もう2度と触れられないと思ってた


令和2年 12月28日
もう2度と触れられないと思っていた
もう一度だけでいいから触れたいと思い続けていた


2018年とある日に
今では大嫌いな場所で私達は出会った
お盛んだった当時の私にとってあなたは
沢山の中の1人に過ぎなかった
1つのベッドで寝たけれど
1つになることを拒んだのは
偶然だったのか必然だったのかは今でも分からない


当時の私は人生に期待なんてしていなかった
ただただ過ぎ去る毎日に必死で生きていた
大嫌いなアルコールに溺れながら
若さに頼って最低な大人達を見下していた


半年経ったある日
あの日あなたは何を思ったのだろう
何が私を受け入れてくれたのだろう
何も分からなかった
あなたの気持ちも自分の気持ちも未来も何も


やっと1つになれた日は生きた心地がした
死んでいた世界の景色が一瞬にして変わった
少しだけ期待を持ってしまった


会う度にときめいて触れられる指が愛おしくて
それなのにそんな事実を受け入れられなくて
同じ事を繰り返していた
私は変わらないんだなって絶望した
申し訳ないなんて思わなかった
知らない方が幸せな事だらけなんだから


半年経ったあの夜もいつもと変わらないはずだった
一緒にいる時間はいつも幸せで
でも幸せなことが怖くて目を逸らし続けた
神様は全然優しくなかった
どちらかといえば意地悪で残酷だった


一度崩れたものは同じ形には戻らない
もう何度泣いたかなんて忘れてしまった
どれだけ泣いても涙が枯れることはなかった
あなたが戻ってくることもなかった
"こんなに簡単にも失ってしまうんだ"
あの時の私は抜け殻そのものだった
必死で埋めようとした穴は大きくなるばかり
何をしても上手く笑えなくて
他の男に抱かれる度に自暴自棄に陥った


彼が断れないのをわかっていて
理由をつけて何度も会った夏
楽しい時間を過ごす度に自分を嫌いになり続けた
忘れよう忘れよう必死になったこの1年半
ずっと苦しかった
他の人を好きになりたい自分と葛藤を繰り返した


最後にもう一度だけ会いたい
これできちんと終わりにしよう
そんな気持ちで彼に会うことを決意した


"会いたいな"
2分後に返事が来た。
"明日の夜会社の忘年会だからその後に会おう"って。
持っていたケータイが手からスルッと落ちた。


緊張をほぐす為に1人で喫茶店に入り
彼の連絡を待った。どんな顔で会えばいいかな。


思ったよりも早く連絡が来て
交差点に来てといわれ急いでお会計を済ませた。
750円のバナナジュースの味なんて覚えていない。


目の前に現れた彼は
あの時と何も変わらなくて私が好きだった彼がいた
現実味が湧かなくて少し混乱した
相変わらず声が大きくて派手な服を着ていて
大きな身体で私をぎゅっと抱きしめてくれた

この瞬間をこの1年半ずっと待っていた
私が会いたかった人が今目の前にいる
そう思うと幸せいっぱいで仕方なかった。


"どこ行く?"
"え、今夜は任せる"
"そうだよな"って言いながら
彼はどこかへ電話をかけた

"とりあえず久々だしバーで2人でゆっくり話そ。
そしたらそのあと皆んなは2次会やってるから
そっちに合流するよ"


付き合っていた時と何も変わらない会話。
歩きながら
気づいたらあの時と同じ様に手を繋いでいた私達
側から見たらカップルにでも見えるのかな
なんてウキウキした気持ちを必死で隠した


細い路地に入るとビルがあった
"ここの8F"と言いながら着いた先には
member's onlyとかかれた扉がお出迎えしてくれた


扉を抜けるとソファーに腰掛ける人達がいた
誰もいないカウンターに座った私達

何飲む?って言われながら
私はオレンジジュースを頼んだ


きっと何気ない話を沢山した
やっぱり居心地がいいなって何度も思った
この時間が永遠に続けばいいのにと強く願った


次向かおうかと言ってタクシーに乗り込んだ


着いた先は小さなバー
"皆んないるから"って言われ再び緊張を取り戻した
6席しかない店内で思い出話に花が咲き盛り上がる
気づいたら私の手は彼の膝に伸びていた
彼の手が腰に回るのに気づいた時笑みが溢れた


夜も更けお酒も入り
針は午前の2時に差し掛かっていた
そろそろ帰ろうかの合図と共に皆解散した


"この後どうする? 帰る?"なんてずるい事を言う彼
"帰らないなら朝の8時まで一緒にいられるよ"
なんて見え見えな駆け引きまがいなことするのね


"朝まで一緒にいたい"
即答する私をみて彼は嬉しそうな表情を浮かべた


気持ちの全てを伝えた。
もう会いたくないと思われてるんじゃないかなって
ずっと思ってた。でもどうしても会いたかった。


気づいたらあの時と同じ様に
目覚めると隣に彼がいた。
変わらずたまらなく愛おしかった。
同じ気持ちでいてくれた事が嬉しかった。
優しく触れたその指はとっても暖かかった。
おはようのキスも私を見つめるその目も
照れながら笑うその姿も
ずっとこの瞬間を待っていた


私が人生で唯一本気で好きになった人
私を本気で好きになってくれた人


出会いはどんな形であれ違う形だったとしても
私達はきっと必ずどこかで出会い惹かれあっていた
そう話す彼の姿をきっとこれからも
ずっと忘れられないと思う


匂いって何年経っても変わらないんだね
覚えてるもんなんだなって
柄にもなくそんなこと言うから
同じこと思ってたよって笑って返した


これからまた楽しみだねなんて
本当に嬉しそうにするから期待ばかりしちゃう
お互いきっとまた信用を取り戻すところからの
スタートになるのかな


来年は2人で沢山思い出を作れます様に


もう2度と会えないと思っていた
このままずっと気持ちに
蓋を閉じておこうと思っていた
やっぱりこの人がいい
あなたといる時の自分が世界で1番好きだから。



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