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もう一杯だけ飲んで帰ろう。

猫を飼い始めてから、猫を飼っているひとが書いた本を読むようになった。
なかでも、抜きん出て好きな本は、角田光代さんが飼っている猫トトさんとの暮らしを書いたエッセイ「今日も一日きみを見てた」と「明日も一日きみを見てる」。

角田さんの小説のタイトルはいくつか存じ上げてはいたけど、いわゆる恋愛小説なるものが苦手で、なんとなく手に取るタイミングが今までなかった。
淡々とした変わり映えのしない日々こそが大切なのだと、猫と暮らして気づいたという角田さん。
角田さんのフィルターを通して描かれたトトさんは本当に愛らしくて、自分の思う猫との暮らしにも通じるものを感じる箇所がいくつもあった。
猫を飼わなければ、おそらく角田さんの本を手にとることはなかったかもしれない。

映画の上映時間前に立ち寄った書店でタイトルと冒頭の数行を読んで購入を決めた「愛がなんだ」も引き込まれるように、あっという間に読み終えた。
自分の痛い部分をこんな風にことばに表現してもらえて、それを客観的に読むことで浄化できたような気持ちになった。振り回されてきた人生に区切りをつけられた気がした。

帰りの新幹線のなかで読もうと購入した「もう一杯だけ飲んで帰ろう。」はずっとずっと読んでいたいくらいに楽しかった。あまりの楽しさに別れがたくて、さいごまで読み終えたくなかった。
ご夫妻のリレーエッセイという形も素敵だ。
同じ時間を同じ空間で過ごして生まれた文章が、こうも視点が違うと2種類楽しめるのか、という驚きと、やっぱり同じお料理や同じ場面で感じられたことを書かれていることが毎回のようにあり、夫婦って良いなあと嬉しくなった。


外食恐怖症になってしまったわたしでも読んでいると、おふたりと共に酒宴を囲み、楽しく飲んで食べて笑っている空間にいる心地にさせてもらえた。ひとりでもよく飲みに出かけてたあの頃、楽しかったなあ。遠い昔の忘れかけた気持ちを思い出した。
中央線に乗って、本に登場したお店にいつか行ってみたいなあ。

まえがきで角田さんは「これほど食べ物の好みが合わないとは」なんて書かれていたけど、食べ物の好みが合わないだけで、お店の選び方とかお酒の楽しみ方とか諸々のそれ以外はピッタリ一致されていることがおふたりそれぞれの文章から伝わってくる。

なんて素敵なご夫婦なんだろう。
トトさんのエッセイを読んだ時にも感じたけど、さらに強く憧れの気持ちを抱いた。

大好きな爆笑問題のラジオに出演されたときの角田さんも素敵だったなあ。「ラジオなんだから無言で頷かないでくださいよ」なんて太田さんに容赦なく突っ込まれながらも、角田さんの朴訥としたおどおどされてるようで飄々としたことばの数々が面白くて、さらに興味を抱くようになった。
わたしも太田さんと同じく角田さんが手掛けた「源氏物語」なら読破できそうな気がして読み始めた。

猫がきっかけで世界が広がっている。

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