東北大 異様なトップダウン総長裁量経費 年100億円 国立大学法人法改悪の未来像〜すべてがNになる〜


                         2023年11月20日【1面】
 岸田文雄政権はきょうの衆院本会議で、委員選定に文部科学相の承認が必要な合議体の設置を大規模な国立大学5法人に義務づけ、大学の最高意思決定機関とする国立大学法人法改悪案の可決、参院送付を狙っています。大学自治にとどめを刺す法案はなにを目指すのか。一つの答えが東北大にあります。(佐久間亮)
 政府はもともと、10兆円の大学ファンドの支援を受ける「国際卓越研究大学」に合議体を設置する構想でした。ところが9月の総合科学技術・イノベーション会議の会合で突然、卓越大への応募・認定に関係なく、法律で一定規模以上の国立大学に合議体設置を義務づける路線へと転換しました。法改悪案は、いわば卓越大に求める予定だった「改革」を、有無を言わせず国立大学5法人に強制するためのものです。


改革の模範校

 卓越大を選考する文科省の有識者会議は、卓越大には大学改革を先導し「模範」になる役割があると定義。「構造改革をやり切るだけの、強靱(きょうじん)な枠組みが設定されているか」も選考の重要なポイントだとしました。
 東大など10校が卓越大に名乗りをあげるなか、候補に残ったのは「改革の理念が組織に浸透している」と評価された東北大1校のみ。特に評価が高かったのが、学内資源の再配分の必要性を大学執行部が強く認識していることでした。
 片山知史・東北大学職員組合委員長は、その象徴が同大自ら「国内最大規模」と誇る総長裁量経費だと指摘します。
 総長裁量経費は、国からの運営費交付金や研究者が企業などから得た資金などの一部をいったん集め、総長の権限で学内に再配分するもの。2021年度には年間100億円に達し、同大の経常経費の1割に迫ります。一方、規模が近い京大の総長裁量経費は1億6800万円(21年度)です。
 片山氏は、必要な資金も総長裁量経費に頼らなければならず、部局単位で“総長裁量経費詣で”が起きていると指摘。「執行部の方針に異を唱えられない雰囲気をつくりだしている」と強調します。

学内の声抑圧

 異様に膨らんだ裁量経費が総長の権力の源泉となり、学内の民主主義を抑圧する―。法改悪案が通れば、そんなトップダウン体制が大学の「模範」とされ、政府が人選に影響力を持つ合議体まで加わることになります。
 影響は5法人にとどまりません。債券発行要件の緩和などで、他の国立大学にも合議体設置を促す仕掛けが法案に入っているからです。
 14日の衆院文科委の参考人質疑で隠岐さや香・東大教授は、トップダウンと政府関与の強化がセットになった法案の異様さを、こう表現しました。
 「民主主義的な先進国の大学には見られない構造です」
 (1面のつづき)

民間資金獲得・留学生10倍化目標

現場無視の悪弊先取り

 東北大のトップダウンの弊害は、10兆円の大学ファンドから支援を受ける国際卓越研究大学の応募過程でも表れました。
 「大部分の教職員が応募内容を知ったのは、9月1日に文部科学省の有識者会議が東北大を卓越大の認定候補と発表してから。応募書類に示された数値目標のあまりの高さに、認定に前向きな教員も不満をこぼしています」(片山知史・東北大学職員組合委員長)
 東北大が文科省に提出した計画では、大学の論文数を現状の年約6800本から大学ファンドの支援が終了する25年目に2万4000本にすると公約。そのうえ、引用される回数が多く、注目度が高いことを示す「トップ10%論文」も、現在の664本を6000本に増やすとしました。

支援打ち切り

 卓越大に選ばれても、応募時の公約が達成できていないと判断されれば大学ファンドの支援は打ち切られます。論文の数と質を同時に引き上げる過大な目標は、教員や大学院生に過度な圧力をかけ、アカデミックハラスメントや研究不正につながりかねないと危惧する声が上がります。
 目標には、民間企業などからの資金の受け入れ額と学部の留学生の比率を25年目にともに10倍化することも入りました。
 ただし、両目標には卓越大の選考に当たる文科省の有識者会議からも、「(資金調達目標は)従来の成長モデルの延長線上では達成は困難」「海外からの研究者や学生の受け入れ態勢は構築途上」だとされ、再検討を迫られています。
 国立大学法人法改悪案で東北大などに設置が義務化される合議体は、委員の半数以上を大学の構成員以外が占めるとみられ、そこで予算配分や6年間の中期計画が決められることになります。現場の教職員に相談せず、ごく限られた執行部だけで決めたことで出てきた東北大の非現実的な目標は、合議体の弊害の先取りともいえます。
 「少子化のなか留学生を増やすことで学生数を維持したいのでしょうが、海外の受験者の試験の公正・公平をどう担保するのか、留学生の生活や心のケアをどうするのかなど、なにも検討していません。教職員の負担は間違いなく激増します」(片山氏)
 留学生10倍化目標は、留学生を増やすことで大学の収入を増やす考えも透けます。
 卓越大への応募を主導した東北大の大野英男総長は、国立大学の債券発行要件緩和などを議論した2020年の文科省有識者会議で、日本の学生と同額と定められている留学生の授業料値上げの自由化を繰り返し要求。「(留学生の授業料は)経営の柱にもなり得る収入をもたらす」とし、将来は大学が発行した大学債を留学生の授業料で償還していく構想まで提案していました。

授業料自由化

 同会議では、現在卓越大の選考会議の座長を務める上山隆大氏が、留学生に限らない国立大学の授業料自由化を当然視する発言をしました。この間、物価高騰や金利上昇によって私立大学の授業料値上げが続くなか、法改悪案が成立すれば国立大学でも授業料自由化の動きが再燃する恐れがあります。
 唯一の卓越大候補に選ばれる一方、東北大で100年間受け継がれてきた貴重な植物標本が資金枯渇で存続の危機となり、クラウドファンディング(インターネットを通じた寄付)に頼る現実があります。
 東北大文学部4年生の男性(22)は、14日に国会内で開かれた法案廃止を求める緊急集会に地元、仙台市から駆け付け、希望していた講座の後任教授が予算の都合で雇われず、やむなく専攻を変更した経験を語りました。
 「文学部のように自分たちで資金がとれないところはじり貧になると感じました。法案によって学生たちが学ぶ基盤がますます壊されていくのではと危惧しています」

合議体設置義務付けの5法人

・東北大
・東大
・東海国立大学機構(名古屋大・岐阜大)
・京大
・大阪大
 (3面)

 トップダウンが一概に悪いとは言えませんが、学校組織とは親和性は低そうですね。軍隊などでは有効かもしれませんが。

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