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穢れた口に関するアンケートについて

それはもう歯医者の何かなんよ。

っちゅうわけで、『近畿地方のある場所について』で一躍人気ホラー作家になった背筋さんの新作、『口に関するアンケート』と『穢れた聖地巡礼について』が相次いで発売されたのを読んだんで、その話でもと思って。


口に関するアンケート

急やけど、みんなは「角川mini文庫」を知ってるやろか? ロードス島戦記とかフォーチュンクエストのスピンオフなんかがあってんけど、ちょうど手のひらサイズで厚紙表紙で薄いページ数の。
『口に関するアンケート』はサイズといい、造本といい、ページ数といい、あれにそっくりなんよね。全部で63ページの短編ホラーやから、まあ普通の判型の本にするんは難しかったんやろうね。

Amazonなんかやと6月にはもう予約開始してたんやけど、いっこうにどこ見てもあらすじが出てこんくてやな。発売までこんな小さい本やとは思てへんかったし、内容も全然わからんままやってんけど、まあ、ちょっとしたひねりが効いてて、おもろい作品やった。「山椒は小粒でピリリと辛い」みたいなね。

内容的にはなんせページ数がページ数やからすぐネタバレになりそうなんで紹介が難しいんやけど、とある心霊スポットでの出来事について複数人が語るっちゅう話やね。ちょっと『羅生門』ぽくもあり、ミステリみたいでもあり。

なんでそれが『口に関するアンケート』なんかは読んでのお楽しみっちゅうことで。

ただ、あれやね。個人的に一番怖いんは、こんなに短い話を特殊な判型にしてまで、わざわざ児童小説の老舗のポプラ社が出版しようと思ったっちゅうところやね。理由は調べれば出てくるんかもしらんけど、その経緯になにがしかゾッとするような裏があるんちゃうか、なんて期待してまうよね。


穢れた聖地巡礼について

こっちは心霊系youtuberのファンブックを出すために、その心霊youtuber、編集者、ライターが心霊youtuberの動画をピックアップして、それぞれに深堀りして明かされる背景や真相をでっちあげていくが……。

まあ、ここだけ見るとウンベルト・エーコの『フーコーの振り子』の遠い末裔みたいなあらすじやねんけど、「読者が引っかかったり、関連を見出すだろう部分、そして思い描く像」と「作中の登場人物が引っかかったり、関連を見出す部分、そして思い描く像」とが異なってるあたりが面白かった。

言い換えると「同じものを見ている」のに読者の視線と登場人物の視線とが交わらん感じっちゅうか。

その交わらない理由も一応、作中人物と読者との情報に対するスタンスの違いから来ているんやろうな、って無理なく受け取れるようになっとって、さすがに上手いなと思わされたわ。

読者と作中人物とで持ってる情報量に差があるせいもあるんやけど、この「情報の差」が、そのまま「全体像への視差」になってるあたりの処理がキレイや。

それにしてもあれやね。梨さんも背筋さんも、変格ホラーの旗手みたいな二人がそろってSEO弱い名前してんのは何でなんやろね。

てなわけで、良い子と良い大人はもう寝る時間やで!ここからはハイパーネタバレ有りタイムやからね!





げんきなあなたがうまれます。かきもありますよ。







『口に関するアンケート』はあれやったね。ホラーっちゅうより、オカルトを凶器にした殺人の謎解きミステリーやったね。タイトルがどう結びつくんか謎やったけど、最後のタネ明かしにぶっ込んでくるあたり、さすがやわ。全員一堂に会してるとは思わんかったけど、まあ怪異に処されるときに喋らされた話なんやろな、てのはいちおう予想できるようになってるんも優しさやんな。

『穢れた聖地巡礼について』は小林たちが媒介者、元凶、あるいは象徴としての風船頭の存在と、脈絡なく人を呪う方法を得てそれを実行すると、被害者が子供に生まれ変わって戻って来る、っちゅうサイクル。こうした枠組みを見てへんから読者と違う像が描かれたわけやね。

これはまあ、寝取り女と作家に実際あったことやら、敬一に呪われた女性(終盤では他にも呪われたっぽい人らが混ざってたけど)の部分は読者しか知らんからしゃあない。

結果的に小林たちは真相とは違う絵図を見て終わるわけやけしバッドエンド味あるわけやけど、その辺はホラーやから、そういうこともあるやんなあ。

あと、おっちゃん的に未決の謎としては以下のようなんがあるで。

寝取り女も作家も子供の頃に風船頭を見てるようやから、チャンイケも子供の頃に見てるんやろか。養子らしいし、なんらかそこに関わりあるんかな。

風船頭は加害者の子に生まれ変わるために穢れた聖地を巡礼してる被害者でもあるわけやけど、生まれ変わって憎まれ呪われて呪を繋いでいかないと、的なことを敬一の被害者が言うてたから、寝取り女の子供や作家の子供もいずれは呪われるんやろか。
写真の女や作家の祖母も呪われた被害者の生まれ変わりなんやろか。

天国病院でケータイ拾って追いかけてきてた風船頭もおるから、風船頭には呪いの被害者と、元凶的な、それこそ呪わしい神様みたいなんと、少なくとも2種類おるんやろか。

こんなとこやね。

それにしても、六部殺しみたいな古くからある民話をコアに持ってきたところ。あれがホンマにセンスあるやんね。今になってモチーフとして取り上げようっちゅう発想もなかなか普通できひんし、それをあないにアレンジしたり、書名も心霊スポットの聖地巡礼と、呪われて呪いを媒介する穢れた巡礼者の聖地巡りと、両方に掛かってるあたりもグッと来るやん。

と、ここまで、『口に関するアンケート』も『穢れた聖地巡礼について』も未読のまま読んでもうた人はおるかな? なんのことやら解らん部分だらけやろうけど、そこはぜひ、それぞれ買うて読んでみてほしい。おっちゃんからのお願いやで! かきもありますよ! ないけど。げんきなあなたがうまれます!  生まれへんけど。

そもそもおっちゃんはいつも元気や。特に朝なんかは(以下、元気な中年男性特有のヒドい下ネタが続くため、割愛ス)


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