大混乱 インボイス制度強行1年〜すべてがNになる〜



2024年10月1日【3面】

 岸田自公政権が、中小事業者・フリーランスの反対を押し切って消費税のインボイス(適格請求書)制度を強行してから1日で1年になります。制度開始後も「売り上げひと月分が消費税納税に消える」「技術力ではなくインボイスの有無が仕事を頼む条件なんて」など、現場は大混乱です。インボイスは廃止するしかありません。(大串昌義)


取引先との関係にヒビ

 「息の合った仲間たちと一緒に仕事ができなくなるのは困る」
 こう訴えるのは、インボイス制度に反対している「冨澤工務店」代表の冨澤昭好さん(58)=大工、東京都練馬区=です。
 主に住宅の改修工事をしている冨澤さん。消費税率10%への引き上げ、コロナ禍での受注取りやめ、資材高騰、そしてインボイス導入が仕事に悪影響をもたらしています。
 年間売上高1000万円以上の課税事業者ですが、消費者と直接取引しているため、インボイス登録の必要はありません。
 ただ、子育て支援の法人団体は事業者であり、インボイスの説明を一からわかるまで説明し、どちらがその負担を負うかを交渉しなくてはなりません。
 「今までは『こんな仕事を頼まれているんだけど、協力してもらえないか』というだけでした。それが『お宅、インボイス登録していますか』と聞かないといけません。信頼関係が崩れることに不安を感じます」
 消費税の納税義務者は事業者です。にもかかわらず、消費者に「インボイス未登録だったら、お宅に預けた消費税は納税されないの?」といわれます。国の周知不足に怒る冨澤さん。「中小業者の生きがい、生業(なりわい)を奪うインボイスを廃止させたい」

廃止へ各地で粘り強く

 昨年10月のインボイス強行実施直前、「インボイス制度を考えるフリーランスの会」(STOP!インボイス)が国会に提出したインボイス反対オンライン署名は、54万人を超えました。この反対の声を無視した強行、消費税増税と膨大な事務負担、さらに自民党の裏金問題が中小事業者やフリーランス、国民の怒りを呼びおこしました。
 STOP!インボイスが、今年の確定申告時期に行った実態調査には7000人超が回答し、91・9%が制度の見直し・中止を要求。インボイス登録事業者の62・0%が価格に転嫁できず、身を削って補填(ほてん)し、未登録事業者の44・9%が制度開始後に重要な取引先からの値引き・発注量の減少などを被ったことが明らかになりました。
 インボイス廃止へ陳情・請願活動をする東京「品川フリーランスの会」は9月、区内事業者への影響を調査するよう求める陳情を区議会に提出。24日の総務委員会で採択され、10月25日の本会議で採決が行われます。
 陳情を作成した漫画家兼イラストレーターbomi(ボミ)さんは「区は“国の制度だから”と調査を拒みますが、廃業すれば区の税収減につながります」と訴えます。
 愛知県では県内民商とSTOP!インボイス愛知支部が共同した闘いを続けています。
 全国商工団体連合会の服部守延税対部長は「税金は大軍拡ではなく平和と社会保障に使うべきです。総選挙で消費税減税・インボイス即時廃止を掲げる政党を伸ばし、自民党政治にピリオドを打ちたい」といいます。

営業の自由侵す憲法違反

立正大学法制研究所特別研究員・税理士 浦野広明さん

 消費税の基本原則を定めた「税制改革法」(1988年)の10条2項に、消費税は「課税の累積を排除する方式による」と規定しています。インボイスの有無にかかわらず、消費税の仕入れ税額控除はしなければいけないのです。
 インボイス制度は2016年度税制改定で消費税法の中に導入されました。しかし、消費税法の上位にあるのが税制改革法です。そのもとではインボイスは無効です。
 インボイスは、消費税の計算において官製の請求書しか認めないとするもので、営業の自由という市民的自由・基本的人権を侵害する憲法22条違反です。
 憲法や税制改革法は、インボイスがなくても仕入れ税額控除を認めさせる有力な手段です。
 インボイスの廃止へ署名が広がっています。インボイスの無効化は、主権者である納税者が申告権の行使として、従来の帳簿方式で申告し、それを税務署・国税庁に認めさせることで実現します。

インボイス制度とは

 インボイス(適格請求書)とは、売り手が買い手に対して消費税額や適用税率などを伝える伝票です。年間売上高1000万円以下の免税事業者はインボイスを発行することができません。
 課税事業者は、売り上げにかかった消費税から、仕入れにかかった消費税を差し引いて(仕入れ税額控除)、税務署に納めます。免税事業者から仕入れる課税事業者は、仕入れ税額控除ができず、納税額が増えてしまいます。免税事業者は自らの税負担が増える課税事業者になるか、値引きや取引排除の恐れのある免税事業者のままでいるか、“悪魔の選択”を迫られます。
 制度導入後初の確定申告で、消費税の申告件数は前年比86.9%増の197万2000件、申告納税額は9.1%増の6850億円で、ともに過去最高。インボイス導入による消費税の増税分は573億円でした。2月末時点の免税事業者の登録は153万事業者。1000万以上いるとされる免税事業者の大半がインボイスに対する不安から登録していないのが現状です。

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