維新・馬場代表暴言に批判 各界の談話法政大学大学院教授(政治学) 白鳥浩さん〜すべてがNになる〜

                        2023年7月30日【1面】


支持する有権者も否定

 政党の存在自体を否定するという発言は、基本的に民主主義と相いれません。政策論として、他党の政策が一致できないということはあります。その点での批判や意見をたたかわせることはあるでしょう。それは、相手の存在を認めていることを前提にしています。存在自体を否定し、それがなくなった方がいいというような発言は、その前提を否定する発言です。
 一つの政党、公の役割を果たしている公党の存在を否定するということは、その行動を支持している多くの有権者を否定することになります。政党には、政策に共感し、党を支えてくれている多くの国民がいます。あるいは、その政党の候補者を支えている支持者が何千、何万人といるわけです。その人たちはそれぞれの政治的意思をその政党に託すのです。公党の存在を否定することは、その人々の声を否定することになります。馬場氏の発言は、民主主義の否定につながるもので、公党の代表の発言としては不適切な発言と言っていいと思います。
 馬場氏は日本維新の会を「第2自民党」と称して肯定し、共産党や立憲民主党を批判します。政党の存在を否定する発言と合わせて考えれば、自分たちと異質な意見をもった政党を否定しようとしているとも理解できます。そうなれば、国民は同質的なものからしか選べないことになります。国民に選択肢を提起するという点で、多様な政党の存在というのは不可欠です。
 (1面のつづき)

自民党と維新だけでは政策的選択肢にならず

 およそ、自民党と維新だけでは、国民にとって明確な政策的な選択肢とはなりません。維新は基本的に、防衛費も子育て政策も、自民党に総論で賛成です。相違があるのは政策実行のための財源の点です。政策的な対立軸はないのです。維新の議論は、財源をどこから確保するとか、身を切る改革が足りないというものです。LGBT法改定の問題でも、入管法でも、与党に賛成して法案を通しています。維新と自民党は政策的にさほど変わりがないのです。
 日本の政治に緊張感がないことを懸念しています。自民党が提起することに、国会でまともな議論もせずに、そのまま流されていくようなところがあります。しかし、個々の政策を見ると、国民が本当に望んでいるかといえば、そうではありません。例えば、マイナンバーカードとの一本化で健康保険証を来年秋に廃止する問題では、どのメディアの調査を見ても、7割ぐらいは反対、あるいは懸念を表明しています。にもかかわらず、岸田政権は国民の声を聞いていないのです。
 政治に緊張感を持たせるために、野党のあり方も、与党をただすこととともに、野党としての対案を示していくことが大事だと思います。
 野党共闘をやっていく中で、何のための野党共闘なのか、単なる野合になってはいけません。政策的にすり合わせて、今の政治に何を求めていくのか。ただ単に「ストップ岸田」だけでなく共通の政策を提示すべきです。共産党の志位和夫委員長も言っているように政策的な一致をつくっていくことは極めて大事だと思っています。
 かつて、維新は、立憲民主党の首相経験者から「(ナチス・ドイツの)ヒトラーを思い起こす」と言われ、発言の撤回と謝罪を求めました。ナチスは、ユダヤ人や共産主義者を弾圧し、消し去ろうとしました。ナチスは、ある特定の集団を、消滅させようとしたわけです。“ナチスと似ている”と言われて疑義を唱えた維新が、ナチスと同じように特定の政党の存在を否定するのは理解できません
 しらとり・ひろし 1968年生まれ。法政大学大学院教授。専門は政治学と現代政治分析。著書は『政権交代選挙の政治学』『市民、選挙、政党、国家』など。
 (2面)

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