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【小説】肥後の琵琶師とうさぎ9

  ーーお前と娘の琵琶の音がいる。
 毛玉に、その仔うさぎたちの命を助けるためにと、とある山奥へ連れてこられた。娘も一緒である。
 山への出発前、どうやって娘を連れていくのかと問うたら、お前が撥を流せば勝手に現れると言われ、訳も分からず言われた通りに琵琶を弾いたら本当に娘が眼前に現れた。
「何なんだ。どうなっている」
 毛玉は、ただ琵琶を弾きつづけろと言うだけだった。
 そして、弾きつづけること一時間……。
 山奥の深い森を歩いていたはずが、突然視界が開け、草原が広がった。
 広い……。
 ススキがゆれている。
 季節は、秋か。
 お月見の夕暮れ。満月はまだ薄ら白く、黄金の輝きはススキにも稲穂にも負けているくらいで。
 ザアザアと風が鳴った。空が、濃紺の墨にじわりとおおわれる。
 毛玉が鼻をひくつかせ、空を見上げて問いかける。
 ー神様……。
 その時、私は唐突に思い出したのだ。目を、失ったときのことを。あの恐ろしい金神様を。

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