ガンダム完全講義18:第9話「翔べ!ガンダム」解説Part1
岡田斗司夫です。
今日は、ニコ生「岡田斗司夫マンガ・アニメ夜話」2019/07/30配信分のテキスト全文をお届けします。
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ホワイトベースが反撃を開始する第9話
こんばんは。機動戦士ガンダム講座、今日は第9話「翔べ!ガンダム」の前半の話をします。
いやあ、もう暑いですね。いきなり暑くなって、もうヘロヘロですよ。ぐったりしちゃうというくらいですね。外へ出るだけで疲れてしまう。わずか歩いて1分の位置にあるセブンイレブンに行くだけで疲れますよね。もう本当に嫌になっちゃいますけど。
というわけでですね、今回のガンダム講座では、第9話の「翔べ!ガンダム」やるんですけど。ちょっとその前に、この第9話の立ち位置というか、「どういうポジションの話なのか?」というのを最初に説明しようと思います。
第1話から第9話まで、どういう流れになっているのかと言うと。
第1話の「ガンダム大地に立つ!!」というのは、言っちゃえば「なぜ、アムロ・レイという主人公がガンダムに乗るのか?」という話なんですよ。
そして、第2話の「ガンダム破壊命令」は、「なぜ、シャア・アズナブルはガンダムを追うのか?」という話。
つまり、第1話がアムロ個人を追った話で、続く第2話は、アムロの動きを見ながらも、シャア・アズナブルを語る話になっています。
第3話「敵の補給艦を叩け!」では、「ホワイトベースはシャアから逃げたい」ということを見せる話になってるんですね。
第4話「ルナツー脱出作戦」は、「ルナツーに逃げ込めないから地球に逃げよう!」というお話を見せる回になっています。
第1話、第2話でキャラクターを見せた後で、第3話で全体の流れである「シャアからひたすら逃げる」というところを見せて、第4話の「ルナツー脱出作戦」は「状況」を見せているわけですね。
第5話の「大気圏突入」では、「シャアは更に追いかけてくるんだけど、逃げ切れるか?」という話で、ここで逃げ切れないことがわかる。でも、「シャアも単独地球に降りたから、どうにかなるかもしれない」と。
その結果、第6話「ガルマ出撃す」に行くんですけど。そこからの「しかし、地球に降りた先では、ガルマ・ザビという、シャアよりも……まあ、頭は悪いんですけど、さらに強そうな大部隊を率いたヤツがいた! 地球にも逃げる場所がない!」というのが第6話「ガルマ出撃す」なんです。
そして、続く第7話「コアファイター脱出せよ」は、いろんな不安や不満がホワイトベースの中に溜まってくるという話です。
先週まで解説していた、第8話「戦場は荒野」は「千日手」を表しています。
千日手というのは将棋用語なんですけど、「このままでは勝負がつかない」という手をお互い延々と繰り返すことなんですね。
ホワイトベースは、ミノフスキー粒子をばらまきながら谷底をゆっくりゆっくり飛んでいるので、ジオンは手が出せない。しかし、その谷底もいずれは終わってしまう。どうするのか?
一方、ジオンはジオンで、ホワイトベースにこのペースで逃げられたら、包囲網を広げられずに逃してしまう。実は困っている状況にあったんです。
「そんな、両者困った状態、千日手にあるところから、一時休戦協定を結ぶ」という話でした。
そして、今回の、第9話「翔べ!ガンダム」というのは、「いよいよホワイトベースの反撃開始」と。全体で見ると、こういう大きな流れになっています。
第9話までの前半が「シャアから逃げる」という大きい流れになっていて、後半からは、「シャアがさらに強力な地上部隊と合流してしまった!」と。
これで手を組まれたらホワイトベースはもうダメだったんでしょうが、「実はシャアと地球方面司令官のガルマとの間には、何か仕掛けがありそうだ」と、視聴者が徐々に気が付くような、そういう仕組みになっています。
それでは、さっそく第9話「翔べ!ガンダム」の解説です。
今回はその前編をお送りします。無料の放送が16分30秒くらいありますので、16分30秒後にまたお会いしましょう。
僕は、涼しいこのスタジオで、皆さんが視聴し終えるのを待っています。
それでは、前半、どうぞ!
アムロ、ブライトのイライラが頂点に
(本編再生開始)
機動戦士ガンダム講座、今夜は第9話「翔べ!ガンダム」の前編をお送りしようと思います。
この タイトルの「翔べ!ガンダム」というのは、『機動戦士ガンダム』の主題歌の名前でもあるんですけど、第1話からこの9話までの間に起きていたホワイトベースのメンバーの仲間割れというか喧嘩が限界に達する回なんですね。
そして、ようやっとここでその解決が見える。いわゆるドラマ的な大転換を迎える回なんですよ。
といっても、ストーリー的にはそんなに大したことがないんですけど。ストーリーが大きく変化する分岐点は、次回の第10話「ガルマ散る」という回で、今回の「翔べ!ガンダム」というのは、ドラマ的に全員の立ち位置がハッキリして、これ以後、話がどんどん進んで行くような回なんですね。
だからといって、この第9話「翔べ!ガンダム」で、すべての問題が解決して、みんなの心が朗らかになるわけではなくて、問題の積み残しはありつつも、なんですけど。
この時点でのホワイトベースには、いろんな問題があります。
例えば、もうすでに「状況が限界を迎えている」んですね。
(パネルを見せる)
【画像】ホワイトベースの抱える問題
まず、ホワイトベース内では「食料不足」になっています。
次に「避難民の不良化」と書いたんですけど。ホワイトベースの中に百何十人いた避難民の人達というのは、最初は不安だったから言うことを聞いていた。しかし、次第に「早く降ろしてくれ!」と文句を言うようになったんですね。
過去、何回も「降ろしてくれ、降ろしてくれ!」と、避難民が暴動を起こしたり、もしくはブリッジに乗り込んで来たり、いろんな問題を起こしたんですけど。しかし、今やもう、それすらもしなくなってしまった。どんどん無気力になってきて、艦内でちょっと犯罪じみたことも起こってしまうようになっているんですね。
あとは、「連邦本部との連絡」。これまでは連絡がまったく取れなかったから「連絡さえ取れれば、なんとかなるんじゃないか?」と思ってたんですけど。今回は、「連絡が取れたんだけど、どうにもならなかった」というのがわかる。
こんなふうに、状況的には本当に煮詰まっていて、限界に達しているんです。
同時に、キャラクターについても、これと同じように限界を迎えています。
キャラクター的には「アムロ、ブライト、ガルマの3人が限界を迎える」というのが、今回の大きな流れです。
では、アムロから、どんなふうに追い詰められていったのかを見てみましょう。
(パネルを見せる)
【画像】フラウ・ボウに愚痴るアムロ ©創通・サンライズ
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> アムロ:サイド3を出てからこっち、ぐっすり眠ったことなんかありゃしない。そのくせ、眠ろうと思っても眠れない。
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これ、ほとんど冒頭の最初の方のシーンなんですけども。こういう悩みをフラウ・ボウに言います。
なんでしょうね? これは不眠症とかそういうことではなくて、もう追い詰められて心が落ち着かないわけですね。「気がはやってしまって、火照ってしまって、眠ろうとしても眠れない。こういうイライラが、自分でもどうにもならない」と。
アムロは、そんな内情を、フラウ・ボウから、散々「どうしたの? どうしたの?」と聞かれて、ようやっと吐き出すように答えています。
ここから、アムロの追い詰められ方がわかります。
こんなふうにアムロが追い詰められているところに、食料不足が段々ハッキリしてくるんです。
この食料不足というのも、単に「食料がない」というだけだったらよかったんですけど。
カイ・シデンが、コックの「タムラさん」のところに行って、「なんでアムロとリュウだけ俺達の食事より量が多いんだよ!?」と文句を言っています。
(パネルを見せる)
【画像】食事に文句を付けるカイ・シデン ©創通・サンライズ
これ、どういうことかというと、実は「アムロとリュウの2人には正規のパイロットとしての食事を与えろ」という指示がブライトさんから出ているんですね。
どういうことかというと、現実の軍隊でもそうなんですけど、軍隊というのは例えば食料が少なくなってきたら、全員分の食事を均等に減らすのではなくて、どうしても栄養不足だったら困る人間への食事を優先させるんです。
その極端な例が「パイロット」ですよね。1機あたり何十億もする戦闘機に乗って戦場で戦う人間ですから、こいつらが栄養不足で目がくらんだら困るので、パイロットにだけは優先的に食料を豊富に与えるんです。
こういうのは、どの軍でも当たり前にやっていること。だから、ブライトさんもそう指示したんですけども。ところが、それがホワイトベースの中に「格差」を生んでしまったんですね。
つまり、ただ単に「食料が少ない」という貧しさの問題ではなく、ホワイトベース内に格差が生まれつつあること、「なんであいつだけ多いんだ!?」という不満がどんどん問題になってくるわけです。
そんな状況の中で、フラウ・ボウからいろいろ言ってもらって、ちょっと元気の出たアムロは、部屋を出ます。
アムロが廊下を歩いていると、カツ・レツ・キッカ、例の3人組のちびっこ、幼稚園児達に呼び止められます。
(パネルを見せる)
【画像】子供たちからトマトを受け取るアムロ ©創通・サンライズ
これ、何かっていうと、さっきカイがタムラさんにワーワー文句を言ってる時に、この幼稚園児3人組はこっそり台所に忍び込んで、自分たちのおやつを盗んでたんですね。まあ、子供のイタズラです。
厨房からトマトをいくつか盗んで、「よーし、成功だ!」と言って逃げてきたところに、アムロとすれ違ったんですけど。ここで子供たちが「はい! がんばってね!」、「みんなにはナイショだぜ?」と言ってアムロにトマトを渡すんですね。
で、小さい女の子からそう言われたアムロは、「ああ、子供は微笑ましいな」と思って、トマトを受け取っちゃうんです。
これは、一見、なんでもないシーンなんですけど、後々になってアムロの心に響くようなことになってくるわけですね。
というのも、このトマトを受け取ったあと、アムロは、フラウ・ボウから「ちゃんと食事しなさい!」と言われたので、嫌々食事に行くんですけども。食事に行ったら、もうアムロの目の前には、トレーの上に山盛りの食料が出されるんです。
でも、向かいの席を見ると、みんなトレーの上にほんのちょっとだけ盛られたご飯を食べている。
さらに、そんな食事をいい子に食べている子供の横にいた老人が、そーっと手を伸ばして子供のご飯を盗むんですね。
(パネルを見せる)
【画像】子供のご飯を盗む老人 ©創通・サンライズ
アムロがその様子をじーっと見ていると、老人は子供のご飯を盗って、ムシャムシャ食べて、食べ終わった後、何も言わずに席を立って去って行く。子供は何も気付かずに、「いつの間にかご飯が終わった」と思い込んでいるんですね。
これ、このままで放っといたら何も起きず、「こんなふうに船内で泥棒行為が行われています」というシーンなんですけど。この時のアムロは、ようやっとフラウ・ボウと仲直りした後なんですね。
つまり「眠れないんだ!」ということをぶちまけて、フラウに当たり散らした後で廊下に出たら、幼稚園児3人組からトマトを貰って、ちょっと心が落ち着いた。だから、フラウに自分から「さっきはごめん」って声を掛けたんですね。フラウ・ボウも「ううん、いいのよ」って言ってくれたんですけど。
そしたら、目の前でこんなシーンを見ちゃうんです。
アムロは、「一緒に食べよう」と、その男の子に声をかけて、自分のトレーのご飯を出すんです。この「一緒に食べよう」というのは「半分ずつ分けよう」という意味ですね。
それを聞いた男の子のお母さんは、「いいんですか?」とアムロに聞き返します。みんな本当に飢えてるから、「そんなことできません」ではなくて、「そんなことをやっていただけるんでしたら、ありがたいです」という意味で、「いいんですか?」と言ってしまうんです。
しかし、それを聞いたフラウは、「アムロ、戦闘食なんだから、あなたはちゃんと食べなければダメよ!」と言うんです。
これに対してアムロは、「だったら、こんなところで食べさせるな!」と吐き捨てるように言っちゃうんですね。
【画像】フラウにキレるアムロ ©創通・サンライズ
この「だったらこんなところで食べさせるな!」というセリフ、やっぱり、すごく良いんですよ。
というのも、アムロはスーパーマンじゃないので、現実を変えることはできないんですね。そりゃ、一番良いのは「食料の補給を受ける」ということなんでしょうけど、そんなことはできないんです。
だったら、せめて全員で平等に分配しようとしても、その分の食料はない。アムロも「自分がダメになったらホワイトベースのみんなは殺されてしまう。自分はちゃんと食事をしなきゃいけない」ということはわかってるんです。
だから、思わずフラウに「だったらこんなところで食べさせるな!」つまり、「こんな現実を俺に見せてくれるな!」という弱音を吐いてしまうんですね。
その結果、この後、アムロは部屋に籠もってまた落ち込むんですよ。
そんな中、ブライトさんはブライトさんでイラついている感じで、部屋にいたアムロに対して無線を通じて「アムロ、パトロールだ! パトロールに出てくれ!」と言うんですけど。
部屋にいたアムロは「なんでパトロールに出なきゃいけないんですか? こっちから行くことないじゃないですか!」と言って、トマトをゆっくりかじる。
このトマトは、さっき幼稚園児3人組に貰ったトマトなんですけど。
これ何かというと、さっきのシーンのリフレインになっているんですね。
つまり、おじいちゃんは子供からご飯を盗んだんですけど、アムロがかじっているこのトマトだって、ホワイトベースの食堂から盗んだものなんです。もう、みんな、盗むのが当たり前になってしまっている。
子供達はイタズラでやったのかもわからないんですけど、それを貰ってしまったアムロも、もうイノセントではいられない。無垢ではいられないんですね。すでに罪を背負ってる状態なんです。
だから、アムロは子供のご飯を盗んだおじいちゃんに、怒ることも、「そんなこと間違ってるじゃないか!」と責めもせずに、この男の子にご飯を分けようとしたんですね。
でも、それをフラウに止められた。こうなると、「だったらこんなところで食べさせるな!」と当たり散らすしかないんです。
この「自分の部屋で1人きりでトマトをかじるアムロ」というのは、「食堂でみんなと一緒にご飯を食べたら気も晴れるだろう」というフラウの心遣いでせっかく心を開いたアムロが、そんなところを目撃してしまった結果なんです。
もう本当に、どんどん状況が悪くなってくるんですね。誰も悪い人はいないのに。
じゃあ、そんなアムロに「パトロールに行け!」と怒鳴っちゃったブライトさんは、なぜイラついていたのかと言うと。
ブライトさんはブライトさんで、その数分前に、やっと連邦軍からの通信を受け取ります。
セイラさんが連邦軍と通信すると、軍からの暗号文が打ち出されるんですけど。セイラさんがそれを読み上げようとした瞬間に、ブライトさんは横からガッと奪い取るんですね。
こんなシーン、割りと珍しくて。今から読み上げようとしていたものを、イライラした様子で横からバンと取りあげて持って行っちゃったブライトさんの背中を、セイラさんが「えーっ?」って感じでしばらく見ているという演技までしてるんですね。
しかし、ブライトさんがそれを読むと、連邦軍からの暗号文には「ホワイトベースは敵の戦線を突破して海に脱出することを望む」とだけしか書いていなかったんです。
リード艦長が、「助けにも来てくれんのか!? おい、話はできないのか!? 参謀本部!」と、「参謀本部と交渉したい」と言うんですけども、セイラさんは「無理です。ジオンの勢力圏内では暗号通信だって危険すぎます」と当たり前のことを返します。
ブライトさんは、もうイライラして「将軍たちはなんと思ってるんだ!?」と叫ぶと、リードさんは「現場を知らんのだよ、戦場を!」と言うんですね。
これ、この回の典型的なフレームなんですよ。たぶん、安彦さんが描いたこのレイアウトが、あまりに決まってて使い勝手が良かったからだと思うんですけど、他のシーンでも、結構、この構図を使っちゃってます。
この次のシーンでも、また同じような構図が出てくるんですけど(笑)。
(パネルを見せる)
【画像】リードとブライト ©創通・サンライズ
ほとんど同じですよね? それくらい、本当に使い勝手が良いんですよね。
「骨折している腕をかばう感じで片手で飲み物を持って後ろに座るリードさんの手前にブライトさんがいて、両者、目線を合わさずに会話をしている」っていう、この感じ。こういうのをレイアウトって言うんですけど、構図が決まってるんですよね。
この頃の『ガンダム』というのは、そろそろ、こういう構図のリピート具合が多くなってきてます。
ブライトさんがイライラしている理由は、まず「ようやっと参謀本部と連絡が取れたと思ったら、その参謀本部は『とにかく脱出しろ』と言うだけだったから」なんです。
そんなこと言われても、脱出できるんだったら、ホワイトベースはとっくに脱出してます。
脱出するための食料も足りなければ、弾薬も足りない。その上、避難民もいる。せめて、「こっちへ行けば連邦軍が迎えに来てくれる」という連絡でもあればいいんですけど、それすらなく、「とにかく頑張って自力で脱出しろ」と言うだけなんですね。
じゃあ、そんな時に、いつの間にかに艦長席に居座っているリードさんはどんな人かというと、ブライトさんにこんなことを言い出します。
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> リード中尉:武器弾薬は底を尽き始めてるんだ! 今度、大きな戦いがあったら、支えきれん!
> ブライト:わかってます! だから、どうしたら生き抜けるのかを考えてるんでしょう!?
> リード中尉:「生き抜くだけ」なら簡単だよ、ブライトくん。
> ブライト:冗談じゃない!
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リード中尉の言う「生き抜くだけなら簡単だよ」というのは、もう、みんなわかっている回答なんですよね。
それに対して、ブライトさんが「冗談じゃない!」と吐き捨てるように言うと、「ホワイトベースを捨てりゃあいいんだ」と、リードさんは続ける。それを聞いたブライトさんは、「それを言っちゃダメでしょ!」という感じで、「リード中尉!」と言います。
【画像】リードの本音 ©創通・サンライズ
つまり、リードさんが言ってるのは……いや、仮にも「リード艦長」ということになってますから、ここではリード艦長と言っておきましょう。あとでフラウ・ボウも「リード艦長」って言いますし。
でも、この人、別に艦長じゃないんですよね。ブライトさんが艦長代理を務めている中にお客さんとして入ってきているだけなので、偉そうにブリッジに座っているだけで、ただ単に「ちょっと偉い本社のオジサン」みたいなものなんです。
【画像】スタジオから
リード艦長の言う「ホワイトベースを捨てりゃあいいんだ」というセリフは何かと言うと、「ジオンに追われているのは俺たちじゃない。敵はこのホワイトベースとガンダムが欲しいだけだ。だから、これを捨てて逃げたら、みんなの命は助かるよ」ということなんです。
リード艦長は、軍務の放棄を提案しているんですけど、でも、彼に言わせれば「その「軍務」っていうのも、正式にオーダーされたもんじゃないよ」と。
「ルナツー基地のワッケイン司令からは地球に降りろと言われたけども、その後どうしろとは言われてない」ということで、「自分達の義務を放棄して、生き抜くために逃げちゃおうよ?」と言ってるんです。
それに対して、ブライトさんは、まあマジメで。
アムロの追い込まれ方が、人間としての追い込まれ方だとしたら、ブライトさんの追い込まれ方は、義務とか責任に挟まれた追い込まれ方なんですね。つまり、「自分がみんなをリードしなきゃいけない」と。
ブライトさんだって、まだ18とか19の、いわゆる少年と青年の間みたいな年頃なんです。
だけど、子供達ばかりのホワイトベースの中で、リュウとブライトさんというのは、「唯一この2人だけは正規の軍教育を受けた人間だ」と思われている。
そういった義務感はあるし、責任感はある。だから、この責任感を手放せない。
しかし、ブライトさんはそう思っているというのに、自分よりもずっと偉い「中尉」なんていう雲の上の人が「ホワイトベースを捨てればいいんだ」なんて、はっきり言葉に出して、それも、ブリッジの他の人間の聞こえるところで言い始めた。
これに、ブライトさんは、すごい危機感を持っているんですね。
こういった対立があって心が追い込まれてるから、必要もないのに「そうだ! パトロールを出しましょう!」と言い出すんですね。
ところが、「アムロにパトロールに行かせます!」と、無線でアムロを呼び出すと、アムロがブンムクれ始めるわけですね(笑)。
もう本当に、うまくいかない時は何をやってもうまくいかないと。
(本編中断)
アムロであり、ブライトでもあった富野由悠季の苦悩
はい、いかがでしたか?
「ちゃんお」さん、どうも広告ありがとうございます。
カイ・シデンがコックのタムラさんに食事のクレームをつけていましたが、これは「自分だって前回からガンキャノンで出撃してるので、アムロと同じ扱いのはずだ」と思っているからですね。
だから、カイ・シデンのクレームは正しいんですよ。
でも、ブライトさんもそこまで気が回らない。ブライトさんとしても「リュウとアムロには、いわゆる戦闘食として多めに出してくれ」というところまでは思いついたんですけど。次々と状況が変わって、ハヤトも出撃するようになり、ついにカイも単独でガンキャノンで出撃するということになった、と。
まあまあ、それもわかっているんですけど。厨房のコックに連絡して「カイやハヤトにも戦闘食を配給にしてくれ」と指示する暇まではない。そういう切り替えも全部一人で頭の中で考えなきゃいけないので、まだまだ準備が間に合ってないんですね。
連邦軍からの暗号文の「ホワイトベースは敵の戦線を突破して海に脱出することを望む」というのは、「カリフォルニアの沿岸のどこか適当な場所から、なんとか太平洋に出てくれ」ということなんですけど。
現状のホワイトベースはどれくらいのもんかというと、とにかくしょっちゅうエンジンを休めて着陸して修理しなきゃいけないような状況なんです。
これについても「本当に自分達の状況がわかっているのか?」と、ついついブライトさんは愚痴ってしまうわけですね。
あと、リードさんが艦長席に座っていた時に持っていたものについて、僕、解説の中で「コーヒーを飲んでる」って言いましたけど、あれ、ひょっとしたら暗号文のカードかもわかりませんね。
もう、絵が適当だから、そこら辺はよくわからないまま喋ってます。
見立てとしてちょっと面白いのは、「富野由悠季は、このリードさんというのを「無責任なサンライズの上の人」として描いている」という解釈ですね。
というのも、『機動戦士ガンダム』の次の作品である『伝説巨神イデオン』を作っている時、富野さんは「アニメージュ」という雑誌にエッセイを連載していたんですけど。その中で「僕は本当に上司に恵まれない」というような話を何度も何度もしていたんですよ。
「この人のためだったら!」と思える人に、なかなか巡り会えない。虫プロで『鉄腕アトム』を作っている時に、「この人は!」って思ってた人がいたんだけど、死んでしまった、と。そういう話を書いてるんですけど。
やっぱり、ここでのブライトさんは富野由悠季なんですね。ドラマ全体の中で言うと、アムロ・レイでもあり、ブライトさんでもあるんですけど。
「『ガンダム』という作品を捨てられない。スタジオ維持をしなければいけない」という、富野由悠季に対して、サンライズの上の人は「そんな、1作品くらい成功しなくても、別に構わないんじゃないか?」と言う。
つまり、富野由悠季は、「ホワイトベースを捨てて逃げてもいいんだ」と言うリードさんと、「いや、そんなことできるわけがないじゃないか!」と言うブライトさんを通じて、現場に立つ人間と上で管理だけしている人間の意識の差というのを描こうとしているわけですね。
まあ、こんなふうに、ホワイトベース全体をアニメのスタジオと考えて、『ガンダム』という作品を見ると、なかなか面白いです。
この『機動戦士ガンダム』の中では、よく「ガンダムという兵器1つで戦争が変わるわけではないんだよ!」というセリフが出てくるんですけども。そう言われながらも、アムロは必死で戦って状況を変えていく。
それと同じように、「自分が作った『機動戦士ガンダム』という作品1つだけで、アニメの歴史が変わるわけではない」と思いながらも、この1つの作品のブームが、実際に新宿での「ニュータイプ宣言」という大イベントに繋がって、アニメーションが世の中に認められていくという状況を作っていく。
そういう意味では、「富野由悠季が、『ガンダム』という作品を得たことで、すごいパワーで状況を変えて行く」という、1人の中年男の奇跡の物語でもあるんです。
こんなふうに、『機動戦士ガンダム』を、その裏にある実際の昭和の歴史と照らし合わせて見ると、ちょっと面白い部分があるんじゃないかと思います。
それでは、ここから先は後半に入ります。
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