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【洋書多読】No Baggage(196冊目)

Clara Bensen著『No Baggage』を読了しました。

OkCupidという出会い系サイトで知り合った男女が、「荷物を持たない旅」に出るという内容です。

それだけ聞くと、大胆な冒険譚のような、ハチャメチャな旅行記のような、その手の類のものを連想してしまいそうですが、全然そんなことはありません。

主人公のパートナーであるジェフは大学の先生。著者の女性は文章から結構知的な雰囲気を漂わせています。旅行記の間に挟まれている各国の歴史的な背景、著者のクララ・ベンゼンの心の葛藤の描写が繊細で、とても心に響くものがありました。

僕自身も40歳のときに日本でうつ病になり、色んなものを棄ててバックパックひとつで世界の旅に出た記憶があります。男性と女性という違いはありますし、クララは20代のうら若きレディで僕は中年のおっさん、日本とアメリカという文化的なバックグラウンドの違いなど諸々違いますけれど、6年前の自分のことを思い出しながら、読み進めることができました。

英語は結構難解だったけど、読めました

とても面白い本なんですが、いかんせん英語は難解で、正直言って僕がこれまで読んだ200冊近い洋書の中でも最高難度の難しさでした。

まず、使われている単語の難解さです。日常生活で使うようなシンプルな英単語よりも、英検一級の問題とかにでてきそうな難解なものがバシバシでてきます。

向こうのインテリってこういう言葉使ってこういう言葉遣いで話す/書くんだぁっていうのが勉強になりました。

一方で、ジェフとクララの会話はかなり砕けた内容で、それはそれでまた別の難しさがあります。簡単な単語を使ってする多彩な表現、スラングもさることながら、アメリカを含めた西洋のに通じていないと理解できないと思われるジョークなども、この本の理解をかなり難解にしています。

クララ自身の内面世界や心の葛藤の描写がテクスト読解の難易度UPに追い打ちをかけます。心を病んで、何重にも心の扉に鍵をかけてしまった著者が、超絶オプティミストであるジェフとの奇想天外な旅の中で少しずつ心のバリアを取り除いていく様がインテリ女性ならではの繊細な筆致で書かれていますが、これを読み解くのは、残念ながら僕の英語力では困難でした。

でも、そこに書かれていることのエッセンスは十分に感じ取ることができました。僕は決してインテリではないけれど、旅に出る前の自分が感じていたことと重なる部分がありましたし、旅に出ることで少しずつ新しい自分の世界が開かれていった感覚も、クララに通じるところがあるように思われるからです。

「一度日本語で読んだことがある本の洋書」を読むのは理解が深まって英語の学習効果も高いですが、『No Baggage』に関しては、自分の経験とクララの内面世界がどこかでシンクロしているような気がして、そこに親近感を感じました。

親密さ、親近感。そういったあたたかなものが、僕がこの難解な英文をどうにか最後まで読みおおすことができたことの理由だと思います。

不確実性に飛び込んでいくことの大切さ

残念ながら、今の僕は6年が経過し、一度捨て去った「心の荷物」を再び抱え込んでいく生活に戻っていっているようですが、クララはその後もジェフと旅を続け、その後も軽やかに世界を飛び回っているようです。

クララは以下の動画の中で「リスクを取ること」ということについて講演しています。本の中では「不確実性(uncertainty)」という言葉で表現されている「状態」の中に飛び込んでいくということ。

その不確実性の中に自分自身の身を置くということ。そこから少しずつ自分を見つけ出していったクララは本当に強い女性だなあと思います。

繊細さと大胆さ、洗練された知性と子供のような好奇心、そういう両価的な感情の間で激しく揺れ動く不安定なマインドを、旅という営みを通じて見事に洗い出し、描き出してみせた私小説である『No Baggage』。

ぜひ日本語版を読んでみて、僕の理解の届かなかったところをもう一度追体験してみたいと思いました。6年前、旅に出るために僕が棄てていった物理的なものの次は、クララのように「心の荷物」を捨てていきたいなと、そんなことを思っています。

最終的に捨てたいのは「私」

ここからは本書の内容とは関係ないのですが、不確実性に飛び込み、全ての息苦しさを消し去るためには、最終的に捨てるべきは「私」である、と。ずっと考えています。

この「自我=私」なるものが諸悪の根源で、僕の生を極めて厄介なものにしています。

自分を捨てたい。自分自身から自由になりたい。多分それが究極のミニマリズムだと思うんですね。

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