何かの書きかけのやつ

私はミステリー小説が嫌いだ。だから謎解きなんてさせない。先輩が死んだのは事故だ。

先輩の顔をはじめて見たのは一年の夏休み明けで、部員の少なくなった文芸部と、ろくに絵を描かなくなった美術部の部室が統合されてはじめての水曜日。 

すらりと背が高くて整った顔がいつも物憂げ……なのは先輩ではなく部長。その隣でわーわー騒ぐのが副部長である先輩だ。 あとの三人は一年生で、三年生は誰もいない。それが文芸部だった。

一方の美術部はというと、人数だけは多いもののほとんど幽霊部員という有り様で、まともに来ているのは一年生だけ。そのうちの一人が私だ。それでまあ、仲良くなった。

活動をするために。というより、暇を潰すために集まっていた私たちはなんとなく一つのグループみたいだった。

先輩には頬を膨らませておどける癖があって、そんな子供っぽい振る舞いは無性に私をいらだたせた。

きっと私は先輩が嫌いだったのだ。そうにちがいない。

その証拠に先輩の小説を読むのも苦痛だった。スカした探偵が出てきて、たまに筆者が読者に語りかけてくる。そういう話を先輩はよく書いた。

私は知っている。先輩がミステリー小説を書いていたのは、結局あの子の真似だ。先輩の小説は正直あまり面白くなかった。というか、読んでるこっちが恥ずかしくなるような、妙に背伸びをして今にも転びそうな小説だった。背伸びをした目線の先、というのはつまりあの子で、それはみんなが知っていることだった。

勘のいい読者ならお気づきであろう、




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?