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すいよう特集 強欲インフレコスト増上回る値上げ 利益急増〜すべてがNになる〜

2024年7月10日【特集】


「強欲インフレ」という物騒な言葉が世間を騒がしています。企業がコスト増加分以上に価格を引き上げて収益を増やす一方、賃上げにほとんど回さない状況を指します。国内総生産(GDP)統計を分析すると、その傾向はクッキリと浮かび上がります。(清水渡)
 GDP統計にはGDPデフレーターという指標があります。これは国内における物価変動分を示すもので、輸入物価の変動は反映されません。GDPデフレーターは2015年4~6月期から22年10~12月期まで7年にわたって、前年同期に比べ±2%以下の幅でしか増減してきませんでした。しかし、23年1~3月期以降、急激に上昇しています(図1)。日本国内で大企業がコスト増加(輸入物価上昇)分以上に、急激に価格を引き上げたことを示します。

便乗値上げ

 GDPデフレーターが変動する要因は、企業収益と賃金の増減です。21年1~3月期以降のGDPデフレーターの増減について、その要因を分析したところ、23年以降は上昇要因のほとんどが企業収益の増加によるものでした。一方、賃金はほとんど増えないどころか、減少した時期もあります。つまり事実上、もうけのための便乗値上げになっているのです。まさに「強欲インフレ」です。
 賃上げを上回る物価上昇で賃金は目減りし、実質賃金は26カ月連続で減少しています(図2)。一方で大企業は内部留保を24・6兆円も積み増し、537・6兆円もため込んでいます(図3)。物価高騰がくらしを直撃し、国民が困窮する大きな要因は、大企業の強欲にあるのです。
 日本共産党の小池晃議員は「強欲インフレ」を国会で取り上げ、「物価上昇のほとんどを企業収益が占めており、賃上げに回った分はごくわずかだ」と追及。植田和男日銀総裁も「企業収益が最高水準で推移しているのに対し、名目賃金の上昇率はゆるやかだった」(6月18日、参院財政金融委員会)と認めざるをえませんでした。

最賃上げて

 個別の企業でみても、トヨタ自動車は24年3月期決算で本業のもうけを示す営業利益を前期にくらべ2兆6279億円(96・4%)増やし、5兆3529億円としました。増益の主な要因は為替変動が6850億円、値上げを中心とする「営業努力」が9200億円でした。
 一方、トヨタ労働者の年間平均賃金は前期にくらべ4万4290円増えただけ。賃金総額も46億1454万円の増額にとどまります。また下請企業などに対する調達価格の引き上げも総額3000億円にとどまり、営業利益の増加分と比べると、みすぼらしさは否めません。トヨタは同期に内部留保の大部分を占める利益剰余金を4兆4521億円積み増して、32兆7954億円としています。
 日本共産党は大企業の内部留保への時限的課税を財源に、中小企業への直接支援を行って最低賃金を引き上げることを提案しています。「強欲インフレ」に対するもっとも合理的な対策です。

深刻なインフレ不況の危険

下関市立大学・関野秀明教授の話

 「強欲インフレ」が意味するのは、政府の主張する「物価上昇と賃金引き上げの好循環」が全く実現していないということです。
 物価を上げて企業が収益を増やしても、賃金が上がらない状況が続いているのです。実質賃金の低下から深刻なインフレ不況に陥る危険性が高まっています。最低賃金の抜本的引き上げを含めた大幅賃上げが切実に求められます。


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