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ラブ・マイナス・ゼロ

こんにちは

ここにボブ・デイランの『ラブ・マイナス・ゼロ』という曲があります。
古い曲ですが、名曲です。


Love Minus Zero/No Limit
My love she speaks like silense 彼女は沈黙のようにしゃべる
Without ideals or violence理想も暴力もなしに
   (中略)
真夜中の橋がふるえる
いなかの医者が散歩する
銀行家の姪が完全をもとめ
聖者たちからの贈り物をすべて期待する
風はハンマーのように吠え
夜はつめたく吹き雨もよい
彼女はなんだかオオガラスのように
わたしの窓べに傷ついた羽をやすめる

ボブ・デイラン「ラブ・マイナス・ゼロ」片桐ユズル訳

原詩は、これでもかというほど繰り返し繰り返し独特の韻を踏み、

彼女はなんだかオオガラスのように
わたしの窓べに傷ついた羽をやすめる

この、ため息が出るような2行で終わります。

この曲における「0」は、引こうとしても何も引けない、おとなしい「0」ですが

タロット・カードにおいて極めて個性的な「0」(ゼロ)のカードが存在します。



多くのタロット・デッキにおいて22枚の大アルカナカードの中で、唯一番号が振りあてられていないカード。

写真のデッキはポピュラーなライダー版を基にしたものですが、
絵柄を見てください、
小さな荷物ひとつを肩にかけた若者が描かれています。
片方の手には白い百合の花。
彼の表情からは、自由を満喫している人の、幸福感がうかがえます。
一歩先は断崖で、白い犬はその危険を知らせようと彼の脚にまとわりついていますが、果たしてその声は彼の耳に届くのでしょうか?

注目すべきは、彼の持つ花、足元の犬、果ては頭上の太陽までもが「白」であること。
「THE FOOL」、0(ゼロ)たる彼の魂が穢れなきものである、ということを現しています。

しかし、0は何処まで行っても0であり、
悪く捉えれば、彼は現実逃避の夢見人ということになります。
「0」   の存在感は、「夢さえあれば……」という思想の元で確かな輝きを放ちます。

「0」の「夢」を「現実」に代えていくのが、次の数字「1」が割り振られたカード、「THE MAGICIAN」です。
何か失敗をしたときなどに、人は「イチからやり直したい」と言います。

しかし、
「ゼロからやり直したい」←これはありません。
ゼロは「無」なのですから。
「無かったこと」にするのは「ゼロに戻す」です。

人生が何度でも、いつでもやり直しが出来るのならば、
イチからでも、ゼロに戻ってでも……そう思う人は少なくないですが、
その前に、「今と此処」をもう一度見つめることも大切な事かと思います。


まるで「0」のカードから抜け出したかのような、ギター一本を抱えた若者が「世界のボブ・デイラン」と呼ばれるようになって、どれだけの時が経ったのでしょうか?

今年の春には、80歳を超えた彼の日本公演が行われ、「最後の日本公演」と銘うたれていました。
(私は行かなかった)
彼はたぶん、何歳になろうと、自分の足で立つことが出来る限りステージに立ち続けるだろうな、と思っています。

ボブ・デイランの中にはきっと、「0」、THE FOOLが住み続けていると思えるので。


お読みいただきありがとうございます。
※ヘッダーの写真は1994年ボブ・デイラン日本公演の際に購入した灰皿
記事中の写真は、星川玲所有のタロットカードです。