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お勧めのマフラー

私が暮らす地域に雪は降らなかったため、予定が変更になることはなかった。
つまりこの極寒の中、極度の寒がりの私が外出しなければならず、それは非常に億劫なことだった。

セーターを着て、普段は着ないジャケットを着て、一番厚いタイツを履いて、先日買った新しいコートを着て出掛けた。

寒い。

新しいコートはしゅっとしていて格好がいいのだが、初めて着て外出した時まで、胸元が開いている物だとは気が付いていなかった。
そのときは襟ぐりがV字のものを着ていたために、首筋が余計寒くてたまらなかった。
今日はそのときの教訓を活かしてハイネックを着ている。
が、寒いものは寒い。

明日買い物に出掛ける予定を立てていたのだが、変更して今日の予定の前に急ぎ買うことに決めた。
マフラーを買うのだ。暖かいやつを。

肩を縮ませて店内へと入り、バーゲン中の商品を物色していると年配の店員さんに声を掛けられる。
こいつは絶対買うだろうと見定められたらしく、あれこれ勧めてくる。
一番安いウールのマフラーを手にしていたのだが、勧めてくるのはカシミヤのものでセール品であってもウールの倍の値段だ。
ウールなら事前に考えていた予算を大きく下回り、カシミヤなら予算を大幅に上回ってしまう。

欲しかったグレーの様々なタイプの色味を鏡の前で合わせてみて(というか勝手に肩に何枚も掛けられていく)、これが一番似合いますよと勧められたのは光沢のあるカシミヤの薄いグレーのもの。
確かになめらかな手触りは心地よいが、値段もよい。
ほんの少しだけ迷って、カシミヤの物を買うことにした。

寒いから今すぐ着けたいと言えば、私が会計を済ませている最中に、せっせと私の首に巻いてくれる。
レジカウンターに対して横向きに立ち、顔と左手だけがレジの方を向き、体はマフラーを操る店員さんに預けている状態だ。
とても素敵に「こういう風に巻くといいですよ」と巻いてくれた。

会計が済み、帰り際に鏡の前でチェックをすればまた店員さんが飛んできて、再度整え直してくれる。
うまく買わされてしまったのだろうか。
いやいや、とてもいい買い物ができた。
その証拠に私は今日、とても気分よく温かく過ごすことができたんだから。

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