記事一覧
盃つまんで Vol.72
錫ちろり復活
一〇年も前、俳優の角野卓造さんにいただいたお燗用の錫ちろりは、以来、毎日の晩酌に不可欠の道具になった。形は徳利型。台所のガス台に深い琺瑯ポットで湯をわかし、ちろりの把手を肩にかけて沈めると、底もふくめてゆっくりと四方から温まる。差した温度計が四五~五〇度くらいで取りあげ、布巾で拭いて食卓に運び、少しずつ徳利に移し、徳利から盃に注いで一杯となる。ふうー、うまいのう。
盃つまんで Vol.71
納豆とサンバ(2)
居酒屋「かむなび」伊戸川さんの奥様・敏江さんは昔からサンバを踊るのが大好きで、その超派手な衣装の写真を見せてもらったこともある。浅草サンバカーニバル出場は初めて。ちょうど今日から一週間後の九月十七日が本番で、今は連日猛練習の仕上げに入ったそうだ。
「太田さん、来てくれる?」
「いくいく!」
1981年に始まった浅草サンバカーニバルはコロナでしばらくできなく、4年ぶりにそ
盃つまんで Vol.70
納豆とサンバ(1)
大阪の仕事の合間に、しばらく顔を出していない名居酒屋「かむなび」を訪ねた。広過ぎる大阪に方向音痴の私は自力ではたどりつけない。タクシーに「谷町六丁目」と告げ、後は外を見ているだけだが近所に着けばわかる。
乗ること二十分くらいか。おお、着いた着いた。このあたりは坂のある住宅街で、「かむなび」の前は広い児童公園。そろそろ夕方の西日の中を元気に走り回る子供たちを、若いママさんが「
盃つまんで Vol.69
春来たる
毎年正月を過ぎた一~二月は、外出や仕事は控えて心身のメンテナンスにあてる。昔この時期にロクでもないことが続き、これは私の周期なのだと思った。以来、人間ドック検査や歯の手入れ、仕事場の不要資料の整理などで、おとなしく毎日をすごす。昔やった仕事を見直したりするのもこの時だ。そうして三月三日、私の誕生日が過ぎるとゆるゆると始動する。
盃つまんで Vol.68
六十三年ぶりの同級会(2)
中学同級会は翌朝解散。次回は二年後だそうだ。
水戸から参加した体格の良い小林君はスポーツ万能の兄貴分で、二十年ほど前に水戸を訪れた時、会いに行くと喜んでくれ、ずいぶんご馳走になった。今回もそこから車で来て、帰りは東京まで乗せてやるぞと言ってくれたが聖高原駅で降ろしてもらった。昔のわが家、すぐ隣の筑北中校舎を見て行こう。
盃つまんで Vol.67
六十三年ぶりの同級会(1)
長野県の学校教師だった父は何度も県内転任があり、家族も引っ越しを繰返して、私も転校が続いた。それゆえ小中学の同級会はどこからも案内が来たことはなく、私は少しだけ在校して、その後行方がわからない人だった。
その私に、二年生で転校入学した東筑摩郡麻績村、筑北中学の昭和三十六年卒業生同級会の案内が来た。少し前に再会していた級友の小川原君が手配してくれたのだ。会場は「シェ