楽曲紹介その2 黒い土(後編)

ここでは10月の6連続リリース2曲目の”黒い土”の歌詞を解説します。

前回、意外な展開で暗い応援歌という扱いに落ち着いたこの曲ですが、実際の歌詞は一番下に置いておきます。

この曲のタイトルの”黒い土”というのは東京の黒い土のことです。
関東平野は黒墨土(くろぼくど)という土だそうで、黒いです。

僕は高校までを神戸で過ごして、18歳から東京に来ました。
1浪したので東京の板橋区で新聞配達をしながら予備校に通ってて、その板橋での新聞配達の途中で初めて土がコンクリートから露出してるとこを見ました(その後ほとんど見ることがなかった)。
神戸は特に花崗岩の赤茶色っぽい土なので東京の土の黒さに、自分は異邦人で、えらく遠い場所に来てしまったのだと孤独感とか不安感を感じました。

さて、曲中では”コンクリート”、”人の波”、”土”、”雨”の4つが登場します。
コンクリートはシステムの象徴
人の波は、集団としての人
雨は人の置かれている過酷な状況
土は 本来のその人個人
なのかもしれないと今書いてて思います。

もう一つ上京し立ての時に感じた情景が満員電車で、初めて東京の満員電車に乗った時に、集団としての人の怖さ、冷淡さを感じたのを覚えています
(特にあの、降りるときとか乗るときに肩とか肘とかで人を思いっきり押してくる感じ、そして自分も後ろから押されてるから当然というような態度に面食らった)。

土を本当に苦しめているのは実はコンクリート以上に”人の波”で、自分を押し殺しながら競争を生きるうちに、だれかを踏みつけることに気づかない、という怖さを言葉にしています。

その後29歳の時に関西に戻ることになるんですけど、その意味ではこの歌は自分の中の”東京にいてつらかった頃のこと”を歌った歌です。

サビの
”手を伸ばして 身をよじって
今日も今日も
傷ついて 身を焦がして
明日も明日も”

”手を伸ばして 身をよじって
今日も今日も
つまづいて 立ち上がって
明日も明日も”

というところは、もがいてももがいても這い上がれなくて、闇雲に手を伸ばすけれど何も掴むことができなかった頃の思いが込められてます。
院を辞めたあと毎日クラブでピアノを弾く仕事をしていて、毎日自分なりに前進も充実もしているし楽しいけど、その帰りに西新宿の(新宿や銀座で弾いていました)高層ビル街を見ながら、自分は一生這い上がれないんじゃないか?人並みに”ちゃんとした”ところまで辿り着けないんじゃないか?と胸が押しつぶされるような感覚を覚えたのを思い出します。
圧倒的な物量に、途方もない道のりに、文字通り呑まれそうになったというか。

でもまあ、つまづいたら何度でも立ち上がるぞ。折れてたまるかよ、という気概で生きることだけしかできないもんな。と決意を新たにサモエドを始めた今では思えます。

欲しいのは結果じゃない。賞賛でもない。

悔いなく挑戦し続けて死ぬことだって思うようになりました。

結局、泥にまみれて、踏みつけられて、コンクリートに呑まれて、
あの黒い土は自分だなって思うんですよね。


コンクリートの隙間に生きてるけど、
今の右肩下がりの出口のない時代、
自分が生きる人生は
”世界に一つだけの花”でも
”地上の星”でもない。

土に泥にまみれて、コンクリートの下で息苦しくて、その上なんか自分をパリッとした人たちが踏みつけて通ってく。

救いなんてないけど、消えるなよ。

そんな歌かなと思ってます。


「黒い土」

押し黙って行き交う人の波
今日も列車に飲み込まれて消える

嗚呼降りしきる今日も土砂降りの雨の中

コンクリートの隙間に飲み込まれ
生きるお前を誰もが踏みつける

嗚呼降り注ぐ光が影を呼び
それでも

手を伸ばして 身をよじって
今日も今日も
傷ついて 身を焦がして
明日も明日も
腐るなよ 嗚呼黒い土

悔やむほどにまた希望を一つずつ差し出して
俯くなよその涙も踏み越えて

手を伸ばして 身をよじって
今日も今日も
つまづいて 立ち上がって
明日も明日も
消えるなよ 嗚呼黒い土


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