節が過ぎれば四季の移ろいとともにその不快感も流されるには違いない。しかし、私がここに来るのはこの時期だけだ。  梅雨。私はまだ約束を破れないままでいる。  かこん、と何度目かの鹿威しが落ちて響いた。静謐な空間に水を打ったような響き。だが、余韻は風化している。雨は一頻りの波を越えてさらさらと砂が流れる程度の微かな音で背景にある。虫は黙っている。離れた竹林のざわめきも馴染みきって新しくない。この庭と同じである。

【掌編小説】切り株古墳の馴染む庭

 庭を掘り起こしていた。切り株を処理するためだ。  その木は家の外壁に近く、窓際に植わっていたので視線を遮るには丁度良い木だったのだが、如何せん近すぎた。伸びた木の根が地面押し込み、長い年月によってコンクリが割れたのだ。  僕にとってコンクリは石と同じようなものだから、それが根によって引き裂かれたなんてことは微塵も思いつかなかった。知識がなかったわけではないが、小さいひび割れが徐々に徐々に気付かないスピードで馴染むものだからそのひび割れがなかった頃を遡ろうにも思い出せない。破