主張 トヨタの認証不正問われるコストカットの体質〜すべてがNになる〜

2024年6月16日【2面】

 国民は安心して車に乗っていられるのか。自動車の安全・環境性能と大手メーカーの経営姿勢に疑問符が付く重大事態です。自動車の型式認証をめぐり、トヨタ自動車、マツダ、ヤマハ発動機、本田技研工業、スズキのメーカー5社38車種で不正が発覚しました。
 型式認証制度は、新車の販売に際して安全・環境性能と品質の均一性について国土交通省の審査を受ける制度です。審査に合格して型式を指定されると1台ずつの検査を省いて同じ型式の車を大量生産・販売できます。
 ところが、トヨタは生産中の3車種の歩行者保護試験で虚偽データを提出するなど、6種類の不正を行っていました。マツダは生産中の2車種の出力試験でエンジン制御ソフトを書き換えていました。消費者の信頼を裏切り、認証制度の信用を揺るがす行為です。


■会見での開き直り

 深刻なのは、メーカー幹部らが「より厳しい試験をしている」と開き直ったことです。特にトヨタの豊田章男会長が記者会見で「本来よりも重い厳しい試験をやった」(3日)と主張した影響は大きく、問題は認証制度にあるかのような論調が広がっています。
 しかしトヨタ幹部らの言い分をうのみにはできません。法定の試験方法を厳格に守らなかったこと自体が問題です。そのうえ認証試験は市場に出すのと同じ完成車で行う原則なのに、トヨタは完成車試験を省き、開発段階の試験データを無断で提出していたことが判明しています。

■完成車試験を省略

 トヨタの不正6種類のうち5種類が開発試験データの流用でした。開発完了後の実車試験省略によるコストカットを常態化させている疑いがあります。
 昨年4月に発覚したトヨタの完全子会社ダイハツの認証不正も、トヨタの不正と同根です。ダイハツが設置した第三者委員会の調査報告書は、トヨタの子会社になって以降に強まった「短期開発」が不正の背景にあると指摘。「短期開発を促進するために開発段階の試験データを可能な限り認証申請用にも利用する取り組みが行われてからは、開発評価の試験と認証試験の区別が厳格ではなくなり、認証制度や認証試験の重要性の認識が不十分となった」と分析しています。
 経営幹部の多くをトヨタ出身者が占めるダイハツの安全性能担当部署(衝突試験関係)の人員数は2022年に2010年比33%へ激減しました。トヨタ本体の不正が判明したいま、問われるべきは利益を最優先するトヨタの体質です。
 日本の認証制度は国連自動車基準調和世界フォーラムが定める基準に基づきます。日独仏など61カ国・1地域が多国間協定を結び、国連基準に基づく認証の相互承認を行っています。日本の型式指定を取得すると、多くの国で試験を経ずに車を販売できます。国際展開する自動車メーカーは認証制度への不満を述べる前に、経営姿勢を安全最優先へ改めるべきです。
 同時に、不正を見抜けなかった国の責任も問われます。2016年の三菱自動車燃費不正以降も不正が繰り返されています。検査のあり方を抜本的に見直し、体制を強化するべきです。


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