STOP!学校の長時間労働非常勤講師に残業代 不支給の“常識”に風穴 名古屋〜すべてがNになる〜

                         2023年9月10日【1面】


いくら時間外勤務をしても残業代が出ない公立学校の“常識”に、名古屋市の非常勤講師の運動が風穴を開けています。これまでに合計1000時間超の残業を市に認めさせ、300万円近い残業代支給を実現。現在政府内で進む教員の長時間労働の是正に向けた議論にも、大きな一石を投じています。(佐久間亮)
 労働基準法は時間外労働には割増賃金を払わなければならないと定め、違反した雇い主には6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
 しかし、公立学校の教員は「教職給与特別法」(給特法)で例外扱いとされ、月給の4%を一律に支給する教職調整額と引き換えに残業代は出ません。
 教員の時間外勤務は「自主的な活動」とされ、行政は残業代を負担せず、管理職が刑罰に問われることもないため、長時間労働の要因の一つになっています。しかし、自民党は「教師の職務の特殊性」を口実に残業代支給に反対しています。
 一方、同じ教員でも時間契約で働く非常勤講師には労基法が適用されます。
 名古屋市の非常勤講師らでつくる「臨時教員制度の改善を求める会」のメンバーらは、時間外労働の是正に向け、2019年から残業時間の調査と残業代請求に取り組んできました。これまで8人の19~22年の時間外勤務計1018時間40分を残業時間と認めさせ、残業代の総額は293万5665円にのぼります。
 認められた残業時間には、授業の教材づくり、テストの作成・採点、成績処理、生徒からの相談に基づく生徒指導が含まれます。どれも学校の運営に欠かせない業務ですが、給特法のもとで、正規雇用の教員には残業と認められません。非常勤講師に残業代が支給されたことで、同じ教員でありながら雇用形態の違いで残業代の扱いに差が出る不合理さが浮き彫りになりました。
 「会」の上村和範代表委員は、学校の常識が労基法には通用しないと明らかになったことは、正規雇用の教員にとっても大きな意義があると強調します。「長時間労働の是正へ給特法を見直すべきです」
 (1面のつづき)

染みついた給特法体質 市人事委員会も苦言

 名古屋市の非常勤講師らでつくる「臨時教員制度の改善を求める会」のメンバーが2019年から取り組んできた残業代の請求運動。学校にタイムカードがないもとで、独自に勤務時間や業務内容を記録し、市教育委員会があげた不支給理由にも具体的な事実で反論してきました。

労基署勧告が力

 事態が大きく動いたのは20年に労働基準監督署が市教委に実態調査と調査結果に基づく残業代の支給を勧告してから。市教委は調査後、「会」のメンバーが請求した残業時間をすべて認めざるを得ませんでした。
 20年度の非常勤講師の公務員化にともない管轄が労基署から市人事委員会に移った後も、残業代認定の流れは続きます。21年に19~20年度の残業代を請求した三谷剛さん(仮名、50代)について、人事委は労基署とも連携して全請求期間の残業代支給につながる判定書を策定。市教委はここでも、校内での時間外勤務について三谷さんの請求を全面的に認めました。
 市人事委は、踏み込んだ苦言も呈しています。三谷さんが事前に管理職に相談していれば、業務軽減などで残業時間を発生させずにすんだと市教委が主張したからです。
 市人事委は、非常勤講師の業務軽減として実際に行われているのは、管理職など正規教員による業務の肩代わりだと指摘。非常勤講師のサービス残業も問題だが、業務の肩代わりも教員の勤務環境をさらに悪化させるので「望ましいものとはいえない」と断じたのです。
 三谷さんも、教務主任からテストの採点を代わると何度も提案されたといいます。「採点を代われば生徒の学習到達状況が分からなくなる。教師の責任が果たせなくなるので断りました。市教委は契約時間内で仕事を終わらせろというだけ。子どものことを考えていない」(三谷さん)
 事実、市教委が労基署に提出した文書には「単によりよい授業づくりのための研究・準備などは認めていない」という、非常勤講師の創意工夫を否定する記述までありました。同時に、教員に残業代支給はなじまず「このような教員の職の特殊性は、非常勤講師においても存在しうる」とも書かれていました。
 「会」の取り組みで残業時間が認められた非常勤講師のなかには、産休に入っているのに校長から在宅で教材やテストをつくるよう命じられたケースまでありました。
 「会」の上村和範代表委員は、給特法の残業代不支給制度の考え方が市教委や学校の管理職に深く染みついていることが、非常勤講師のサービス残業を問題だと感じない体質を生みだしていると語ります。

報復対応に抗議

 「会」の残業代請求が大きな成果をあげる一方、三谷さんはこの2年半、教壇に立てていません。30年近く常勤講師や非常勤講師をしてきて初めてのことです。市内では三谷さんが担当する教科の非常勤講師が足りず、75歳の人まで駆り出されるなか、三谷さんにだけ声がかからない状況が続いています。
 「会」は残業代請求に対する報復的な任用拒否と位置づけ、三谷さんの現場復帰を繰り返し要求。9月に入り、ついに市内中学校から非常勤講師の依頼が入り、復帰へと事態が大きく動いています。
 「名古屋市の学校で働く1300人の非常勤講師が、三谷さんの行方を注視しています」(上村さん)
 (2面)

 学校は友達と楽しく勉強できて、遊べる場所であってほしい―。子どもたちの願いです。ところが、そんな願いをかなえるために欠かせない教職員は、長時間労働で疲れ果て、学校は深刻な教職員不足に直面しています。学校での長時間労働に歯止めをかけて、教職員不足をなくそうと、各地で教職員と保護者、市民の共同した運動が広がっています。本紙はルポやインタビューで、運動のいまを追います。

 この報道は実際体験したので間違いないと思う。ただ日本の多くのバイトがそうであるように非常勤講師は試験期間として機能しているようにも思える。非常勤講師の賃金で生活自体は無理ではあるが、修行期間としてみればそれは許容するべき制度なのかもしれない。ただそんな給与体系では永続的に維持できる制度なのかは疑問だけど、少子高齢化、未婚率が増える現代で人口減少を見据えた制度というなら確かに教員志望者を減らす目的で多いに機能しているとおもう。


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