【洋書多読】The Reason I Jump(167冊目)
『The Reason I Jump』を読了しました。
本書は東田直樹さんという現在30歳の自閉症の男性が13歳の時に執筆したエッセイで、当時まだまだ理解されにくかった自閉症の内面を平易な言葉で伝え、注目を浴びました。
自閉症の方の内面世界
僕は精神科のソーシャルワーカーをおよそ15年やっていたので、自閉症と言われる方々と直接お会いしたことは何度もありました。その中にはいわゆる「重度」とよばれる東田さんのような方もいらっしゃいました。
そんな重い障害を抱える方が、隔離施設で生涯を終えるのではなく、地域生活移行に向けて私たち地域の側にできることってなんだろうか?
それを模索するための集まりであった大阪府立大学(当時)の三田先生の研究室での会合にも定期的にお邪魔をして、現場のソーシャルワーカーの立場から色んな意見を述べさせていただいたりしていたこともあります。
ただ、正直なところ、僕の中では重度自閉症の方というのはシンプルに「言葉がない人」つまり言語という抽象概念を操ることができない人たちのことでした。
それから情動のコントロールが稚拙で、自傷行為を繰り返したり、時に他害行為(他者の身体・財産を傷つける行為)に及ぶため、基本的には隔離一択、地域生活移行なんてとんでもないという認識が、僕の中には通奏低音としてありました。
だから三田先生の研究室に出入りしていたときは、随分ラディカルな取り組みに中心的なメンバーの一人として参画させていただいている、という誇らしさがあったものです。
当時はソーシャルワーカーとして最も脂が乗っていて、仕事が楽しくて仕方ない時でしたから「無理だと思われていた重度知的障害の方を支援することができるかもしれない」という期待や高揚感もありました。
けれど、今回東田さんのエッセイである本作を読んで、そもそも「言葉がない人たち」という認識自体が間違っていたということに、自分の専門職(当時)としての至らなさを痛感しています。
そして重度の自閉症の方々は、情動のコントロールが稚拙などころか僕たちよりも遥かに多大な苦労を持ってこの世界を生きているということ、そしてだからこそ、この世界の美しさもまた、誰よりも強く感じているんだ、ということ本書を通じてを知り、当時の僕の浅学を恥じる思いでいっぱいになっています。
それ以外にも、自閉症者だからというのではなく一人の青年としての世界の認識の仕方や切り取り方、他者との関わりの中で揺れる心情など、飾らない文体で語られるストレートな内面世界が心に響いていくる、すばらしい書物でした。
これまでいくつかのエッセイなどのノンフィクションを英語で読んできましたが、自分の拙いド苦慮経験ながらも、本書はその中にあって白眉ということのできる、本当にすばらしい一冊です。
それ以外に本書で感動した箇所など、多読とはまた別の文脈で書かせていただいた記事がありますので、お読みいただけると嬉しいです。
YLレベルは5.0〜5.5。訳者(イギリス人)の前書き・後書きは7.0レベル
本書の英語レベルですが、東田少年の記述部は大変シンプルでリーダブルな英語に翻訳されているので、レベル的には5.0くらいです。たまに難しい単語が出現したりもしますが、十分推測可能でしょう。
文法も難しいものはありません。そこが本書の優れたところでもあると思います。シンプルな英語で豊かな世界観を描く。そんな素敵な一冊です。
ただ、本書の訳者の一人であるDavid Mitchell氏のintroductionは結構難しい英語です。本編が始まると一気に読みやすくなるので、ここで挫折しないようにしたいです。
気になった表現など
本書は基本的に平易な英語で書かれているので、気になった表現などはそんなに多くありませんでしたが、以下によくでてくる句動詞などをご紹介しておこうと思います。
13歳の自閉症の男子が書いた日本語が上手く英語圏の言葉に訳されていると思います。つまり、あちらではこれくらいの年齢の男の子が普通に使っている表現、ということです。
そのへんを意識しながら読むことで、五感がより立体的に浮かび上がってくる感じがします。
1.tell off
これは英検なんかでもちょいちょい見かける句動詞で「叱る」という意味です。
2.carry away
「夢中になる」という意味の句動詞です。没頭しすぎて「持って(carry)いかれて(away)しまう」という感じでしょうか。洋書多読ではもちろん、資格試験なんかでもよく見かける句動詞かもしれません。
3.hack sb off
sbを悩ませる、イライラさせる、という意味のようです。hack自体は「叩き切る」という意味の他に「耐える・我慢する」という意味もあるので、それがoffするイメージがイライラするとか悩ませるにつながっているのかな?と考えています。
コンピューターなどの「ハッキング」もこの語を用います。あと、物事をうまくやるためのこつ、アイデアなどの意味の名詞としても「hack」ってよく使います。「ライフハック」とか。
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というわけで、『The Reason I Jump』でした。
英語的にはちょっと骨があって、TOEIC800点台くらいの方からお読みいただきたい一冊ですが、難しいようならぜひ日本語の原書も手に取っていただきたい、そんな本でした。
また、素敵な本に出会うことができました。感謝。
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