妄想

 みんなでピクニックに来た。眺めのいいこの場所を提案したのは私だがそれには狙いがあった。

 「いい眺めだねー。」顔のかわいい彼女が言う。そりゃそうだ。眺めのいい場所に来たらいい眺めだろう。それはさておいて、背後にまわった私はそっと手をつきだす。断末魔でみんな起こった出来事に気がつくが、白々しい演技で何が起こったのかわからないふりをする。

 頭のいい彼はどうやって助けようか崖の底を覗き込む。いっしょに考え込むふりをして私は耳に息を吹きかける。「ワッ!」と驚いた彼も底に落ちていった。

 そんな調子で足がはやいあの子も、お金持ちのあいつも、その他大勢もろもろ突き落とした。最後に運のいい彼を蹴り落としてようやく全員かたづいた。帰ろう。そう思ったとき声が聞こえる。

 「よかったー!みんな生きてた!!」あわてて下を見てみると、どうやらここは海の上だったらしい。水面から顔を出した彼らは互い顔を見合わせて話し合いを始めた。一人が南の方を指さす。無人島があった。

 それからよくこの場所をおとずれるようになった。双眼鏡をのぞくとみんなが見える。たまに踊りのうまいその人が踊ったり、喧嘩がおこれば声の大きいあの人がとりまとめたりしている。みんななんだかんだで楽しそうに暮らしている。私は遠くから一人、何ができるわけでもなく、それを眺めるしかないのだった。

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