2021年2月の記事一覧
大島薫初の小説『不道徳』 #3/32
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同じ日の昼過ぎ、二日酔いが残る頭をシングルベッドに預けながら、拓海は陸から教えられたサイトを眺めていた。男っぽいシンプルな家具ばかり並ぶ室内は、お世辞にも華やかとは言い難い。
「一日五万か……」
募集内容に書かれた文言をつぶやく。自分の月収の約四分の一だ。
拓海は常々、不公平に思うことがあった。それは、どうして女はいつも最初から優遇されているのだろうということだ。
拓海が高
大島薫初の小説『不道徳』 #2/32
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「マジで!」
陸は今度は物理的に少し身を引いた。
「あ、ああ、マジマジ……そんな嬉しそうな顔すんなよ。お前このあとたぶん残念そうにするから」
陸は妙ににやついている。
「まさか。そんな理想の仕事があって、俺が残念がるわけないだろ? いますぐにでもやりたい気分だよ!」
「そうか、ちょっと待ってて」
自信満々に豪語する拓海を見て、陸はそういうとズボンのポケットからスマートフォンを
大島薫初の小説『不道徳』 #1/32
二〇一一年十月二十九日午後六時ごろ、警視庁保安課と新宿署によって行われた強制捜査は、その業界においてかつてないほど大規模なものとなった。西武新宿駅からJR大久保駅の中間にあたる小滝橋通り沿い、北新宿と呼ばれるエリアに一件の雑居ビルが建っている。今回の摘発はその地下にある社交クラブ、「スマッシュ」を利用する客の中から違法薬物を見つけ出すのが目的だった。
「そのままで!」
扉を開けた年配の刑事が両