小説 遮光

中村文則著

重く。暗い。
本著者の作品の主人公にはいつも感情移入はできない。
解説でも著者が書いているように、昨今の一般的な大衆小説とは一線を画すものである(いい意味でも悪い意味でもなく)。

主人公の虚言や不可解な行動は美紀を失うことにより、心のよすがを失くしてしまったための行動であるのか。もちろんそれもあるが、両親を失くし、里親からも手放されるシーンからそれだけではないと考える。育ってきた環境からある意味では生き抜くために自分を殺し、本当の自分、というものに対して無関心であったのではないか。
それが美紀という恋人の存在により、現実的な幸せに気づき、自分というものがわかるようになってきたのではないか。
常にぼんやりと、人生を上辺だけで捉えて生きているように見える。二重人格とはまた違うが、自分の体とは別なところに意識があり自分でも行動の意味がわからない。主人公の人生とは、いったい誰のものなのか。著者はこんなことを言いたいのではないかと思うが。


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