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【小説】肥後の琵琶師とうさぎ8

 ーー産山の神様がお待ちかねです。早く戻ってきてください……。
 仔うさぎたちからの文を読んだトビキチは、すぐに返事を書いた。文は、雁が届けてくれる。
「頼んだぞ」
 雁が飛び立った。その姿が点になり、見えなくなったところで、後ろから琵琶の音がただよってきた。振り向くと、盲目が立っていた。
「今のは……」
 盲目の問い。撥が流れる。
 盲目の目は、点になって消えた雁を、あの手紙を見据えたように、弦が波打つ空振が鞭のように雁の足首に絡まり、それを手繰りよせ、きっと眼前に雁首そろえさせそうなほどで……。
 トビキチは、盲目の問いに答えようか、いや……、と迷いが生じた。
 ーー気にするな。
 こんな言葉、余計だ。意図的に思考の端に好奇心をちらちら泳がせることになる。本当に気にして欲しくないなら、言うべき言葉は……。
「お前のことだ」
 結局は、全て話してしまうことだ。


 

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