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漂流するマイナンバー制度(下)カード強制 次はスマホ〜すべてがNになる〜


                          2023年9月3日【2面】

 財界はマイナンバーカードの全国民への普及で、何を狙っているのでしょうか。
 経済同友会は22年4月、「マイナンバーカードの持つすべての機能は、スマホなどのデジタルデバイスに健康保険証などの機能とともに移行すべき」と提言。「将来的にはマイナンバーカードを廃止」すべきとしています。
 アンドロイド版スマホは今年5月から、マイナンバーカードの機能を搭載できます。国内で5割を超えるシェアを持つ「iPhone(アイフォーン)」も遠くない将来に対応するとみられます。

■データ集積

 23年2月の同会の政策提言では、事業者が個人データに付与しているIDをマイナンバーにして、「行政民間問わず広く流通させていくべきだ」と求めています。財界が望むデータ戦略は官民の垣根を越え、自由なデータの流通が保証されることです。日本の個人情報保護制度はぜい弱で、本人の知らないところで個人データを集積し、プロファイリングされることを拒否できません。行政機関が持つ医療や介護、生活実態などの機微な個人情報が、民間分野で「流通」すると考えると、背筋が寒くなります。
 自民党政務調査会デジタル社会推進本部が今年5月にまとめた提言『デジタル・ニッポン2023』は、デジタル社会の「将来像」について、ほぼすべての国民がマイナンバーカードを持つ「オンライン前提社会」だとしています。具体的には、国が提供するスマホアプリをダウンロードすると、国や自治体からの給付金や今後必要となる行政手続きに関するお知らせが届きます。病院ではこのアプリが診察券の代わりとして利用できます。

■アプリ提供

 政府や財界の思惑どおりに社会が「デジタル化」すれば、国はデジタル企業のあっせん機関となり、自治体は民間が展開する住民サービスを利用するためのアプリ提供機関と化してしまいます。
 財界は、ビッグデータを活用した医療DXにも期待を寄せていますが、マイナンバー制度創設のきっかけが医療・介護費の削減にあったことを忘れてはいけません。
 河野太郎デジタル相が最近頻繁に口にする「行かない窓口」「書かない窓口」などの自治体窓口DXにより、人がマンツーマンで対応してくれる対面窓口の削減が想定されます。職員のリストラも加速しそうです。身近な自治体の出張所なども「スマホで足りる」と減らされても不思議ではありません。住民の命やくらしを守るという自治体本来の機能を投げ捨てることにもつながります。
 岸田政権の暴走を許せば、そんな冷たい「デジタル社会」が待ち受けています。財界や政府の勝手な思惑でマイナンバー制度が揺らぎ、漂流している今こそ、デジタルの便利さもアナログのぬくもりも兼ね備えた、国民が主役のデジタル社会に転換するチャンスです。(おわり)
 (この連載は森糸信が担当しました)

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