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【洋書多読】Animal Farm [Pearson Readers](173冊目)

ジョージ・オーウェルの『Animal Farm』を読了しました(4月12日)

最近、英語学習者向けに使用する単語を制限した簡易版の洋書である「グレーテッドリーダーズ」を読んでいます。英語を指導させていただく立場として、学習に効果的と信じている「多読」を、一人でも多くの英語学習者の方に取り入れていただきたいからです。

今回は、書店でよく見かける「Pearson Readers」シリーズのものを購入してみることにしました。本書はPearson Readersのレベル6に分類されていて、裏表紙の対応レベル一覧表にはCEFR C1レベルと表示されています。

C1といえば「熟達した英語使用者」にカテゴライズされ、もはやネイティブレベルの英語力ということになります。

「Full Text」が意味していたもの

本書の表紙には「Full Text Educational Edition」という表示が見られます。

読んでいて「さすがC1レベル。表現も熟れていて難しいなぁ…」と思いながら読んでいたら、これ、オーウェルの書いた原文そのままの英語が掲載されているものだったんです。

Full Textというのはそういうことだったのでした。どおりで難しかったはずです。

そんなわけで「いつか読めたらいいな」と思っていた文豪ジョージ・オーウェルの原作に計らずもあたっていたことになりました。

『Animal Farm』とは?

『Animal Farm』は1945年に発表されたオーウェルの小説で、当時はあまり好評ではなかったようです。

擬人化された動物たちが、自分たちを搾取している農場主を追い出して動物たちのための国(農場)を作り上げるというお話ですが、最終的にはこの動物たちにおけるインテリ、テクノクラートであるところのブタさんたちが排他的に権力と富を独占することになり、しかも動物たちは自分たちが再び搾取される立場に陥っていることに気づかないまま…

とここまで書くと明らかですが、本書は扱っているテーマが「全体主義」で、あからさまに当時のソ連を批判している内容だったのが、本書に対するリアクションが当時そんなによくなかったことの理由だと思われます。イギリスにとってのソ連って当時は結構微妙だったし。

が、この作品のクオリティに対する一部の批評家の慧眼が、この作品の名声を一気に押し上げたようです。日本語にも何度も翻訳されています。個人的にはちくま文庫になっている開高健の翻訳がいいなと思っています。

『Animal Farm』の感想ー『1984』との比較を中心に

極めて政治色の強い作品ですが、一方でこの『Animal Farm』は、人間の度し難さ、愚かさといった側面を農場で暮らす動物の特性になぞらえながら表現していて、現代の僕たちが読んでも全く違和感のない作品になっています。

同じテーマを扱っているオーウェルの『1984』もまた、人間存在の度し難さを表現した近代文学の金字塔です。人間の心の機微や描写は遥かに1984の方が優れていますが、こちらは「1949年から眺めた1984年」という設定なので、どうしても「近未来」を象徴するテクノロジーが古臭いというか、ダサいというか…しっくりこないんですよね。

これはオーウェルの不明でもなんでもありません。当時の人が「監視カメラ」みたいなものやITといった現代人の生活を深く規定し(損なっている)テクノロジーの出現を予言するのはかなり困難だったと思いますから。

リアルな近未来を描こうとして実際の未来の人間である我々にとって違和感の強い舞台設定になってしまった「1984」と比べ、『Animal Farm』は、最初から完全に「動物が擬人化されている」というフィクション性を全面に出しているので、ある意味こちらのほうがすんなりと物語に入っていけるような印象です。

それよりも、『1984』と『Animal Farm』を通じて伝わってくるオーウェルの人間と社会に対する深い洞察と慧眼には本当に頭が下がる思いです。それを感じられるだけでも、本書を読んで見る価値はあります。

人間って本当に変わらないんだな。僕たちは西側の先進諸国で「動物農場」にはない自由を享受しているかのようですが、実際はそうではありません。

最終的に一部の人が権力を握ってその他大勢を搾取するという社会主義・共産主義の末期の構造は、現代では権力がマネーに姿を変えた「新自由主義」として、僕たちの世界を覆っています。人間の愚かしさは、ジャーナリストでもあったカール・マルクスが『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』で描いたとおり、ある種の喜劇として、歴史的に繰り返えされるんです。

マルクスも、フランス第三帝政の崩壊をかなり痛烈に皮肉っていますけれど、社会主義のテクノクラートをブタさんに、その社会のマジョリティを羊さんになぞらえている『Animal Farm』の方が、より痛烈で直接的な皮肉として響いてくるような感じがしています。

いつかは原書で読んでほしい、『Animal Farm』と『1984』

そんなわけでオリジナルバージョンで読むことになってしまった『Animal Farm』本当に良い作品でした。

英語は確かに難しいですし、文学なので一般的なグレーテッドリーダーズのように読みやすさは殆どありません。

でも、20世紀を代表する文豪の英語に直接触れるという経験は、英文のテクストの物理的な理解を大きく超えて、直接心に響いてくる読書体験となりました。

このまま余勢をかっていま『1984』のオリジナルバージョンを読んでいますがむちゃくちゃ面白いです。

やっぱり「ビッグブラザーはあなたを見ている」は「Big Brother is Watching You」で読まないと、この世界観は経験できないし、オーウェルの天才性に触れるのも難しくなりそうだな、というのが本音です。

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