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『Winny』制作の挑戦は、日本映画界への挑戦でもあった

何かに挑もうとする意志を感じる映画

3月10日に公開された映画『Winny』は、著作権侵害を幇助したとして逮捕された開発者・金子勇氏が弁護士たちの力も得て、日本の司法と戦う物語だ。"based on a true story"と記された欧米の映画が私は大好きだが、日本の”事実を基にした”映画は情緒と正義に走りがちなものが多く好きになれなかった。『Winny』はそんな私を大いに満足させ、今年観た日本映画のベストになった。

映画製作界に多少関わった経験から、作品のクレジットにも目が行ってしまうのだが、あまり聞いたことのない制作会社が並んだ上、配給にKDDIの社名が入っていることに驚いた。通信会社として映像配信事業もやっているのは誰でも知っているだろうが、劇場映画の配給にクレジットされたのは見たことがなかった。

またこの題材は、映画化するには誰かが何かを言ってきそうな危うい匂いも漂う。きっと苦労や覚悟が必要だったのではないか。そこで、ツテをたどって制作者への取材を願い出た。制作協力にクレジットされているand picturesの代表取締役で本作のプロデューサー・伊藤主税氏と、KDDIのマーケティング統括本部auスマートパス推進部エキスパートの金山(キム・サン)氏が対応してくれた。お二人の話は、作品の内容にも似た挑戦と戦いのストーリーだった。

KDDI金山氏(左)と、and pictures 伊藤主税氏

悩みぬいた脚本作り、苦しみぬいた配給探し

--映画化が持ち上がるきっかけを教えてください。
伊藤主税氏(以下、伊藤)「2018年のホリエモン万博で、クラウドファンドサイトのCAMPFIRE主催の映画企画コンテストがあり、古橋智史さんが出した企画が『Winny』でした。僕は審査員の一人だったのですが、 その企画がグランプリを取りました。『出る杭が打たれない国にしたい、挑戦できる環境作りを』という古橋さんのプレゼンに心打たれ、映画化したいと古橋さんにお声がけしました。彼は映画業界ではなく起業家の方なんですが、そんな方が映画の企画を立てたのも面白いと思いました。それがもう5年前です。」

--なるほど、そこからトントン話が進んで?
伊藤「いえ、順調とは言えないスタートでした。この映画によって責められる側も生んでしまう企画であり、ある意味タブーにも触れる企画ですので、危ないんじゃないかとの意見もありましたが、それも含めてやるべきだと思って脚本開発を始めました。」

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