見出し画像

物価高騰 日本経済の構造的弱点(4) 海外移転で円の需要減

                2022年4月29日【経済】

 物価高に拍車をかけている円安。その要因は日銀の金融緩和だけではありません。日本経済の構造変化によって円の実需が減少している、という要因が指摘されています。特に重大な変化は、大企業が生産拠点を海外に移転し、貿易収支を悪化させたことです。  財貨(モノ)の輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は今年3月、4124億円の赤字でした。8カ月連続のマイナスとなり、赤字基調が定着しています。2021年度の貿易収支も5兆3749億円の赤字でした。  もともと2000年代半ばごろから世界的な需要の増加と供給の抑制によって原油やLNG(液化天然ガス)の輸入額は高止まりしてきました。そこへ新型コロナウイルス禍からの景気回復やロシアのウクライナ侵略、円安の進行が重なり、原油や石炭、LNGの輸入価格が高騰したことで貿易収支の赤字幅が拡大しました。
     

輸出促進効果 移転で低下へ


 円安には輸出企業の価格競争力を高めて輸出を促す面がありますが、この効果は落ちています。大企業が生産拠点を海外に移転し、日本からの輸出数量が伸びづらくなったためです。製造業企業の子会社・孫会社による海外生産比率は19年度に37・2%に達しています(経済産業省「海外事業活動基本調査」)。他社への外部委託を含めれば、海外生産比率はさらに高まるとみられます。  ニッセイ基礎研究所の上野剛志経済研究部上席エコノミストは、これらの要因によって「2000年代半ばごろまで10兆円前後の黒字を維持していた日本の貿易収支がこの10年程度はほぼゼロに落ち込み、外貨を円に交換する円転需要の減少につながった」(「まるわかり“実質実効為替レート”」)と指摘しています。(グラフ1)

 他方、モノ・サービス・投資収益などの海外との取引の収支を合計した経常収支は大幅な黒字が続いてきました(グラフ2)。企業の海外投資の増大に伴い、海外子会社からの配当金や証券投資の利子収入など「第1次所得」が増えたためです。日本の海外での稼ぎを示す経常黒字は通常、外貨を売却して円に換金する需要を高めるため、円高を招くといわれています。 

  需要増えない「再投資収益」


 しかし「第1次所得」黒字額の14~64%(21年度)を占める「再投資収益」は、海外子会社などの内部留保として積み立てられたものであり、円の需要を増やしません。一方で企業の海外投資の活発化は、円を投資用の外貨に交換する需要を増大させるため、円の下落につながります。  また、経常収支の黒字自体が急減しています。経常収支は昨年12月に2675億円の赤字となり、今年1月には赤字幅が1兆1964億円に拡大しました。原油高や円安で輸入額が増えた一方、輸出の回復が遅れ、訪日外国人の激減が続いたためです。経常収支には季節要因による波があり、2月には1兆6483億円の黒字に戻りましたが、黒字額は前年同月と比べ1兆2177億円(42・5%)も減っています。  上野氏は、(1)日本の低成長(2)日銀の金融緩和(3)企業の生産拠点の海外シフト(4)原油価格の高止まり―という四つの要因で「円の実需が減少した」と結論付けています。  このように、現在の円安には日本経済の構造的な弱点が現れています。低賃金労働力を目当てに生産拠点を海外移転し、国内の雇用・産業・経済を破壊してきた大企業の責任は重大です。「自由貿易」の推進や海外進出企業優遇税制によって製造業の空洞化を招いた自公政権の政策の転換が必要です。(おわり)  (北川俊文、清水渡、杉本恒如が担当しました)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?