太った亀


小学2年生のとき、生きもの係に憧れていた。だけどわたしは実家でペットを飼っていないことに負い目を感じていたので、生きもの係に立候補することができなかった。それで昼間はノート配り係の仮面を被り、誰もいなくなった放課後1人で水槽をつっついてニヤニヤしていた。

うちのクラスには2つの水槽があって、それぞれメダカと亀を飼っていた。
わたしは特に亀の水槽がお気に入りで、生きもの係だけが与える権限を持つ「変なニオイのふりかけ」みたいなエサを放課後こっそり与えていた。水槽のフタの上がふりかけの定位置で、ちゃんとそこに戻せば気づかれまい。

ある日、ノートを配るついでに亀の水槽に近寄って「今日もあとで、ね、、♡」と秘密の意思疎通をしていると、生きもの係の男の子に話しかけられた。

「なんか亀、最近、太ってきたよな」

わたしが2倍量のエサを与えているせいだが、そ...そかなぁ?としらばっくれつつ変な汗をかいていると、生きもの係が

「亀のアゴってめっちゃ強いから、噛まれたら指とか無くなっちゃうんだよ」

と 教えてくれた。
わたしは下を向き「え、怖。。。」と呟いた。


ーーーーーー


時は流れ7月、1学期 最終日。

夏休みのあいだ亀たちとお別れするのが寂しくて、放課後ひとりでずっと水槽をつっついていた。そろそろ帰ろうとランドセルを背負ったとき、ベランダ側のカーテンが揺れていることに気が付いた。このクラスの「窓閉め係」は窓も閉めずに帰るんですかぁ!?とヒステリックになりかける。しかし大好きな亀たちが見ているので素敵な行動を心がけよう。

わたしは上履きを脱いでロッカーによじのぼり、せっせと窓を閉めていく。
最後の窓は、ちょうど亀の水槽が邪魔でカギに手が届かなかった。しょうがなく精一杯ぐっと手を伸ばした瞬間、バランスを崩し、水槽のフタの上の“ふりかけ”を力いっぱい蹴飛ばしてしまった。

ふりかけは宙を舞い、亀の水槽に全部こぼれた。1本まるまる、みるみるうちに水槽がみどり色に染まっていく。
死んでしまう、どうしよう、水を変えなきゃ、亀を出さなきゃ、触るのはじめて、パニック状態のわたしの頭に、ふとあの言葉が蘇る。

「亀のアゴってめっちゃ強いから、噛まれたら指とか無くなっちゃうんだよ」


え、怖。。。


……。



…………。



わたしはしばらくじっと考えて、目に涙を溜め、殺人犯としての人生を選択することにした。
わたしのせいで2匹の亀が死んでしまう。2学期になったら、このクラスの誰かが第一発見者になるだろう。でも、窓が開いているからきっと風のせいになる。事故として処理してもらえることを願い、わたしはポロリポロリと涙を流しながら亀の入った水槽に一礼して教室を飛び出した。


十字架を背負って過ごした夏休みのことは、あまり覚えていない。



そして9月1日。
2003年当時はまだ「つらかったら学校にいかなくてもいいんだよ」という考えは一般的ではなかったので、重い足どりで校門をくぐる。

2年2組の教室の前には人だかりができていた。

あぁ。発見されたんだな。。犯人は現場に戻ってきましたよ。。と思いつつ、何も知らない素振りで教室に入った。やっぱりみんな、水槽を見ている。

ノート、ノート、わたしはノート配り係なので、、、とジャポニカ学習帳をパラパラしていると、生きもの係の男の子に「ちょっと来て!!」と言われた。

指紋か?と警戒しながらついていくと、みどり色の水槽の前に立たされて「これ、、、見て、、、」と言われた。









めっっっっっっっちゃ太った亀 ×2



生きててワロタ


規格外に太った2匹の亀を見て笑顔がこぼれる

こんなにデカくなる亀だったんだ



わたしはじっと亀を見つめて、泣きそうになりながら「夏休みのあいだ、エサに困らなくてよかったね」と声をかけた。小2はまだ脳が未発達なのでこういったサイコパス的な発言をしてしまいがちです。


そして生きもの係といっしょに汚れた水槽を一生懸命に洗った。亀の死を隠蔽しようとした小2の汚れた心は、水槽を洗うことで救われた。


この出来事で、心底「生きもの係なんてこりごりだぁ〜い!」と思ったわたしは、2学期は黒板消し係として活躍しました✨



おしまい。




いいんですか!?!?