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仕上がりの匂い

大通りを一本裏に入り坂を下る。
大通りのような賑やかな雰囲気はなく
人通りがそれなりにあっても
一気に地元の雰囲気へと変わる。

坂を下り切ったところには
小学校が建っている。
その手前には併設された幼稚園もある。

近くには文房具屋、飲み屋、スーパーがあり、
また小児科、婦人科といったクリニックもある。
美容院もネイルサロンもあるし
坂の上には郵便局もあって、
この1本の坂にどれだけの家庭の生活が
支えられているのだろうか。

いつもなら自転車で素早く通るこの坂道だが
今日はどうも寒くて自転車に乗る気にならず、
早歩きすれば体も温まるはずだと
私は珍しく徒歩で出掛けた。
足取り早く、リズミカルに歩いても寒いものは寒い。
しかし顔面に、首に、全身に
冷たい風を強く受ける自転車よりは
ずっとましに感じられた。

あと少しで坂の一番下に到着するあたりで、
お店からちょうど出てくる女性と
タイミングがぶつかった。
互いにするりと避け合い
気にも留めずに通り過ぎていく。

その時、とてもいい香りがした。
コインランドリーの仕上がりの匂いだ。

新しい店が随分前にできたなとは思っていたが
自転車で通り過ぎると中まで見る機会はなく
そこがなんのお店なのか全く知らなかった。
こんなところにコインランドリー。
50代くらいだろうか、
女性は大きなバッグを抱えて出てきたところだった。
匂いがするだけで乾燥まで仕上がったときの
温度さえもが伝わってくるようだ。

私は洗濯が好きだ。
綺麗になるし、達成感がある。
コインランドリーも好きだ。
大きくて格好よくて温かいから。
旅先で大量の洗濯物を突っ込んで、
ぐわんぐわん回る様子は見ていて飽きない。

たった一瞬の出来事が
寒さを忘れさせ、
旅の思い出を思い起こし、
マンション外壁工事の都合で
洗濯物が干せなくなって
コインランドリー通いした時の
生活を思い出させた。

その時にはアクシデントであっても、
あとになってしまえば思い出になる。
きっかけはコインランドリー。
四角くて、銀色で、光っているあの大きな箱が
次は何を見せてくれるだろうか。

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