かき揚げうどん

お寺で初めて食べたのは、かき揚げうどんでした。

お寺に到着したのがもう午後を過ぎていて

あっという間に夕飯の時間になりました。

食事を知らせる鐘が鳴り、修行者さんたちが集まってきます。

お寺での食事は、お話しはもちろん、音を立ててはいけないことになっています。

咀嚼音や食器の音なども極力たてないようにしなければなりません。

どうしてもぼりぼり音がなってしまうたくあんさえ、音を立てずに食べるのです。

はじめは、そんなの無理だと思ったのですが、口の中でふやかしたり、お湯でふやかしてから、ゆっくりと噛むと音はあまりたたないのでした。


ただ、うどんやそばをすする音は、たててもかまわないと

方丈様に教わり、食事部屋に向かいました。

見よう見まねで、なんとか食事をします。

大テーブルに並ぶ大鍋に入ったうどんと、大皿に乗った大量のかき揚げ。

それを見た時は、心の中で「わぁ・・・」と声をあげました。

こんなに美味しそうなの、食べていいのですか、と思いました。

無言で全てが進められていくのですが

大鍋におよぐうどんをすくってよそってくれる人から、うどんを受け取り、

右隣の人からまわってきたかけ揚げを、いくつか自分の皿に入れ、左隣の人にまわします。

食前のお経を皆で唱え、いただきます。

皆、ズルルーズルルーと音をたてて一斉に食べだしました。

男性ばかりで、食べるスピードが早かったと思うのですが

私も負けじと、ズルルーズルルーと必死に食べました。

とってもおいしかった。

なぜか、実家のごはんみたいな安心感がありました。

そのことに少なからず感動して

胸に抱えていた空洞が埋まっていくような

そんな心持ちになりました。


食事が終わって再びお経を唱え

後片付けをして部屋に戻りました。

私はふくれたお腹で畳に座り、天井を仰ぎました

外はもう真っ暗で、ここは知らない場所

一人ぼっちの女性部屋にのみ光が灯ります

お寺は静寂につつまれて

人の気配もありません

これからどうなるんやろ

つらいからここへ来たはずなんだけど

ご飯、おいしかったな〜〜〜

そんなことを思っていたんじゃないかと思います。



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