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東京にある田舎、千歳船橋

幼少期を過ごした街で10年に一度くらい無性に懐かしくなり訪れてみると何も変わっていない、10年後ならわかるけど、20年、30年、40年経てば建物も新しくなり街の外観はそれなりの変化をするのは当然です。確かに新しい建物は増えていて、見知った角の家も建て替えて新しくなっていたりする。けど…ここは確かにあの頃住んでいた街、遊びにいくのに走った道、本質的なところは何も変わっていないように感じる不思議な街があります、千歳船橋。
世田谷区のちょうど真ん中あたりにあるその街にぼくは3歳くらいから小学3年生の冬まで住んでいました。今からもう40年も昔の話です。50近いおっさんとなってしまいましたが、記憶の始まりはこの街からになります。初めて自転車に乗れた日、雪の日に公園で遊びすぎて長靴に入った雪が凍り脱げなくなった初めての留守番の日、初めて好きな子が出来た日、今でも思い出せるその頃の記憶の景色と今の千歳船橋の景色は何故かぴったりと一致するんです。駅は古臭いホームから立派な高架に変わっていたりするけど、住んでいたマンション、通っていた小学校、友達と遊んだ神社、それらがそのまま残っていて、新しく増えた景色が変わらないものたちとうまく融合しているように見える、不思議なものです。たった10年しか変わらない通った高校のある街の桜上水なんかは駅から学校までの道がガラリと変わってしまって、歩いていても何の懐かしさも感じなく、別の街に変わってしまったようにさえ見えるのに。

そんな千歳船橋が懐かしくなり、この夏二度ほど訪れてみました。二度ともたまたま近くで日払いの仕事があり、時間もそんなに遅くないからちょっと寄ってみるか程度の気持ちで何の計画性もなく立ち寄ったのですが、その二日とも駅前で盆踊りやお祭りが開かれていました。しかもなんというか、悪い言い方をしてるわけではなく手作り感満載の、近所のおじちゃんおばちゃんが頑張ったんだよって感じのお祭りで、顔見知りの人たちがみんな楽しそうに話してるんですよ。ぼく自身田舎とか帰る場所なんて持ち合わせていなくて想像でしかないのだけど「お盆や正月に地元に帰ったらこういう感じなんだろうな」って思える光景が目の前に広がってました。
そう、もう一つこの街には不思議と変わらない光景があって、それは駅の北側にも南側にも商店街が残ってるんですよね。北側の一部は知り合いの人がやっていたお店も含めて少しシャッターが目立つ感じになってしまっているけど、あの頃なかった店も含めてあの頃の賑わいを再現してくれているように見えるんです。でかい何でも揃うスーパーみたいなものはないけど、それぞれの店でそこそこのものは揃う、別にそのくらいならいいなっていう不便さが残ってる。
こういう変わらなさって住んでいる人、商売してる人がこの街を大切にしているからこそのものだとぼくは思うんです。住んでいる人はぼく特有の言い方をさせてもらうと「残ってくれた人」になります。
ぼくが小学校低学年の頃はまさにバブル期で土地の価格もどんどん高騰しており、地上げ屋だなんだとそりゃ酷いものでした。古い戸建は売ってくれと執拗に迫られ、企業の古い社宅などは分譲するマンションを建てるために取り壊されていきました。実際、その勢いは凄まじいもので10歳にも満たない子どもが実感できるレベルのものでした。だって入学した時に3クラスもあったのに3年生でクラス替えをしたら2クラスに減ってたんですよ。2年生の頃なんて毎月お別れ会をしていた記憶があります。その波は3年生になっても収まらずに新学期が来ると友達がいなくなっている生活は続きました。そして「転校」というぼくの中で最も忌むべき単語になっていたそれは皆と全く異なる理由でぼくの身にも降りかかってきました。まぁ、親族間の諍いで親と誰が同居するかって押し付け合いがあり、うちが選ばれただけなんですけどね。そうして幼いながらもコミュニティが崩壊していく様をまざまざと見せつけられたぼくにとって今千歳船橋を支えてくれているぼくの世代は「残ってくれた人たち」なのです。
トラウマってほどじゃないけど、小学校の2年間(1年の頃は入院ばかりしていて学校に行った記憶がさほどないので…)に感じたあの寂しさは今でも思い出せます。きっと街に残った彼らも同じ記憶を持っていてくれてることだと思います。2000年代、令和になっても昭和が残る千歳船橋。この街はそんな悲しい子ども時代を過ごした人たちがたまにフラッと立ち寄るぼくらのためにあの頃の姿を残し続けてくれている東京の田舎なんだと思います。

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