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夕方の電車はいつもより混んでいた。仕事帰りのサラリーマンや学生、買い物帰りの主婦や老人がぎゅうぎゅうと詰まっている。窓から見える景色は灰色の空と小雨に濡れたビルばかりだ。こんな日は早く家に帰って温かい食事をしたいと思う。

私は電車の中で本を読んでいた。ホラー小説だ。私はホラーが好きだ。人間の心の闇や恐怖を描く作品に惹かれるのだ。この本は私が最近気になっていた作家の新刊だった。表紙には血まみれのナイフと白い目玉が描かれている。タイトルは「目を見て」だ。

私は本を開き、読み始めた。物語は主人公が殺人鬼に追われるというものだった。殺人鬼は犠牲者の目玉を切り取って持ち去るという特徴があった。主人公はその殺人鬼に何度も遭遇するが、なんとか逃げ延びる。しかし、その度に殺人鬼は主人公に「目を見て」と囁くのだった。

本は緊張感があって面白かった。私は夢中で読み進めた。しかし、読んでいるうちに気分が悪くなってきた。頭が痛くなり、胸が苦しくなった。目も疲れてきた。私は本を閉じて、窓から外を見た。

すると、窓ガラスに何かが映っているのに気づいた。それは私の顔ではなかった。それは血まみれのナイフを持った男の顔だった。男は私に向かって笑っている。そして、口を動かして言った。

「目を見て」

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