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ノケモノの地下城40【長編小説】

 子どものころの、小さな、本当に小さな夢だった。
 この城の城主になりたい。
 偉そうにして、みんなに命令する。
 ーーえへん。この城の石垣を築いたのは、俺のご先祖様。石垣はお城の要。最重要基礎。その石垣を支える茶臼山と、茶臼山の地下の洞を守っているのは、俺。みんな城をありがたく思うなら、俺の言うことをよく聞くようにーー。
 きっとみんな大賛成。拍手喝采だ。幸人君は頭を撫でてくれる。秀ちゃんはすごいねって尊敬してくれる。
 幸人君と秀ちゃんは、暗い洞でも俺を見つけてくれる柔らかい光。俺の希望。俺の夢。
 だから……。
 俺は……。
 この洞を脅かす「龍」が許せない。
 洞に二筋の光が射し込んだ。
 朋広の顔を照らしたのは、
「姉ちゃん……」
 龍を守る姉。

 私は、今まで見たこともない冷たい表情のともに寒気がした。
 声をかけようとしたら、ともの手で口をおおわれた。
「幸人君、俺は、幸人君と秀ちゃんは好きだけど、蔵谷家と篠崎家は憎い」
 両方から光が寄ってくる。
 右側からゆっくり近づく衣川先生は、頭に何かのお面をつけている。左側の亜紀姉ちゃんは山崎さんに耳打ちしている。その二組のちょうど真ん中にいる私は、ともに口をふさがれて……。
「それから、龍も嫌い」
 龍……。
 口をおおっていた手が、すっと離れた。
 ともが走り出した。その先には、ずぶ濡れで湖上の社の前にたたずむ衣川洋子さんが見えた。

続く


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