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あたらしい住まいを探す--3

内見前日はホテルに泊まり、翌日内見を開始するという9時10分前には物件に到着した。まだ誰も到着していなかった。
しばらくして測量を担当される工務店スタッフ2名、不動産屋さんが到着した。所長さんは5分遅れるとのこと。予定通り9時から内見開始すると所長さんも到着した。

3名で黙々と物件内の測量や様々な箇所を見て回っている。
てっきり説明とかしてもらえるのかと思ってた。話しかけられる空気じゃないので、邪魔にならないような場所を探して立ち尽くしていた。
所長さんは測量値を記入している図面を疑いの目を持って確認しながらも念を押して再測量させつつ、ひとり黙々と物件内を見て回っていた。
まるで私がいないかのよう。

測量が終わったと報告されると、所長さんはスマホで動画を回し始め、スタッフ2人に向かって部屋ごとにリノベーションプランを説明し始めた。

その様子に不動産屋さんは
「さっき階段のことこのまま使うようなこと話されていたから、段差を緩やかにしてほしいと伝えた方が良いですよ」
と堪えきれない様子で私に仰った。

2階の部屋まで動画を回し終わると所長さんがやっと私に声をかけた。所長さんの中ですべてのリノベーションプランが決まったようだ。
外観と一階まで説明して、なぜか二階には行かずに近くの喫茶店で打合せをする流れになっていた。

近くにある喫茶店に到着し、席に着くと所長さんはタブレットを取り出し、黙々と間取り図にペンを入れていく。

このままだと本当に何も言わないまま話が進んでしまう。
「あの…どうしてもこれだけはお願いしたいのですが」と言うと顔を上げてくれた。
「階段の昇り降りが苦手なので、あの階段だと急過ぎて私には難しいので段差をなだらかにしてほしいんです」
段差だけだと不安なくらいに足を置く面積が狭い階段だからその旨を伝えると「踏面」という言葉も知らないのかという顔をされ
「段差を緩やかにするだけでだいぶ変わりますよ」
踏み板の面積を広くすることは受け入れらなかった。

「台所はシステムキッチン。ホーローは安いし長持ちするからいいですよ」
「コンロはIHがいいですよ。安全だから」
「お風呂と洗面所もシステムで安いのがありますから」
先日の打合せで話したガスオーブンの話とか業務用のステンレスキッチンの話とかすっかり忘れてる。話すリズムを崩さないでくれ感がすごくて、指摘する気力も失せてしまった。

この家に何人で住むとか私のこと何にも聞かないまま、どんどん間取りを決めてる。

「ここはお客さんから見せたいから」とあまりに何回も言うからたまらず
「お客なんて来ませんから」というと「は?」と言う顔をする。

あまりにどんどん勝手に話を進めていくので、大切な条件でもある猫の脱走防止に網戸は破れない金属製の網にしたいと伝えると「ステンレスにすると庭が見えにくくなるからできない」と断言されてしまった。

2階にある床間の段差を利用して猫のキャットウォークを作りたいと伝えると「は?」と怪訝な顔をされ、押入れの部分をウォークインクロゼットにしたいと伝えると「この部屋の雰囲気に合わないから無理ですね」とあっさり却下された。

いったい誰が住むと思ってリノベーションプランを立てているんだろう。これはリノベーションではなくて単なる復元作業ではないか。
モヤモヤした気持ちがどんどん大きくなってきた。

見積もりの概算金額はそれなりのものなのにも関わらず、贅沢なお願いをしていないのに、こんなに我慢しなければいけないことが多いのが不思議でならない。
見積もり概算金額の内訳も大体で良いのに説明もなかった。

「これから練り合わせをして間取り図を作りますから大体1か月くらい時間みてほしいです」と私に伝えると横に座る社員さんに「次の打ち合わせにもう行かないとあかんから先に出るわ。支払いは済ませておくから」と店を出られた。残った社員さんもそれ以上説明してくれる気配もなく打合せは終わった。

もやもや振り返りながら帰宅した。
今日所長さんが変更していた箇所を思い出しながら自分で間取り図を書き込んでみる。この家に今ある家具が置ける気がしてきた。生活できるイメージが全く湧かない。

このまま頼んでしまって良いのかどうか疑問に思いながらネットで検索すると、3件くらい見積もりしてもらって決めるパターンが多いみたい。
それなら1件目に見積もりしてもらったけど思っていた感じではなかったということで、また2件目を探せば良いだけの話だ。
明日不動産屋さんに契約申込書を提出する際に今日のこと話して相談してみよう。

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