2023/5/24

この世に彼が見え、感じられるものは、ほどよくすべて輝いている。そしてほどよくすべて、どうでもよかった。どうでもよくあってほしかったのかもしれない。とにかく恐ろしくて、恐ろしさを感じる彼自身がいちばん憎かった。その身を置き去りにするように空が晴れ、五月の乾いた空気は心地よく、他人にも鳩にも命があるのだと図々しく教えられる。割れはじめた彼の身は、その割れ目はもはや自分で作っているのだと認めざるを得ない。息がしづらい。手が浮腫んでいる。彼が見ているものは、きちんと美しい。彼は大抵のことを愛していた。それらの証明方法を知らぬまま、いや、あると思いたいだけで無いのだろうと泣きそうな気持ちのまま、「なにかを諦めるのは良くないことだ」という嫌いな男の言葉が脳内に響き、振り払うことをしなかった。

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