国交省担当者があきれる トヨタの「おごり」完成車試験すっとばす〜すべてがNになる〜

2024年6月6日【1面】

 自動車の大量生産に必要な認証「型式指定」を巡って不正が発覚した問題で、トヨタ自動車は「(法規の定める試験方法と比べ)より厳しい条件で開発している」と弁明しています。しかし国土交通省物流・自動車局の担当者は本紙の取材に対し「一概にトヨタの試験が『法規より厳しい』とはいえない。おごりがあるのではないか」と話しました。法令違反にとどまらず、安全な自動車製造を巡るトヨタの姿勢が根本から問われる事態です。
 トヨタの発表(3日)によると、認証不正は6種類ありました。そのうち5種類は認証申請に開発段階の試験データを流用し、そのときの試験方法が法定の方法と異なっていたというものです。2015年に認証申請したカローラの事例では、歩行者と車が衝突した際の頭部へのダメージを確認する項目で、衝撃角度65度の開発試験データを流用しました。法規が定める試験は衝撃角度50度でした。
 トヨタ・カスタマーファースト推進部の宮本眞志本部長は、本来なら「衝撃角度50度で改めて試験を実施し、そのデータを提出することが必要でした」と述べつつ、「衝撃角度65度の方がより厳しい試験条件となります」と釈明しました。
 こうしたトヨタの対応には二重の逸脱があります。国交省の担当者は指摘します。
 「まず、試験は原則として市場に出すのと同じ完成車で行わなければなりません。開発段階で基準をクリアしても、完成車で同じ結果が出るとは限らないからです。開発試験データで済ませる場合には申し出てもらい、妥当性を判断する必要があります。トヨタはそうした手続きをすっ飛ばしています」
 第二に衝撃角度65度の試験が衝撃角度50度より厳しい条件だともいえないと話します。
 「衝撃の大きさはボンネットの形状によっても左右されます。そもそも法規が定める試験方法は、各国の担当者とメーカー団体が協議し、安全を確保するために国連で決めた国際基準にのっとったものです。ドイツでもフランスでも同じ試験をします。自社の試験のほうが厳しいというのは、おごりがあるのではないか」
 トヨタは問題の所在を正確に認識していないのではないか、という本紙の質問に対し、国交省の担当者は「その通りです」と答えました。トヨタは自社調査の途中であり、6種類の不正は中間報告です。無報告での開発試験データ流用を常態化させているとすれば、6種類の不正は氷山の一角である可能性もあります。トヨタ本社広報部は「国交省の指導に従っていきます」と述べています。(杉本恒如)
 (関連6面)

トヨタ認証不正、6種類

 トヨタの6種類の認証不正は以下の通りです。
(1)2014~15年、クラウン・アイシスの認証申請で、エアバッグをタイマー着火した開発試験データを流用。完成車での自動着火試験を実施しなかった。
(2)15年、カローラの認証申請。(1面参照)
(3)15年、カローラ・シエンタ・クラウンの認証申請で、歩行者と車が衝突した際の頭部や脚部へのダメージの確認に、開発試験データを流用。片側のデータを左右両側分のデータとする虚偽データを提出した。
(4)14年のクラウン、15年のシエンタの認証申請で、台車の後面衝突による燃料漏れなどの確認に、開発試験データを流用。法規基準の1100キログラムに対し1800キログラムの台車を使用した。
(5)20年、ヤリスクロスの認証申請で、衝突時の積み荷の移動による後部座席へのダメージの確認に、開発試験データを流用。法規の変更で積み荷ブロックの要件が追加されていたが、古いブロックを使ったデータを使用した。
(6)15年、レクサスRXの認証申請の際、エンジン出力の確認試験で狙った出力が得られなかったのに、原因を究明せず、コンピューター制御を調整して試験をしたデータを使用した。


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