見出し画像

ガンダム完全講義36:第13話「再会、母よ…」解説Part3

 岡田斗司夫です。

 今日は、ニコ生「岡田斗司夫マンガ・アニメ夜話」2019/12/17配信分のテキスト全文をお届けします。

----

本日のガンダムマンチョコ開封

 こんばんは、岡田斗司夫の『機動戦士ガンダム』完全講座、今日はもう36回になりまして、第13話「再会、母よ…」の3回目をお届けします。

 3回目ですから、ようやっとAパートの終わりくらいまでお届け出来る感じですね。

 では早速、最近、恒例になっているガンダムマンチョコの開封に行ってみましょう。

 これ、毎回オープニングでガンダムマンチョコを開封して、何が出て来るかわからない中、それに関して1つウンチクを語るという「なぜこんな恐ろしいことを始めたんだろう?」という、自殺めいたコーナーなんですけど。

(袋を開ける)

画像1

【画像】ガンダムマンチョコシール ©創通・サンライズ ©LOTTE/ビックリマンプロジェクト

 ……あ! すげえ! ついにガンダムが出ました!

 ああ、なんか嬉しい。いや、当たり前かもしれないんですけど、「ガンダムが入ってなかったらどうしようか」と思ってたんですけど、いやあ、出ましたね、ガンダム。

 それでは、シールの裏のメッチャクチャ細かい字で書いている解説文を読んでみましょう。

----

> 地球連邦軍の科学技術を結集し開発された白兵戦用モビルスーツ! 操縦士アムロがニュータイプ覚醒しジオン軍迎撃す!!

----

 と、書いてあります。

 「白兵戦」という軍事用語が、ごくスラッと入っているところ。この辺から『機動戦士ガンダム』って恐ろしいんですけど。

----

> 【地球連邦軍のウワサ】
> ザクを参考に開発されガンタンク、ガンキャノンに次ぎ誕生の連邦軍MS(モビルスーツ)とか?!

----

 と、書いてあります。

 『機動戦士ガンダム』というのは、一番最初に企画された時に、ガンタンク、ガンキャノンと、上半身・下半身をスポスポ変えて、まあ変形ではないまでも、合体がいろいろ楽しめる、あくまでオモチャのロボットとして企画されたわけですね。

 その上に、富野由悠季が色々と盛り込んで行ったので、このアニメを見ている人達は「これは合体モノのロボットである」ということを完全に忘れて、人間ドラマであるとか、軍事的な話であるとか、政治モノである、青春モノであるというふうに見ているんですけど。

 ところが、やっぱり『機動戦士ガンダム』のテレビが放映されて、プラモデルがバカみたいに売れて、後に劇場版までヒットをした時に、やっぱり世間のマスコミは、それにワーッと飛びつくわけですね。で、こういう時に彼らが参照するのは「プレスキット」なんですよ。

 プレスキットというのは、テレビ番組が放送開始する3ヶ月前とか6ヶ月前に、地方局への営業をするために作られた番組用のプレゼン資料なわけですね。で、『ガンダム』の本放送の3ヶ月前とか6ヶ月前に作られたプレゼン用資料となると、もう普通に「合体ロボ」みたいなことを書いてあるわけですよね。

 なので、当時の新聞記者さん達は「『機動戦士ガンダム』がヒットしてる。子供達が並んでる。プラモデル屋の前に徹夜で行列が出来てる。映画館にも行列が出来てる。なぜだ?」ということで、まあ、並んでる子供達からも話を聞くんですけど。「まずは正確な資料を仕入れよう」と思って、このプレスキットを取り寄せるわけです。そうすると、プレスキットには「合体ロボ」みたいなことが書いてあるんですね(笑)。

 それが、当時の新聞記事のチグハグさを生んだという笑い話みたいなことがあったんです。当時、僕も「なんで、テレビとか新聞やラジオは、こんなトンチンカンなことを言うんだ! ちゃんと調べてくれよ!」と思ったんですけど。大人になってわかった彼らの事情というのは「ちゃんと調べたからこそ、トンチンカンなことになったんだ」と。

 そんな、誰にも責任があるわけじゃないという、まあ昭和時代のおもしろ話でありました。

 さて、今日は第13話「再会、母よ…」の3回目です。

 前回から話しているように、この「再会、母よ…」というのは、日常演技の集大成として作られているわけですね。

 作画的には、なかなか残念な部分も多いんですけども、とにかく日常演技がすごい。レイアウトがすごい。作画のところどころ入っている安彦さんの修正や、あとは作画スタッフの頑張りがすごいんです。

 今回の無料放送では、まず、「アニメにおける日常演技とは何か?」ということを説明してから、撃墜される瞬間のルッグン偵察機に乗ったジオン兵や、あとはお母さんと再会した時のアムロの表情変化などを例にとって、解説しています。

 いつもの通り、無料の終わりでは、もうちょっと追加の解説をしようと思います。

 それでは『機動戦士ガンダム』講座、第36回、「再会、母よ…」3回目をご覧ください。では、スタート!

「日常演技」の奇跡的なシーンに必要な3つの要素

(本編再生開始)

 はい、岡田斗司夫の『機動戦士ガンダム』講座、第13話「再会、母よ…」のパート3ですね。

 今回は『機動戦士ガンダム』のテレビシリーズの中でも、日常演技に注目してほしい回なんです。

 しかし、テレビアニメで日常演技に注目するというのは、なかなかちょっと珍しくて、難しい。大げさな演技で「あっ!?」とかだったらわかりやすいんですけど、この日常演技というのは、「目線がどこに行っているのか?」とか「顔の表情が左右非対称になっている時には、必ず何か意図がある」とか、そういう見方をしなきゃいけないんですね。

 実写の人間の演技だったら、僕らは人の表情というのを見慣れているから、ちょっとでも動いたらハッと気がつくんですよ。日本人じゃなくても、外国人の演技でもわかるんですけど。

 だけど、アニメの場合は絵ですので、絵描きの人が例えば「人間は怒った時はこういう表情をする」というふうに線で描いた物を見て判断しなければいけないんです。つまり、ある人間にとっての感情というのが、一度抽象化されて、それがその人の絵という表現で出て来る。それを僕らは、もう一度、絵という表現を通して、自分の頭の中で「こういう意味だ」と再構築しなきゃいけないんですね。

 なのでハマった時は、もう、ものすごくハマってわかりやすいんですけど、ちょっとでも見失っちゃうと、よくわからなくなっちゃうんです。

 それが怖いから、あまりアニメーションで日常演技というのはしないんですよ。どちらかと言うと、極端な演技とか、あとは声優さんに頼ってしまう。

 アニメの悪役を演じる時に、声優さんが舞台劇みたいに「お前達の~!」とか「アーッハッハッハ!」という声をあげたりするのはなぜかと言うと、別に「みんな、ああいう陳腐な演技が好きだから」じゃなくて、アニメーションというものにはある種の制限があるからです。

 アニメというのは「まず、本当の物があって、そのイメージをベースに絵描きが描いて、その絵を僕らが読み取って、脳内で感情を再構築しなきゃいけない」というふうに、普通の演劇とか映画に比べて、1プロセス丸々多いんですね。

 なので、こういった日常演技を、アニメの中で、それも『機動戦士ガンダム』みたいに予算の低いテレビアニメの中でするというのは、かなりのチャレンジなことだったと僕は思っています。

・・・

 さて、「再会、母よ…」です。

 前回までの講義で、この位置まで話しました。

(パネルを見せる)

画像2

【画像】2機のルッグン ©創通・サンライズ

 『機動戦士ガンダム』には、ホワイトベースという、みんなが乗っている宇宙戦艦みたいなのがあるんですけど。この船に乗っている人たちというのは、決して仲がいいわけではない。なんせ、戦争に負けた難民ばっかりが乗っているような船なので、「その中でどうやって生き残るのか?」ということで、お互いに揉めて揉めて。この時点で「ようやっと足並みが揃い出したかな?」くらいの感じなんですね。

 それが、南の島に……まあ、「南の島」って言っても、日本の南の方で、どうも瀬戸内海らしいんですけど。そんなところに着陸して、アムロ君は故郷に帰っているんだけども、敵であるジオン軍の包囲網は、そこら辺まで伸びているという、緊迫感のあるシーンまでを、前回、説明しました。

 前回のラストで、てっきり、久しぶりに田舎に帰ってお母さんに会えると思って喜んだアムロ君は、丘の向こうの方に自分の家が見えてきたので、バーッと走って行ったんですけども。すると、そこは、味方のはずの連邦軍の兵隊に占領されていて、屋敷の中は荒れ果てて、酔っぱらいの連邦軍がゴロゴロいる状態だったんですね。

 そんな中で、「もう僕のお母さんは死んだのか……」と思っていると、隣の家のおばさんに「お母さんには会ったのかい? 難民キャンプでボランティアしているよ」と言われて、アムロ君は喜びのあまり、森の中へパーッと走って行く。

 その次のシーンがこれなんです。かなりの高度のところを飛んでいるジオン軍のルッグンという偵察機ですね。

 まああのやっぱり僕が着目しているのは、こういうふうに偵察機を飛ばす時も「2機編隊で飛ばす」という演技をさせているところなんですね。

 なぜ、これが2機編隊になるのかと言うと、やっぱり、1機だけだったら表情をつけようがないからです。人物も、1人だけで出てくるよりは、もう1人いた方が対話も出来るし、動かしやすい。

 ピン芸人より漫才師の方が、やっぱりドラマは作りやすいし、コントを作る人というのは、3人でやりたがるんですよ。やっぱり、お話を転がすには、3人は欲しい。最低限、2人でも出来るんだけど、1人だったら、もうほぼモノローグになってしまうんです。

 ここで出て来る飛行機も、たった1機しか出てこなかったら、展開を作るのがちょっとシンドいので、ここでは2機、出しています。

 一番最初、青空を飛んでいる1機の飛行機がポンと映った瞬間に、もう1機がフレームインしてくるんです。おまけに、その飛行機にも、コックピットの部分がアップになると、パイロットが2人ずつ乗っている。

 こんなふうに、必ず対話の演技というのをさせるようにしています。

 この飛行機の中で、ジオン兵がこんな対話をしています。

----

> ジオン兵A:これも任務さ。こちら、ルッグンスリー。304地区、異常なし。
> ジオン兵B:了解。

----

 この会話でわかるんですけど、この偵察機に乗ったジオン兵は「異常なし」と言うから、もう、これから帰ろうとしているんですね。

 ところが、ホワイトベースの中では別のことを考えます。

 まだ経験の浅いブライトさんはこう言うんです。

----

> ブライト:敵の本体に連絡されては面倒になる。先手を取って叩き落とす。

----

 あの、偵察機がレーダーに入っただけで、このまま見過ごしていれば、たぶん、今回の話は何も起こらなかったんですね。放っておいても、この偵察機は「異常なし」と言って帰るところだったんです。

 だけど、前回くらいから、アムロ君の調子がいいもんですから、彼も段々図に乗ってというか、調子に乗っているんですね。

 その結果、「先手を取って叩き落とす」ということで、リュウさんという、アムロ君の先輩にあたるちょっと小太りの兄さんに、コアファイターという飛行機に乗って発進してもらいます。

 なんかね、最近、「岡田さんの話はわかりやすいんだけど、アニメの話をする時、もうちょっと状況説明をしてくれ」と言われることが多くなってきたので、今回はストーリーをいちいちちょっとずつ説明しています。

・・・

 ということで、やらなくてもいいのに、偵察機を撃墜にしに行きました。偵察機は1機、撃墜されてしまいます。

(パネルを見せる)

画像3

【画像】撃墜されるルッグン ©創通・サンライズ

 さっきの構図のまま「うわあっ!」って言ってますけども。やっぱり上手いのは、こうやって敵の偵察機を撃墜する時にも、撃墜される側の恐怖を描いているんですね。

 「うわあっ!」と人が叫んで、コクピットが火に包まれ落ちて行く飛行機と、それを見上げているもう1機の飛行機。さっきまで2機映っていた内の1機のやつらが上を見上げると、目の前で仲間の飛行機が落とされる。そうすると、もう次は自分達の番だから、こいつらは必死で逃げる。こういうのが描かれているんです。

 これも、僕は日常演技の1つだと思うんですけど。こういうシーンというのは、ある種の奇跡みたいなものだと思うんですね。たまたま3つの要素が揃わないと、出来ないことなんです。

 まずは「飛行機のデザインが良かった」ということ。こういうふうに、窓を思いっきり大きく取って、外から中に乗っている人間が見えるデザインでないと、この構図というのは出来ないんですね。

 次に「構図に工夫があった」ということ。これも、いろんな構図が考えられるんですけど、「彼らの顔をちゃんと見せよう。位置関係を見せよう」という構図になってくると、もう、これしかあり得ないんです。

 僕らは完成品を見ているから、「そうだろうな」と思うんですけど、いざ自分がアニメーションのコンテを切る(脚本から、どういう絵にするか決める)時、こんな構図、なかなか思いつかないんですよ。あまりにも正解すぎて、見たら当たり前のように思っちゃうんですけど。

 3つ目の要素は「演出家に、落とされる敵側の心理を描こうという信念がある」ということ。これがないとダメですね。

 今回は、徹底してアムロ君の心の変化というのを追いかけるエピソードなもんだから、普通、その他のことというのは、ついつい疎かになるんですよ。疎かになって当たり前なんですよね。

 「連邦軍のだらしない姿」というのを、今回、初めて見せるし、「それに対して、ジオン軍がどのように避難民を統率しているのか?」というのも見せるので、もう、表現しなきゃいけないことが山盛りにあるんです。

 なので、本来は、ここでこいつらの恐怖まで描かなくてもいいんですけど。これを描くと、「ジオンが偵察に来てた。ホワイトベースがそれを撃ち落とした」という単なる状況説明に過ぎないシーンに、すごい感情が生まれるんですよね。

 2機のジオンの偵察機の内、片方の飛行機が爆発して、もう1機の偵察機との銃撃戦が始まります。その結果、リュウさんという人の乗ったコアファイターは、アムロの生まれ故郷の方へ飛んで行くことになる。

 これが、まあ、ドラマのお約束。不幸な偶然というのが生まれるわけですね。このおかげで、今回のドラマというのは速度を増します。単なるアムロ君の里帰りの話が、どんどん加速して行って、大状況を生んでいく話になります。

日常演技で見る「アムロの表情」

 アムロ君は、その頃、コアファイターという飛行機に乗って、赤十字マークのある建物のところへ近づいて行きます。

 で、「ここだ、ここに母さんが。」というふうに言って、コアファイターを着陸させるんですね。

 すると、子供達がコアファイターの周りに寄って来ます。

 僕、これも、最初に見た時は「ありがちなシーンだな」と思ったんですけど。この「子供達が寄ってくる」とか、子供達の感情というのも、全体の大きい流れを作ってます。

 ここでの子供達は、もう本当に純粋に「かっこいい!」と言って走って来るんですね。だけど、子供達は軍人に憧れているのかと言うと、そうでなくて、後で出てくるジオン兵とか、ジオンの武器みたいなものには反発を示すんです。

 なので、「難民キャンプといいながらも、実はそれはジオンに占領されたかつての連邦軍の土地であった」ということが、ぼんやりとわかるようになっているんですね。この辺の演技付けはすごく細かいです。

 アムロ君がコアファイターから降りる時に、安全ベルト、シートベルトを締めているんですけど、それをカチャッと外すシーンがあります。

 これも、今見ちゃうと当たり前なんですけど。僕が知っている限り、ロボットアニメでシートベルトしているのって『ガンダム』が初めてなんですね。それまでのロボットアニメって「普通に椅子に座っているだけ」だったんですよ。

 僕らは「シートベルトくらい当たり前だ」って思っちゃうんですけど、このシートベルトがあるからこそ、『ガンダム』というのは、リアリティのレベルが上がっているんです。

 驚くべきことは、アムロ君が操縦席から降りる時、ごく自然にシートベルトを外して、それがシュッと引き込まれるということ。これをね、毎回毎回、忘れずに描くって、かなり面倒臭いんですね。それはもう、演出家が1回1回指示しないと、本当に作画の人間というのは、シートベルトくらい、面倒臭いからすぐに省略しようとしたり、忘れたフリをして描かないようにしちゃうんですけど。

 そこら辺をちゃんと描いているのがすごいなと思いました。

 アムロ君がお母さんを探して走り出そうとすると、すぐに周りを難民たちに囲まれます。

 子供達は無心に「わー! 新しい飛行機だ!」と思って近寄って来たんですけど、老人達の態度は、なんか変なんですね。

 と、同時に、変な状況に気付きます。まあ、アムロ君は気がつかないんですけど、見てる僕らは気が付くんですね。

 ここ、「難民キャンプ」と言いながらも、老人と女の人と子供しかいないんですね。

 若い男が誰一人いない難民キャンプ。これが意味することは「男はみんな、強制労働キャンプに連れて行かれているか、戦争があった時に全て殺し尽くされたか」なんですよ。

 そうすると、前回、アムロ君と隣のおばさんの会話、「そうか、コミリーは死んだのか……」とアムロが幼馴染の名前を言うと、「娘だけじゃないよ。主人もね、あたしだけ生き残るなんて因果なもんさ」というセリフが、段々と活きてくるんですね。

 この村は戦場の跡なんだけど、戦場の跡というのはどういう意味かと言うと「生きている人間が女子供老人しかいない」と。そういうことが、この難民キャンプの状況全体でわかるようになっています

・・・

 しかし、この避難民たちは、ジオン軍に反感を持っている人達のはずなのに、アムロを歓迎しません。

----

> 老人:あの山の向こうには敵の前線基地があってな、1日1回見回りに来るんじゃよ。

----

 つまり、「ジオンがしょっちゅう見回りに来るから、お前はさっさとここから出ていってくれ」とか言われるんですね。

 「そう言われても……」と、アムロが当惑してると、取り囲んでいる村人の向こう側にお母さんが現れます。

----

> カマリア:……アムロ? アムロなのね?
> アムロ:か、母さん?

----

 僕ね、この時の表情変化が好きなんですけど。

 一番最初に「アムロなのね?」とお母さんが言う。お母さんの方は、ハッキリと「息子をみつけた」と言うんですね。すごい遠くの位置から、もう10年も会ってない、別れた時は4、5歳だった息子が、14、5歳になっているわけなんですけど、母親は流石に遠くから一発で見つける。

 でも、アムロ君は「母さん?」と振り返りながら、声がしたから振り返るんですけど、まだこの顔なんですね。

(パネルを見せる)

画像4

【画像】アムロの表情 ©創通・サンライズ

 そんなアムロの顔は、母親だということがハッキリとわかってから、「母さん!」ということで、こうなるわけです。

(パネルを見せる)

画像5

【画像】アムロの表情 ©創通・サンライズ

 さっき話したですね、その日常演技というのは、このレベルを読み取らなきゃいけないんですよ。

 まず、顔の左右が非対称なことにご注目ください。これは「普通の顔を描こうとしてないから」なんですね。表情が変わっている最中とか、その人間の中にためらいがある時に、上手い人間であれば、やや左右非対称に描くんですよ。

 これ、下手な人間がやっちゃうと、片眉だけ吊り上がって「はーん?」みたいな顔になっちゃうんですね。だから、あんまり下手な人間はやっちゃいけないんですけど。たぶん、これを描いているのは安彦さんだと思うんですけど、安彦さん自身がやると、すごく上手い。

(パネルを見せる)

画像6

【画像】アムロの表情 ©創通・サンライズ

 これが「母さん!」とハッキリ気がついたアムロの表情です。右の目がようやっと落ち着いて、左の目だけが見開かれた状況になってます。

 これだけ見るとちょっと変な顔なんですけども、このまま目のニュアンスだけが変わって、喜びの顔というふうに口がハッキリ開いて、目を両方見開いているんですけど、やっぱり、お母さんを最初に見つけた側の左目だけが大きく開くという。

 こういうのを見つけて喜ぶというのが、アニメの日常演技の見方というやつです。なかなか面倒臭いんですけど(笑)。

(本編中断)

アニメの演技とドラマの進め方、安全ベルトの補足

 はい、お疲れさまでした。無料はここまでです。

 ちょっと追加の話をしますと、最後の方で見せた「アムロの顔の左右非対称な感じ」というのは上手いですよね。

 というのも、アニメの演技というのは「口角が上がってる」とか「目を閉じている」とか、そういう大きい動きだったら見分けられるんですけど、アニメの中でやっている微妙な演技というのは、やっぱり見ている人もなかなか見抜いてくれないんですね。

 なので、『アルプスの少女ハイジ』の時も、高畑さんは、アルムおんじとかそういう人に微妙な感情の演技をさせる時、レイアウト、構図でやっていたわけです。つまり、「落ち込んでいる時はやや下を向かせて、ハイジが嬉しい時は上を見上げる」というような、構図とかレイアウトで表情を付けていたんですけど。

 それに対して、『機動戦士ガンダム』は、出来るだけ作画の力で表情を付けようとしているので、こうやって左右非対称にすることによって、その人の気持ちが微妙に変わっているところを表現したというのが、まあ、すごいなと思いました。

 あと、最初の方で「3人出てこないと、なかなかドラマが進まない」という話。

 ルッグンというジオンの偵察機が、なんで2機も出てくるのかと言うと、1機だけよりも2機の掛け合いにした方が、説明が上手く進むし、広がりが生まれるという話をしたんですけど。実際にそうなんですよね。

 ベストを言えば3なんですよ。お話を転がすのに最低限の人数って、やっぱり3人と言われてて、コントをやる人達に3人グループが多いというのも当たり前なんですけど。

 これを突き詰めると、NHKの教育テレビの『にこにこぷん』になるんですね。『にこにこぷん』というのは、じゃじゃまる、ピッコロ、ポロリという3人が出てきて、もうこの3人だけで10年くらい、ずーっと毎日毎日、10分くらいのドラマをやってたわけですよ。よく出来たなと思うんですけど。

 他にも、例えば、ぷんぷん火山とか、あとは、くいしんぼうのクマとか、他のキャラクターも出て来るんですけども、ほとんど音だけなんですよね。くいしんぼうのクマに至っては、もう「ウォーッ!」という声が聞こえるだけで、一切出番がないんです。だから、本当に、じゃじゃまる、ピッコロ、ポロリの3人だけでずーっとドラマを転がしてたんですけど。

 流石に、NHKの脚本家も、この3人のドラマには限界を感じたらしく、『にこにこぷん』が終わった後、すぐに始まった『ドレミファ・どーなっつ!』では、いっぺんに7人もキャラクター出したんです。ところが、7人は7人で扱いかねて「そのうち2人は双子」って設定になったんですけども(笑)。

 まあ、本当に、最低限、3人なんですね。3人いれば、だいたいどんなお話も実は作れるというふうに言われていますね。

 あとは、解説の中で触れた、安全ベルト。「安全ベルトをロボットアニメの中で初めて締めたのは『ガンダム』だ」と話したんですけども。

 僕も、あの後、「ちょっと待てよ? 『勇者ライディーン』でも締めてたんじゃないか? 『ザンボット3』でも締めてたんじゃないか?」と思って調べたんですけど、『勇者ライディーン』でも締めてなかったような感じがするんですね。

 いや、動画を全部見たわけではないんですけど。静止画で、ちょっと検索して見た限りでは、『ライディーン』は……よく考えりゃ、コクピットの中でアクロバティックにガンガン身体が動くから、締めてられなかったかもわからないんですけど。『ザンボット3』も、案外、締めてないんですね。

 やっぱり、コックピットの中に座った瞬間に、シートベルトを締める動作をするのって、流れを崩すことになるので入れられなかったっていうこともあるかもわかりません。

 いや、これ、僕、今、記憶で話しているので、全話数を見たら、ちゃんと締めているのがあるかもわからないんですけど。

 まあ、そこら辺も「きちんと毎回毎回、締めてた」という部分で、『機動戦士ガンダム』というのは画期的な作品だったというお話であります。

 それでは、ここから後半が更に15分くらい続きます。

 では、後半をスタートしてください。

ゼミ、マンガ・アニメ夜話 電子書籍販売中!

AmazonのKindleストアで、岡田斗司夫ゼミ、岡田斗司夫マンガ・アニメ夜話の電子書籍を販売中です(「岡田斗司夫アーカイブ」でもご覧いただけます)。

【ジブリ特集】

・岡田斗司夫ゼミ#311:宮崎駿の最高傑作『On Your Mark』解説[前編]

・岡田斗司夫ゼミ#312:宮崎駿の最高傑作『On Your Mark』解説[後編]

https://www.amazon.co.jp/dp/B082V7V19R

・岡田斗司夫ゼミ#306:『千と千尋の神隠し』を読み解く13の謎[前編]

・岡田斗司夫ゼミ#307:『千と千尋の神隠し』を読み解く13の謎[後編]

https://www.amazon.co.jp/dp/B081R537FS

・岡田斗司夫ゼミ#212:『天空の城ラピュタ』完全解説① 〜超科学とエロス

https://www.amazon.co.jp/dp/B07XPTT676

・岡田斗司夫ゼミ#213:『天空の城ラピュタ』完全解説② 〜幻の産業革命が起こった世界

https://www.amazon.co.jp/dp/B07XPT5L55

・岡田斗司夫ゼミ#297:『天空の城ラピュタ』完全解説③ 〜スラッグ渓谷とポムじいの秘密

https://www.amazon.co.jp/dp/B07XPM5C91

・岡田斗司夫ゼミ#296:『崖の上のポニョ』を精神分析する〜宮崎駿という病

https://www.amazon.co.jp/dp/B07XCTJSPJ

・岡田斗司夫ゼミ#298:『崖の上のポニョ』はどうやって生まれたか 〜空想で現実を書き換える

https://www.amazon.co.jp/dp/B07Y1WVXSY

【月着陸特集】

・岡田斗司夫ゼミ#269:恐怖と贖罪のホラー映画『ファースト・マン』完全解説

https://www.amazon.co.jp/dp/B07VPW46ZB

・岡田斗司夫ゼミ#258:アポロ計画と4人の大統領

https://www.amazon.co.jp/dp/B07VS3K6SW

・岡田斗司夫ゼミ#250:白い悪魔“フォン・ブラウン” 対 赤い彗星“コロリョフ” 未来をかけた宇宙開発戦争の裏側

https://www.amazon.co.jp/dp/B07VMS997D

・岡田斗司夫ゼミ#291:アポロ宇宙船(前編)〜地球が静止した1969年7月21日とアポロ11号の打ち上げ

https://www.amazon.co.jp/dp/B07VX6D6VH

・岡田斗司夫ゼミ#292:アポロ宇宙船(後編)〜月着陸と月面歩行

https://www.amazon.co.jp/dp/B07W59YB8L

【岡田斗司夫ゼミ】

・岡田斗司夫ゼミ#287:『アラジン』特集、原作からアニメ版・実写版まで徹底研究!

https://www.amazon.co.jp/dp/B07TVBZQ8J

・岡田斗司夫ゼミ#288:映画『君の名は。』完全解説

https://www.amazon.co.jp/dp/B07V5LX7F5

・岡田斗司夫ゼミ#289:NASAとLINEの陰謀、スパイダーマンをもっと楽しむためのガイド

https://www.amazon.co.jp/dp/B07VC4QFBP

・岡田斗司夫ゼミ#290:『進撃の巨人』特集〜実在した巨人・考古学スキャンダルと、『巨人』世界の地理

https://www.amazon.co.jp/dp/B07VHH4PGP

岡田斗司夫ゼミ#293:『なつぞら』特集と、『天気の子』解説、“禁断の科学”の話

https://www.amazon.co.jp/dp/B07WGJG52X

・岡田斗司夫ゼミ#294:『千と千尋の神隠し』の不思議な話と、幽霊、UFO、怪奇現象の少し怖い話特集

https://www.amazon.co.jp/dp/B07WSKDM2G

・岡田斗司夫ゼミ#295:終戦記念『シン・ゴジラ』特集、「ゴジラと核兵器」

https://www.amazon.co.jp/dp/B07X3ZJN6S

・岡田斗司夫ゼミ#299:『Dr.STONE』元ネタ『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』徹底解説!

https://www.amazon.co.jp/dp/B07YCL5FMY

・岡田斗司夫ゼミ#300:雑談スペシャル&視聴者からの悩み相談

https://www.amazon.co.jp/dp/B07YMVF47K

・岡田斗司夫ゼミ#301:『なつぞら』総決算+マンガ版『攻殻機動隊』解説 第3弾

https://www.amazon.co.jp/dp/B07YWWZ2PX

・岡田斗司夫ゼミ#302:味を超越した“文化としてのハンバーガー論”

https://www.amazon.co.jp/dp/B07Z516LQX

・岡田斗司夫ゼミ#303:映画『ジョーカー』特集&試験に出るバットマンの歴史

https://www.amazon.co.jp/dp/B07ZF8TR7G

・岡田斗司夫ゼミ#304:朝日新聞「悩みのるつぼ」卒業記念講演

https://www.amazon.co.jp/dp/B07ZRN6LYM

・岡田斗司夫ゼミ#305:思考実験教室~「論」を語る

https://www.amazon.co.jp/dp/B08136S9RW

・岡田斗司夫ゼミ#308:ジブリ都市伝説の謎を解け!&大好評サイコパス人生相談

https://www.amazon.co.jp/dp/B081YY92NM

・岡田斗司夫ゼミ#309:富野由悠季を語る 〜2010年11月講演感想戦

https://www.amazon.co.jp/dp/B0827XWC73

・岡田斗司夫ゼミ#310:明治娯楽物語

https://www.amazon.co.jp/dp/B082HQVB4Z

・岡田斗司夫ゼミ#313:『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』特集

https://www.amazon.co.jp/dp/B0831GS94F

【ガンダム完全講義】

・ガンダム完全講義1:虫プロの倒産とサンライズの誕生

https://www.amazon.co.jp/dp/B07TV2JC9L

・ガンダム完全講義2:ついに富野由悠季登場!

https://www.amazon.co.jp/dp/B07TVBMSQG

・ガンダム完全講義3:『マジンガーZ』、『ゲッターロボ』から始まる映像革命

https://www.amazon.co.jp/dp/B07V3KDJV2/

・ガンダム完全講義4:第1話「ガンダム大地に立つ!!」解説

https://www.amazon.co.jp/dp/B07V7TCPSG/

・ガンダム完全講義5:第2話「ガンダム破壊命令」解説Part1

https://www.amazon.co.jp/dp/B07VC5B38D

・ガンダム完全講義6:第2話「ガンダム破壊命令」解説Part2

https://www.amazon.co.jp/dp/B07VC777QW

・ガンダム完全講義7:第3話「敵の補給艦を叩け!」解説Part1

https://www.amazon.co.jp/dp/B07VB2HBVT

・ガンダム完全講義8:第3話「敵の補給艦を叩け!」解説Part2

https://www.amazon.co.jp/dp/B07VC41HS8

・ガンダム完全講義9:第3話「敵の補給艦を叩け!」解説Part3

https://www.amazon.co.jp/dp/B07VMT9F71

・ガンダム完全講義10:第4話「ルナツー脱出作戦」解説

https://www.amazon.co.jp/dp/B07VMRT2QY

・ガンダム完全講義11:第5話「大気圏突入」解説

https://www.amazon.co.jp/dp/B07VT4CNL3

・ガンダム完全講義12:第6話「ガルマ出撃す」解説Part1

https://www.amazon.co.jp/dp/B07VQZGNSF

・ガンダム完全講義13:第6話「ガルマ出撃す」解説Part2

https://www.amazon.co.jp/dp/B07TTBGCZQ/

・ガンダム完全講義14:第7話「コアファイター脱出せよ」解説Part1

https://www.amazon.co.jp/dp/B07V2FKQB6/

・ガンダム完全講義15:第7話「コアファイター脱出せよ」解説Part2

https://www.amazon.co.jp/dp/B07VFDQVKW

・ガンダム完全講義16:第8話「戦場は荒野」解説Part1

https://www.amazon.co.jp/dp/B07VMKW2W5

・ガンダム完全講義17:第8話「戦場は荒野」解説Part2

https://www.amazon.co.jp/dp/B07VTLMMZ7

・ガンダム完全講義18:第9話「翔べ!ガンダム」解説Part1

https://www.amazon.co.jp/dp/B07W4324WF

・ガンダム完全講義19:第9話「翔べ!ガンダム」解説Part2

https://www.amazon.co.jp/dp/B07WDBZXPB

・ガンダム完全講義20:第10話「ガルマ散る」解説Part1

(https://www.amazon.co.jp/dp/B07WVPWQSC

・ガンダム完全講義21:第10話「ガルマ散る」解説Part2

https://www.amazon.co.jp/dp/B07WZSYS3C

・ガンダム完全講義22:第11話「イセリナ、恋のあと」解説Part1

https://www.amazon.co.jp/dp/B07XRHR39N

・ガンダム完全講義23:第11話「イセリナ、恋のあと」解説Part2

https://www.amazon.co.jp/dp/B07Y1YCMMB

・ガンダム完全講義24:第11話「イセリナ、恋のあと」解説Part3

https://www.amazon.co.jp/dp/B07YCDY3ZG

・ガンダム完全講義25:第11話「イセリナ、恋のあと」解説Part4

https://www.amazon.co.jp/dp/B07YMSF49X

・ガンダム完全講義26:第11話「イセリナ、恋のあと」解説Part5

https://www.amazon.co.jp/dp/B07YWXKT1C

・ガンダム完全講義27:第11話「イセリナ、恋のあと」解説Part6

https://www.amazon.co.jp/dp/B07Z4ZF4L3

・ガンダム完全講義28:第12話「ジオンの脅威」解説Part1

https://www.amazon.co.jp/dp/B07ZFDPMF7

・ガンダム完全講義29:第12話「ジオンの脅威」解説Part2

https://www.amazon.co.jp/dp/B07ZRH57HW

・ガンダム完全講義30:第12話「ジオンの脅威」解説Part3

https://www.amazon.co.jp/dp/B0812ZXH4K

・ガンダム完全講義31:第12話「ジオンの脅威」解説Part4

https://www.amazon.co.jp/dp/B081CMCTMV

・ガンダム完全講義32:第12話「ジオンの脅威」解説Part5

https://www.amazon.co.jp/dp/B081R6GML4

・ガンダム完全講義33:第12話「ジオンの脅威」解説Part6

https://www.amazon.co.jp/dp/B081Z2Q29N

・ガンダム完全講義34:第13話「再会、母よ…」解説Part1

https://www.amazon.co.jp/dp/B082824H5N

・ガンダム完全講義35:第13話「再会、母よ…」解説Part2

https://www.amazon.co.jp/dp/B082HR11H1

・ガンダム完全講義36:第13話「再会、母よ…」解説Part3

https://www.amazon.co.jp/dp/B0833P2NLK

ここから先は

7,296字 / 8画像

¥ 250

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?