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第115回医師国家試験振り返り

1. はじめに

2021年2月6日(土)と7日(日)に第115回医師国家試験が実施されました。折角試験を受けてきたので軽く振り返ってみようとおもいます。特に、今年はSARS-CoV-2によるCOVID-19の蔓延下(以下、コロナ禍)での試験ともあって、例年とは異なるところもありました。その点を踏まえつつ、今後の参考になるようにもしたいと思います。

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2. 医師国家試験の概要

以前、昔の国家試験を調べたことがありましたが、現在の医師国家試験がどうなっているのかはあまり記載していませんでした。手始めに現行の医師国家試験について軽く記します。
基本的には、
試験日程:2月上旬の2日間
問題数:400問(必修問題:100問、一般/臨床問題:300問)
合格基準:必修得点率 8割以上 かつ 禁忌選択 3問以下 かつ 一般/臨床問題 相対基準
となっています。
必修問題とは何か等、細かい情報は各予備校等が発信しているのでそちらを見たほうが分かりやすいと思います。例:INFORMA

3. コロナ禍の第115回医師国家試験の実施体制

前述したように今年はコロナ禍での試験実施ともあり、いくつかの注意が事前に周知されました。特に話題になったのは、


試験当日に新型コロナウイルス感染症に罹患し、入院中、宿泊療養中・自宅療養中の受験者は受験を認めない。

という点です。ただし、濃厚接触者でも無症状であったり、当日発熱があっても迅速抗原検査で陰性であったりオンラインでの診療で診断がなされなかったりした場合は別室で受験することができました。
また、昼食時以外はマスクの着用義務があるなど試験会場内でも様々な注意事項が伝達されました。

4. 試験当日の様子

この様な状況下で第115回医師国家試験は無事に実施されました。今後受ける人のためにもいくつか気づいたところを箇条書きで振り返ります。

・受験会場
自分は東京外国語大学府中キャンパスで試験を受けました。そもそも医師国家試験は全国で北海道〜沖縄県の12ヶ所が試験地となっていてその試験地の中で会場が割り振られます。ここからは憶測ですが、試験会場の割り振りは申し込み順という噂があります。確かに受験地ごとの留意事項をみると受験番号ごとに試験会場が割り振られていて、後述しますが、受験番号も大学内での学籍番号に沿っていました。

・検温はサーモグラフィ
当日の発熱の有無を確認するにあたっては試験会場の入り口でサーモグラフィによる検温が行われました。ここで体温が37.5℃以上となると迅速抗原検査を受けることになります。

・試験の部屋は大学で固まった
試験会場内で試験を受ける部屋が割り振られるわけですが、これは受験番号順となっていました。そして、弊大学は受験票を一旦全員分集めてから医師国家試験の申込みを行っていたため、(おそらく申し込み順であろう)受験番号の並びは大学の学籍番号の並びと一致していました。すると基本的には普段の大学での試験と同じ様な面子で固まることになります。中には50人以上が同じ大学で一部屋に集まっていたところもありました。一方で、序盤の学籍番号の人は他の所属の人らと同じ部屋になっていました。

・試験官からの説明が長いし同じことを何回も言われる
下の写真が実際の試験日程です。これをみると説明開始時刻が毎回設定されていることが分かります。部屋ごとの試験官が本人確認と試験の注意事項を説明する時間なのですが、毎回大体同じことを言う上に、マージンを広く取っているのか無の時間がそれなりに発生していました。

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ただ、最初のAブロックでは試験問題の表紙に載っている例題まで読み上げていたのが少し面白かったです。

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最後のFブロックでは試験官も疲れていたのか、「試験開始」を「試合開始」と言い間違えていました

・カンニング対策
カンニング防止の為に試験中に机の上に置ける物は当然指定されています。身につける腕時計は計算機能等があると駄目ですし、靴も試験中は脱いではならないと言われます(おそらく靴の中にカンペを仕込む可能性があるため)。意外だったのは腕時計を外して机の上においてはならないという点です。腕時計の裏側に何か仕込む可能性を見ているのだと思いますが、普通に不便だったので困りました。

・カンニング対策2
今年は全員マスク着用が義務だったので試験中も着用していました。それぞれのブロックの直前に試験官が本人確認をするのですが、そのときにマスクを外して、さらにマスクの内側が見えるようにしろと指示されました。これもおそらくマスクの内側に何か仕込んでいる可能性を除外するためだったのかと思います。

・2種類の解答用紙
厚労省から事前にもらう留意事項には

(4)答案用紙は2種類あり、どちらか1種類を配布する。

とあります。自分は試験を受けるまで何を言っているのか良くわからなかったのですが、これはまさに言葉通りで、医師国家試験の答案用紙は2種類あります。例題を見てみましょう。

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つまり、答案用紙1は横書き、答案用紙2は縦書きという事です。当然内容は変わらないのですが、2種類の答案用紙にはある意味があります。
試験会場では並んでいる席の前後が同じ答案用紙で左右が違う答案用紙であるように配布されました。つまり、列ごとに答案用紙1と2を交互に配り分けているということになります。これは推測ですが、カンニングする人が横をちらりと見た時にマークの模様から答えを推測しにくくしたのではないかと思います。同じフォーマットの答案用紙であれば問題番号と選択した数字まで見えなくてもなんとなくのマークの模様で多くの問題の答えをカンニングできてしまいます。それを防ぐための横書き-縦書きの答案用紙だったのではないかと思います。ただ、想定している時点ですでにカンニングを許してしまっている訳で、本当にコストに見合った効果が得られているかは考えものです。

5. 試験問題 pick up

ここからは第115回の問題で面白かったと思った問題に関してまとめていこうとおもいます。全体的に見て115回はかなりユニークな問題が目立つ試験だったと思います。問題文は、『医学生学習支援プラットフォーム みんコレ』を参考にしています。

115A24
55歳の男性。夜中の記憶がないことを主訴に妻とともに来院した。数年前に不眠に対して睡眠薬を処方されて以来、継続して服用し、仕事を続けていた。経営していたレストランに2週前に泥棒が入り、ひどく落ち込んでいる様子であった。昨日、午後7時に帰宅して夕食を済ませ、午後11時に就床した。翌日の午前1時頃、少しでも本人を励まそうとする友人から、カラオケに誘う電話があり、カラオケ店にタクシーで行き宴会に参加し、午前4時頃帰宅した。帰宅後約8時間睡眠をとって午後勤務についたが、夜中のことを全く覚えていない。友人によると普通に歌い飲食したとのことであった。アルコールは全く飲めず、当日も飲酒していない。妻の話によると2か月前くらいから夜中に食事をしたり、コンビニエンスストアに行ったりしていることを、翌朝全く覚えてないことが3回あったという。
この患者で考えられる疾患はどれか。
a 夜間せん妄
b 一過性全健忘
c 全生活史健忘
d 睡眠薬による前向健忘
e レム〈REM〉睡眠行動障害

これは精神科の睡眠医学に関する問題です。正解はdの「睡眠薬による前向健忘」です。この患者のエピソードを見てみるとなんだか似たエピソードを経験したことがある人がいると思います。これはまさしく、「飲み会でお酒を飲みすぎてしまって記憶がなくなる」というエピソードと同じです。睡眠薬やアルコールといったGABA受容体作動による神経抑制作用がある物質を服用すると前向健忘が発生することがあります。当人は記憶が抜けていて良く家まで戻ってきたな〜などと思うのですが、実際は記憶が抜けているのではなく、海馬の抑制によって記憶がされないという機序になっています。一定期間記憶されないだけなので、その間は普通に対応して家まで戻って来れますが、記憶されないので何も思い出せないという結果になります。特にベンゾジアゼピン系の睡眠薬を内服している時にアルコールを摂取すると生じやすいとされています。
これまでの睡眠医学の問題ではナルコレプシーやレム睡眠行動障害などが主な出題でしたが、今回はこの様に睡眠薬の副作用として前向健忘が出題されました。実は厚生労働省から公表されている医師国家試験の出題委員を詳しく見てみると精神科で大きく変更があったことが分かります。115回で精神科で傾向が大きく変わったのはまさしく出題委員の変更によるところなのでしょう。

115A35
65歳の男性。蛇に指を咬まれたことを主訴に来院した。30分前、草刈り中に左示指をマムシに咬まれた。既往歴に特記すべきことはない。意識は清明。脈拍70/分、整。血圧 108/80mmHg。SpO₂ 96% (room air)。 左示指の指腹に2か所の咬傷を認め、左前腕が腫脹している。
対応として誤っているのはどれか。
a 抗菌薬の投与
b 局所の血液吸引
c 細胞外液の補液
d 抗マムシ血清の補液
e 自宅での経過観察の指示

救急科のマムシ咬傷の問題です。正解はeの「自宅での経過観察の指示」となります。マムシに噛まれた後に腫れてくるのはマムシの毒が身体に入ってしまった証拠です。とりあえず速やかに来院してもらって処置をする必要があるということを伝えたかったのだと思います。割と直感で選べると言うか、一つだけ浮いているので正答率も高かったと思います。マムシの出題が面白かったので選びました。

115C33
統合失調症の一次妄想と考えられる患者の言葉はどれか。3つ選べ。
a 「(突然)自分は聖徳太子の子孫であるとわかった」
b 「(食事の途中で)誰かが自分の食事に毒を盛っている」
c 「(漠然と)何か恐ろしいことが起こりそうでひどく怖い」
d 「(電車の客が会話する様子を見て)自分の悪口を話している」
e 「(隣家を見て)あの玄関の形は明日自分が死ぬことを意味している」

精神科から一次妄想と二次妄想の鑑別の問題です。正解はa,c,eです。問題の作り的に一次妄想の定義をきちんと把握してなくても解けてしまうところが残念ですが、結構いい問題だと思いました。
ちなみに、「国試に出ない医学知識Bot」というツイッターアカウントで、国試前に出ないであろう医学知識の予想問題を出して遊んでいたのですが、まさにこの統合失調の一次妄想と二次妄想の問題が出てしまってかなりびっくりしました。

115D15
全生活史健忘患者が保持している記憶はどれか。 2つ選べ。
a 自分の名前
b 自分の年齢
c 家族との旅行
d 切符の買い方
e 日本で一番高い山の名前

またまた精神科から。今度は115A24のハズレ選択肢として出題された全生活史健忘に関する問題です。これは国試あるあるなのですが、1日目の問題と関連した問題が2日目に出題されることが多々あります。この問題の答えは、d,eです。全生活史健忘は発症したタイミング以前の自分に関する記憶がなくなるといったもので、一般的な知識などは失われていないことが特徴です。フィクションで多用される「記憶喪失」とは大体がこれに相当しています。

115D21
11か月の男児。今朝、血便様の便があったため母親に連れられて来院した。それまで下痢や嘔吐はなく、ずっと機嫌はよい。食欲はあり水分摂取も良好である。昨日、初めてブドウ果汁入りジュースをたくさん飲んだとのことである 。浣腸を行い、便性を観察したところ赤紫色の軟便であった。身長 75.1 cm、体重 9 kg。体温 37.0 ℃。脈拍 108/分、整。SpO₂ 98% (room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟。便潜血検査は陰性。腹部超音波検査で異常を認めない。
患者の家族への説明として正しいのはどれか。
a 「抗菌薬を処方します」
b 「生理食塩液の点滴をします」
c 「圧をかけた浣腸による整復が必要です」
d 「血液検査で貧血の有無を確認しましょう」
e 「ブドウ果汁入りジュースをやめて、明日の便を観察してください」

小児科より幼児の正常所見の問題。実は血便ではなくてブドウの色がついただけだったんですね。以上です。

115D23
13歳の女子。発熱と咳嗽を主訴に母親に連れられて来院した。4日前から発熱と咳嗽が出現し持続し たため受診した。身長 154 cm、体重 69 kg。体温 38.6 ℃。脈拍 100/分、整。血圧 116/76 mmHg。呼吸数 20/分。SpO₂ 98 % (room air)。咽頭は軽度発赤を認める。心音に異常を認めない。左側の胸部中央部にcoarse cracklesを聴取する。血液所見:赤血球 508万、Hb 14.3 g/dL、Ht 41 %、白血球 5,300(好中球 45 %、好酸球 2 %、好塩基球 1 %、単球 10 %、リンパ球 42 %)、血小板 30万。血液生化学所見:AST 22 U/L、ALT 24 U/L、LD 238 U/L(基準 120-245)。CRP 3.6 mg/dL。新型コロナウイルス〈SARS-CoV-2〉PCR検査は陰性であった。胸部エックス線写真(別冊No.4A)及び肺野条件の胸部CT(別冊No.4B)を別に示す。
次の中で最も疑う感染症はどれか。
a 風疹
b 麻疹
c アスペルギルス感染症
d マイコプラズマ感染症
e サイトメガロウイルス感染症

答えはdです。今回の試験ははやはり新型コロナウイルスの扱いがどうなるのか注目されていました。公衆衛生の問題では意識した問題が出題されていましたが、直接に新型コロナウイルス自体が出題されることはありませんでした。唯一名前が出てきたのがこの問題です。ただし、全く解答選択には影響せず、ただ言ってみたかっただけな印象はあります。

115D28
25歳の女性。異性関係や職場の人間関係のトラブルがあるたびにリストカットを繰り返すため、母親に伴われて精神科を受診した。本人はイライラ感と不眠の治療のために来院したという 。最近まで勤めていた職場は、複数の男性同僚と性的関係をもっていたことが明らかとなり、居づらくなって退職した。親しい友人や元上司に深夜に何度も電話をかけるなどの行動があり、それを注意されると、怒鳴り散らす、相手を罵倒するなどの過激な反応がみられた。相手があきれて疎遠になると、SNSで自殺をほのめかし、自ら救急車を呼ぶなどした。一方、機嫌がよいと好意を持っている相手にプレゼントしたり、親密なメールを何度も出したりするなど感情の起伏が激しい。
この患者にみられることが予想される特徴はどれか。
a 繰り返し嘘をつく
b 第六感やジンクスにこだわる
c 慢性的な空虚感を抱えている
d 完全癖のため物事を終了できない
e 自分が注目の的になっていることを求める

精神科から境界性パーソナリティ障害の問題。DSM-5の診断基準に照らし合わせて、解答はcの「慢性的な空虚感を抱えている」です。他は、
a 繰り返し嘘をつく:反社会性パーソナリティ障害 
b 第六感やジンクスにこだわる:統合失調型パーソナリティ障害
d 完全癖のため物事を終了できない:強迫性パーソナリティ障害
e 自分が注目の的になっていることを求める:演技性パーソナリティ障害
となっています。これはDSM-5の診断基準の一部がそのまま問われています。

115E15
世界的大流行を引き起こし、中世ヨーロッパでは黒死病として恐れられた感染症はどれか。
a 結核
b コレラ
c 天然痘
d ペスト
e 発疹チフス

感染症、医学史の問題。答えはdのペストです。これはやっぱりコロナ禍でカミュの『ペスト』が再評価というか流行ったというのを受けた問題なのではないかと思いました。

115E29
21歳の女性。性暴力による健康被害の検査を求めて来院した。昨晩、1人でバーに行った。隣のテーブルにいた男性グループから話しかけられ、なんとなく話をしながらカクテルを飲んでいるうちに急に意識がもうろうとし、午前2時に気が付いたときにはホテルのベッドの上にいた。状況から、意識を失っているうちに性暴力被害に遭っていたと考えられた。自宅に帰った後、母親の強い勧めで母親に付き添われて午前5時に救急外来を受診した。意識は清明。話す態度は取り乱す様子はなく落ち着いている印象で「知らない人と飲酒した自分が悪いのです」と話している。
医師の言葉として適切でないのはどれか。
a 「自分を責める必要はありません」
b 「病院に来るのは勇気がいりましたね」
c 「婦人科医師の診察を希望されますか」
d 「お辛いのによく話してくださいました」
e 「大したことではないので早く忘れた方がいいです

いわゆる「お気持ち問題」です。「この問題は正答率100%であってほしい」と解きながら思っていました。

115F26
2019年以前の我が国におけるインフルエンザについて、正しいのはどれか。
a 小児に比べて大人の罹患率が高い。
b 罹患数は1シーズンに 1~2 万人である。
c 4月から5月にかけて流行のピークがある。
d 他の年齢層に比べて高齢者の致死率が高い。
e オセルタミビル耐性のウイルス株が90%以上を占める。

公衆衛生の問題。答えはdです。ちなみに2020/2021年シーズンはインフルエンザがコロナ禍でほぼ完封されています。

6. 終わりに

内容は以上となります。
かなり雑多になってしまいましたが、早いうちに文字に残しておこうと思い書きました。
個人的には、「昔の国家試験を調べてみた」とか「国試に出ない医学知識」とかやってたからには失敗できないな〜などと勝手にプレッシャーを感じていましたがなんとか終えることができてホッとしています。今後も何か面白いことを見つけたらnoteを介してまとめて見たいと思っています。
最後までご覧頂き誠にありがとうございました。

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