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【小説】肥後の琵琶師とうさぎ12

  朝陽でぬくもった露草の雫が一滴、私の目の虚ろへこぼれ落ちた。雫は虚ろで溜まり、増え、ドロリとした球体になり、その虚ろを埋めつくし……。

目を開くと、その球体で世界を見ることができるようになっていた。
 私は草原で眠っていたらしい。ふところには毛玉のぬくもりがあった。
「おい、毛玉」
 人指し指で毛玉をつつくと、毛玉はのそりと起き上がり、相変わらずの悪態をつき、睡眠を邪魔したことを非難した。
「すまん。だが、なんというか……」
 ーーこれが世界か。
「極楽のな」
 毛玉が私の心を見透かして答えた。
「私たちは死んだのか……」
 そう言って、何か胸につっかえるものがあった。
 ーーそうだ。
「娘は」
 毛玉は遠くを眺め、ただ一言、
「来世で会えばいい」


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