見出し画像

あまりにリアルで古傷がジクジクする 〜すずめの戸締り、観た〜

こんにちは。

先日、すずめの戸締りを観ました。

グランドシネマサンシャイン池袋5番シアター
とても映像と音響がいいシアターです。大好き。

いろんな思いが胸を駆け抜け、ジクジクしてしまったので、ここに書いて吐き出したいと思います。

※ネタバレありなのでお気をつけください※

最初のシーンみて落ちがわかる

私は新海誠監督の作品が好きです。
初めてみた作品は、おそらく多くの方がそうであるように、『秒速5センチメートル』でした。
あのどうしようもない切なさと映像の美しさ、そして社会の理不尽さ、全てひっくるめて生きていかなければならない感じ、本当に好きです。
新海誠監督作品の中では『言の葉の庭』が1番好きです。
『君の名は。』は初めてみた時泣きすぎて深夜に立川の歩道橋の下で20分くらいうずくまりないて、泣きながらチャリで家に帰ったことを昨日の事のように思い出します
(そのうち書きます。)

さて、そんな私が今回も注目される『すずめの戸締り』をやっとみて思ったこと、それは上にある「オチわかった」でした。
だいたいの人がそうかもしれないですが、最後までみなくても最初に出てくる女の人が誰なのか分かっちゃったよ〜どんな話なのかだいたい分かったよ〜となったわけです。

それはいいとして、すずめが九州の田舎でなんとなく窮屈さを感じながら過ごしている感じ、そしてイケメン草太さんと出会ってなんとな〜く世界が変わりそうな淡い期待、ダイジンかわいい……けどヤバ……とやいのやいの言っていたら、すっげ〜男出てきた……

アロハシャツおかっぱ丸眼鏡タレ目真っ赤なオープンカーで懐メロ聴きながらタバコ吸う立教大学教育学部ピアスバカバカ性癖お兄さん(CV: 神木隆之介)〜!?!?!?

アロハシャツおかっぱ丸眼鏡タレ目真っ赤なオープンカーで懐メロ聴きながらタバコ吸う立教大学教育学部ピアスバカバカ性癖お兄さん(CV: 神木隆之介)こと芹澤朋也さん

なにこの、この世の全ての性癖を詰め込みましたみたいな男ッー?!?!

正直、彼の存在は知っていました。
スタツアに何十回通って、その度にすずめの予告をみていたので、彼が「あいつは自分のことを粗末に扱いすぎる」という一言とともに出てくることは知っていました……
これが問題の予告です。

それにしてもえっちすぎるでしょ……

まず彼の初登場シーンが問題。

草太さんが留守の時に部屋を訪ねてきてドアを開ける?

合鍵を持ってるんでしょうか?
そして勝手知ったる感じで部屋に入ってくるのはよく遊んでるからなんでしょうか?
いないとわかると悪態をつきつつ心配してるんだと暗に伝えてくる分かりにくい優しさなんなんでしょうか?
ちょっともすずめと打ち解けるような気配もなくいなくなるのなんなんですか?

ど混乱

しかし顔がいいので全てOKです。
顔がいい男はそのまましばらく出てこなくて、怒涛のストーリー展開になんとなく存在をわすれかけたところにまた現れます。

真っ赤なオープンカーで御茶ノ水駅前の陸橋の前で待つな

衝撃しかありません。
ド性癖男なんだからそういうこと辞めた方がいいと思います。
しかも見慣れない制服を着た女の子と揉めてたら何らかの事件かと思うので気をつけた方がいいと思います。
草太さんが心配だからといって、女子高生と2人旅はかなり……こう……怪しい匂いがしてしまいます。

噂で女の子2人旅にしたかったけど男の子との旅にした、ということを聞きましたが、どっちがよかったのか分かんねぇなこれもう……と思いました。

しかも気まずい雰囲気のあるすずめとそのおばさんと、3人での旅なのに空気悪すぎてかわいそうすぎる……そんな不憫なところもイイ……

そのビジュアルで懐メロは死人が出るので歌わない方がいいのでは?

まぁそれはさておき、旅も中盤、すずめの故郷である東北へと向かっていきます。
その途中、震災の傷跡の残るところ、流されてしまったあとに植樹された頼りない木々や震災の後にたった防波堤の間を進んでいくすずめたち。

私はこの辺りですごく心臓がじくじくして、苦しくなってきました。
極めつけ、途中、人がしばらく住めなくなってしまっていた土地を通り、すずめが丘を登っていくシーン。
そこからみえた景色に涙が止まらくなりました。

私の出身は福島県の浜通りです。
住めなくなった土地ではありませんでしたが、あの辺りは小さい時から遊びに行ったり、親戚が住んでいたり、思い出も深い土地でした。
丘から見えた景色は私の頭に残る景色をリフレインさせて、映画の画面の中に見える黒いビニールや草に覆われた現在に近い状況と重なって、息を詰めました。

そこでどちゃクソ性癖男が「知らなかった。この辺ってこんなに綺麗なんだな」というのも残酷な話だなと思いました。
私には、そしておそらくすずめにとっても、あの震災というのは、生活を一変させるインパクトを持ったもので、その場所はまだ震災をまだ突きつけてきて、綺麗というより「まだ片付いていない場所」な訳で。
本当はもっと綺麗なんだよ、と私は思ったし、すずめもきっとそれに近しいことを思って傷ついたような顔をしたんじゃないかなと思いました。

芹澤が知らなかったというのも無理はないと思います。
彼もまだ21とかそういう年齢で、震災の時は10歳。
もしかしたらテレビでみていたかもしれないけれど、だとしても知らない映画の世界のようにみえていたのではないでしょうか。
テレビだけみていたら、フクシマというのは記号になり、危険な土地、行ってはいけないところ、というイメージだけになり、そこで暮らす人のことは見えなくなってしまうと思います。
爆発の度になっていたサイレンの音や締め切った部屋の空気と暗い部屋、どうするか話をする大人を眺めていたあの頃、全てが不安でどうしたらいいか分からなかったという私のようなこどもはたくさんいたし、その後も公共施設には必ずある線量計や天気予報とともに流れるその日の放射線量なんて、他県の人には分からなかったでしょうし、いつの間にか日々の生活の中に埋もれていたとも思います。
だからこそ、純粋に傷ついたすずめに救われたなと思うこともあります。

途中のサービスエリアでのおばさんとの「あんたなんか引き取らなきゃよかった」「好きでおばさんといるわけじゃない」という会話もすごく苦しかった。
私の周りは幸せなことにみんな無事で、いまも元気に過ごせているけれど、そうじゃなくて、悲しいお別れをした人もたくさんいて、それでも生きていかなければならない、悲しんでばかりはいられない、という状況もそこにはあったと思います。
きちんと悲しむ事も出来ないまま、生活を立て直さなければならない、そんな苦しさやもどかしさの中、姉に残された大切な忘れ形見のような娘を育て上げたいという想いと、自分の人生としての幸せと、10年以上経ったからこそ回らなくなってきた部分もある、そういう描写だったなと思います。

私は、震災の後、先行き分からない政府と原発の状況を不安に思った家族の以降で、知り合いを頼り西の方に引っ越すことになりました。
そこでは、ごく普通の日常が流れていて、震災はやっぱり「遠い世界のこと」でした。
高校を転校した私は、転校生という物珍しさと、被災地からきたという話題性もあいまり、すごく丁重に扱われたなと思います。
ただ、私の心はずっと地元に置きっぱなしで、私だけここにいていいのかな、みんな前に進むべくがんばっているのにな、と申し訳なさで押しつぶされそうになります。
「明日土曜課外でね〜」と別れた友達とも1度もあえないまま、10年以上が経って、会うタイミングすら失ったままで。
祖父母の介護などで実家が福島県に戻ったあとも、すでに大学生になっていた私は地元に戻るタイミングも、この心の置き所のなさも、そのままに年月だけが経ってしまいました。

そんな私の心も連れて、すずめは東北へ帰ってくれました。
そして、自分で、泣いている自分を救い、私も救ってくれました。

確かに、君の名は。や天気の子のような引きのあるシーンや強烈に印象に残る場面というのはなかったかもしれません。
ただ確実に、古傷を直しきれずじくじくさせて、絆創膏も剥がせない私の心をすくい上げてくれる映画だったなと思います。

今回、すずめはたくさんのひとに「いってらっしゃい」と言われ、「いってきます」と返しています。彼らはすずめが必ず帰ってくることを信じ、そしてすずめもその信頼を裏切らず帰ってきます。
道中で助けられた人達にもちゃんとエンドロールで改めて挨拶にいって。
あの日、たくさんの伝えられなかった「ただいま」と「おかえり」をすずめが伝えてくれているようで、本当に嬉しかったです。

新海監督は、あれから10年が経ち、もう震災の記憶も薄れ、知らない子ども達も増えた、と言っていましたが、私にとっては昨日のことかと思うようなくらいで、でも歴史の教科書に乗ったり、もう何年も経つというニュースを観たり、現実と自分の心がチグハグなことを改めて突きつけられました。
君の名は。の彗星の時も「救いの物語だ」と想いながらぐちゃぐちゃに泣き、天気の子の水害では「誰かだけの幸せため、というテーマが苦しい」とぐちゃぐちゃに泣き、今回も「あの頃の気持ちを昇華してくれる」とぐちゃぐちゃに泣いているので、本当に新海監督のツボが大好きだなと思っています。

さて、また観たいかと言われると、かなり苦しくて暫くは観たくないと思うのですが、アロハシャツおかっぱ丸眼鏡タレ目真っ赤なオープンカーで懐メロ聴きながらタバコ吸う立教大学教育学部ピアスバカバカ性癖お兄さん(CV: 神木隆之介)こと芹澤朋也さんにまたあいたいのでそのうち観ると思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?