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スポ根アニメ3選~そしてスポ根アニメの終焉 / おたくGさんの覚書:アニメ編その4

 昨今でもスポーツを題材にしたアニメは人気が高く、大変面白い。映画で観た『THE FIRST SLAM DUNK』は感動に震え、『ハイキュー!!』や、ちょっと異色だが『ブルーロック』などは最近一気見したばかりだ。やはりスポーツはいつの時代も、どんな世代にも感動や喜びを与えるのだろう。私はオタクだが、スポーツはやるのも観るのも大好きだ。脚本家の倉本聰が言っていた。「どんなドラマもスポーツの感動にはかなわない」と。そのスポーツを題材にしたアニメが面白いのは必然だろう。それはまだテレビマンガと言われていた時代も一緒で、当時はスポ根(スポーツ根性)ものと言われ、秀作が多かった。その中で、当時スポ根ビッグ3と言われる『巨人の星』『あしたのジョー』『タイガーマスク』を敢えてはずし、私の推しとして選んだのが下の作品だ。特筆すべき点の多い、そして内容が濃く、何と言っても面白く熱くさせる作品群である。尚、特に順位があるわけではない。

選の一 『アパッチ野球軍』

とにかく強烈なキャラクターたち

 ♪俺たちゃ裸がユニホーム♪というフレーズから、伴奏もなく始まる主題歌はインパクトがあり、まさしくこのアニメの全てを語っている。あらすじは、理由あって野球を断念した主人公堂島剛が、社会から忘れられた過疎の村で、反社会的な不良少年たちに悪戦苦闘しながら野球を教え、一つのチームにまとめて最後には甲子園常連校のQL学園を破るまでを描く、まさに普通のスポ根ものだ。ただちょっと違うのは、原作が『細うで繁盛記』『どてらい男(やつ)』で著名な小説家・脚本家の花登筺であること。スポ根要素の詰まった中に、人間臭いえぐい内容がふんだんに盛り込まれ、人間形成ドラマの形も成している。

ホームランボールを捕るモンキー

 とにかく凄いのが出てくるキャラクターだ。個性的と言うか、かなり強烈で人間離れした野獣のようなものもいる。少年たちは網走、材木、モンキー、オケラ、コケラ、ハッパ、ダニ、大学、大根、コウモリとあだ名だけで本名はまったく出てこず、唯一、女生徒の花子だけが本名で呼ばれていた。中でも超人的で好きなキャラクターがモンキーだ。ずば抜けた身体能力の持ち主で、何と一人で外野すべてを守ることができる。たしか、自分で投げたボールをバッターボックスで打って、打ったボールを捕って返球し、ホームベースでキャッチするという一人野球を完成させていた。最終回のQL学園との試合では、9回にホームランボールをバックボードによじ登りキャッチしてアウト(ルール上ではアウトではなく、あくまでホームラン)にして勝利に導いている。本当にいたら、プロ野球、MLBどころか、スポーツ界全般で引手数多だろう。
 破天荒なキャラに加え、ほとんど野球のルールを無視しているところも面白い。異色の野球アニメとして今でも人気があるようだが、DVD-BOX以外でお目にかかることは難しいだろう。何しろ今でいう差別的で不適切な表現・描写・せりふのオンパレードである。タイトルのアパッチからしてどうなんだ?という疑問もある。
 ただ、ブラウン管からはみ出る様な、生命力溢れるパワーを持ったスポ根アニメであり、一見の価値はあると思う。きっとその生命力(パワー)を受け取ることができるであろう。


選の二 『空手バカ一代』

OPにも出てくる瓦割り

 極真空手の創始者であり、ゴッドハンドと呼ばれた大山倍達がモデルのアニメである。原作の主人公は大山倍達なのだが、アニメでは何故か「飛鳥拳」となっていて、実際生活なども実物とは異なっている。他の登場人物も実名ではなく変名となっていたり、登場しなかったりしている。原作通りだと少々スポ根というより伝記に近いのだが、アニメでは鍛錬し、強敵を倒しながら成長していく過程が描かれた。さらに少年向けということもあり、常に倒す相手は悪い奴で勧善懲悪の要素が強く、主人公がヒーロー化されていたようだ。時折挿入される極真空手の実写映像は、真実味を増幅させわくわくさせてくれた。
 今では空手もオリンピック種目の一つとなり、メジャーになったが、当時空手はマイナーなスポーツいうか武道だった。おそらくこの『空手バカ一代』のヒットが空手の人気を高めたのだろう。特に直接打撃する極真空手は最強なのではないか、とスポットがあたり、普及に大きく影響した。


弟子に稽古をつける飛鳥拳


 スポ根アニメを観ると、不思議にそのスポーツがやってみたくなる。実際有名なスポーツ選手がアニメを観て始めたというケースはけっこう多く聞く。『空手バカ一代』も男の子としては強くなりたい一心から、やはりやりたくなった。と言っても本格的に始める前に真似るだけなのだが。ただ、瓦割りやら飛び蹴りやら、真似て怪我する輩が多かったらしく、エンディングの後には「空手は危険な遊びなので注意しましょう」的なテロップが必ずながれていた。まあ、観ただけでも強くなった気になれる、そんなスポ根アニメである。


選の三 『ミュンヘンへの道』

アニメ画像は非常に少ないので実写の方で

 まず、この作品はスポ根ではあるが純粋なアニメではない。アニメとドキュメンタリーが合体したアニメタリーと呼ばれるもので、これ以前には太平洋戦争を題材にした『決断』というけっこう骨太な作品があった。そもそもこの作品は、アニメの企画としてたちあがったのではなく、事の発端は、当時日本男子バレーボールの監督だった松平康隆が、ミュンヘンオリンピック前に自らコラボ企画として、TBSに持ち込んだことから始まっている。局側としては、コラボはよいが本当に金メダルをとれるのか?という懸念があったことから、視聴率獲得のため、アニメと組み合わせるならという条件で、企画は進んだ。
 だが懸念材料はすぐに形となって表れてしまう。「日本のコンピュータ」であり、「世界一のセッター」と言わしめた全日本不動の正セッター猫田勝敏が、練習中に右腕複雑骨折という怪我をしてしまい、ミュンヘンオリンピック出場は絶望的な状況となってしまったのだ。猫田の正確なトスは、今や当たり前となったクイックや時間差攻撃など、オープン攻撃ばかりのバレーボールに革命を起こしていた。後に松平監督は「猫田がいなければ金メダルは目指さなかった」と言っている。猫田無くして金メダルはあり得ないと、TBSも難局を示す中、全日本は猫田が戻ってくると信じ、逆に奮起し、その様子は放送が始まった『ミュンヘンへの道』の中でも見ることができた。ひたむきな選手達を視聴者は応援し、男子バレーボールの注目度は松平の思い描いたように増していった。

世界一のセッター


そして、長いリハビリを終え、オリンピック開催約2ケ月前、猫田が戻ってくる。興奮して報告する松平のインタビューは今でも忘れない。『ミュンヘンへの道』はオリンピックで男子バレーボール競技が始まる1週間前に終了。余韻が残る中、見事に優勝、金メダルを獲得するに至った。その輝かしい栄光は記念番組として製作された『ミュンヘンへの道 総集編(特別編)』でも描かれている。
 日本中を沸かせた男子バレーボールと、その軌跡となったアニメタリー『ミュンヘンへの道』、だがミュンヘン以降、残念ながら男子バレーボール日本代表は、一度も表彰台に昇ったことはない。

スポ根アニメの終焉

 1973年に放送された『空手バカ一代』、『侍ジャイアンツ』を最後に、スポ根アニメは急速に衰退していく。社会の変化、時代の流れに埋没していく感じである。努力・根性という精神主義への偏見、批判。スポーツに科学理論が持ち込まれはじめ、指導法なども変化の兆候を見せ始める。70年代後半は『キャプテン』など、スポ根的な名残はあるものの、登場人物は等身大となり、オーバーな演出は消え、よりリアルな内容となった。
 80年になると、努力・根性・熱血は格好悪いとされ、ギャグやラブコメ要素でカモフラージュするようになる。何より、スポーツに対する価値観が「苦しさ」から「楽しさ」に変わったことだろう。その代表作が『キャプテン翼』かもしれない。主人公のサッカーをする楽しさ、発想の転換により、ライバルの根性・努力の精神主義に勝利するのだ。

ボールは友達という翼


 確かにスポ根アニメは終焉したかもしれない。だが、アニメと言うフィクションの世界だからであって、スポーツの本質は基本的には変わらないように思う。頂点に立つような選手は、合理的になったかもしれないが、やはり血のにじむような努力・練習をしているのではないだろうか。そして情熱・根性が無ければ継続できるものではないと私は思う。

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