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ラポルト離脱に見る今季のシティ 〜 攻撃の停滞を生む「2つのパス」 〜

CL決勝トーナメントも始まり、ビッグイヤーへの期待と緊張感が大きくなってきた!というところで海外サッカーは中断してしまった。某ウィルスの影響で。まあこれは生命に関わるくらいの大きな問題なので、一人一人が正しい行動をとることに努めたいところである。

さて、こうして期間が空いてしまったので、せっかくだから今シーズンのシティを振り返ろう!と思い立って綴ったのが本稿である。昨季までのおぼろげな記憶とも比較しつつ(しっかり記事を書きはじめたのが今シーズンからなので)、「今季のシティのサッカーがどのような傾向にあるのか」について考えていきたい。

2つのパスの欠如

今シーズンのシティは怪我人が続出する事態となってしまった。コミュニティシールドでのサネの怪我に始まり、リーグ戦中盤では4、5人が離脱する状態が続いた。誰かが復帰すれば誰かが離脱するという事態に悶絶したファンも、そう少なくないだろう。

その中で特記すべきはエメリク・ラポルトの長期離脱だ。主将コンパニの退団に伴ってCBの人数をひとつ減らしたシティに降り注いだ絶対的DFの離脱は、サネの離脱以上に大きな影響を与えることとなった。今回は、このラポルトの離脱を出発点に、色々と考察をしていきたい。

このラポルト不在の影響を考える上で、ラポルトがどのような役割を担っていたかを考える必要がある。これを考えることで、その役割を代わりに担う選手を起用する必要がある、と考えることができるからだ。

結論から述べてしまうと、ラポルトの出す、攻撃の起点としてのパスには2種類あると考える。「同サイドFWへの縦パス」と「RWGへのサイドチェンジ」だ。構える守備ブロックを崩すための初手としてのこの二つのパスが、シティにおいて重要な役割を担っている。

まず一つ目。「同サイドFWへの縦パス」とは、その言葉通り同サイド、つまり左サイドのFWへのパスである。ここでのFWとは、LWGはもちろんだが、LIHも同様にFWだと考えてもらいたい。相手のMFラインとDFラインの間に位置する選手は、基本的に3トップに2IH(インサイドハーフ)を加えた5人だ。選手名を挙げて言うなら、アグエロやスターリングらFWに、D・シルバやデ・ブライネを合わせた5人のことを指す。

元来、シティは5レーン理論に則って先述した5人を前線に配置する。サイドで幅を取るWG(=ドリブラー)がボールを持つと、相手SBはプレッシャーをかけざるを得ない。そうすると、シティのIHに対して相手CBは出ていくか否かの選択を迫られる。IHに自由にプレーさせたくはないし、かといってゴール前を開けてはいけないというジレンマに襲われるからだ。ペップシティは、これを軸にして今まで戦ってきた。

ラポルトはそんな「崩し」の局面において、CBというポジションでありながらも直接FWへボールを供給することができる。この「直接」というのが重要で、各駅停車のようにパスを回してしまえば、相手に守備組織を整える時間を与えてしまう。ボールを動かすことで相手を揺さぶり、スペースができたところで「同サイドFWへの縦パス」によって素早くWGにボールを供給できれば、相手は守備組織崩壊の路を辿る。左利きのCBである彼は、中央からのプレッシャーに対してボールを隠しながらFWに供給できるから、シティの中でも唯一無二の存在として重宝されていることは間違いない。

「相手を揺さぶったことで空いたスペースを有効活用できる一手を挿せる」となれば、かたや「相手を揺さぶらせるボールを供給できる」のもラポルトの特徴だ。それが二つ目の「RWGへのサイドチェンジ」である。相手FWにボールを触らせまい!としてボールホルダーのラポルトのサイドへ守備ブロックがスライドすれば、当然逆サイドにはスペースができる。そこでラポルトは、低く速い弾道をRWGに打ち込む。打ち込むようなパスなのに、高精度で無駄がないから圧巻だ。

もちろんサイドチェンジは、そう頻繁に行われるわけではない。即時奪回も意識しなければならないボール保持の局面では、味方の配置が整っていることが攻めの手を打つにあたっての前提条件だ。ロングボールを多用すれば、相手だけではなく味方の配置が崩れた状態になる危険性が出てくる。「伝家の宝刀」的に扱われるラポルトのサイドチェンジは、機会がそう多くないから印象に残りやすいのかもしれない。

そんなわけで、「RWGへのサイドチェンジ」はどこかを経由することがある。よく中継されるのはアンカーやRIH。ウォーカーも受けるかな。もっとも安全ルートと言えるRCBにしか出せない!なんてことはない。直接ではなくとも1人飛ばしのパスで素早くRWGに届ける。そんなパスも「RWGへのサイドチェンジ」に分類していいだろう。

以上2種類のパスが、攻撃のスイッチを入れるラポルトのパスである。まとめると、CBとして左後方に位置するラポルトはパスの選択肢が幅広い、と言えるだろう。ボールを動かすことで相手をコントロールし、それに応じた配球を的確に行えることが重要なわけだが、ラポルトの存在はその配球の幅を増やすことにつながり、崩しを容易にする効果がある。そんなラポルトが離脱したことで、この2種類のパスの欠如を招いた、と言えるだろう。

話が長くなるので深くは書かないが、今シーズン第3節ボーンマス戦は、そんなラポルトの特徴が際立って出た試合であった。先述した2種類のパスのうち、1点目は「同サイドFWへの縦パス」から、2点目は「RWGへのサイドチェンジ」からであった。YouTube等でハイライトは出てくると思うので、暇な人は観てもいいと思う。また、僕はこの試合のマッチレビューは書いていないので、より詳しく記されたマッチレビューはこちらをどうぞ。ちなみにこれ、13歳の方が書いているらしいです。凄い。笑

ラポルトの「代役」の起用

そんな絶対的DFラポルトを早々に欠いた今季のシティ。プレースタイルをガラリと変える!なんてことはできないししたくないので、先述したラポルトの役割を他で担う必要が出てきたわけだ。サイドチェンジしなくても同サイドからこじ開けられる!なんて保証はできないし、判断としては妥当かなと思う。

そんなわけで今季重宝されるようになったのが、メンディとギュンドアンの2人だ。これまでの2シーズンを大怪我で棒に振る形となったメンディは、スタートこそ遅れたものの、ジンチェンコの怪我もあってコンスタントに試合に出場している。また、ロドリの加入でこれまでほどアンカーをやる必要がなくなったギュンドアンは、LIHとして昨季と同じくらいのペースで試合に出場。反対にD・シルバは昨季ほどは試合に出ていないという現状だ。

大型のLSBとして、大外のレーンを主戦場とするバンジャマン・メンディ(「バンジャマン・メンディ」の響きが好きだからここだけフルネームで書かせて!)は、サネの離脱もあってスターリングとタッグを組むことが多い。この場合、メンディが大外に張る形となり、スターリングはひとつ内側にレーンを移動する。ここがこれまでとの違いで、先ほども述べたように、従来はLWGが左サイドでの幅取り役となっていた。その分内レーンにはLIHが位置し、LSB1人が幅取り役を担うことはなかった。

もちろんメンディのいるいないの違いはあるのだが、メンディが重宝されるようになった理由をラポルトの離脱と重ね合わせて考えると、辻褄が合う。「同サイドFWへの縦パス」を供給する役割を担っていたラポルトの離脱によって、それを新たに担う選手が必要になった。そこで焦点が当てられたのが、このメンディだ。ラポルトの役割をそのまま代わって担えるCBはシティにはおらず、一番出来そうなフェルナンジーニョはもともとアンカーの選手だし、右利き。そこで、LSBのメンディはCBからパスを受けてそれを同サイドFWへ流すように配球。ラポルトがいない分、同サイドFWへのパスの「経由地」としてメンディは機能するようになった。よく戸田さんの言う「メンディからの斜めのボール」はこれに分類される。

こうしてメンディが起用されるようになると、LWGのスターリングは主戦場を左内レーンに変更。メンディの高さによってワイドに移動したりはするのだけれど、パワフルで豪快なメンディが少し高い位置を取れば内レーンに移動する。

となると、居場所を失うのがLIHだ。もともと主戦場としていた左内レーンにLWGが入ったことで、新たな居場所を取る必要が出てきた。

こうして起用されたのがギュンドアンである。D・シルバのようにラストパサー的に振る舞うよりは、プレーメイカー的に後方でゲームを作ることを得意とする彼は、ラポルトに代わって後方でボール出しを担当するようになる。また、新加入のロドリはフェルナンジーニョほど守備範囲が広くなく、ネガトラ(=ボールを奪われたとき)時に対応しきれないなんてことが多い。となれば中盤の人数を1人多くしてその負担を軽減することも必然であり、2ボランチの一角として機能するギュンドアンの需要はますます高まる。

そんなギュンドアンは、ショートパスだけでなくロングボールも蹴れるのが強みである。ラポルトの離脱によって失われた「RWGへのサイドチェンジ」の役割はギュンドアンが担うこととなる。特に今季のアウェーでのスパーズ戦では、ギュンドアンによるサイドチェンジが頻繁に行われており、まさしくラポルトの「代役」となったと言える。

もちろん、「RWGへのサイドチェンジ」だけがギュンドアンの役割であるというわけでもなく、楔のボール、つまり「同サイドFWへの縦パス」を入れたりすることもある。こともあるというか、そっちが主となっている印象。新年の幕開けとなったエバートン戦では、ジェズスによる先制点のアシストを記録した他、LWGのフォーデンへの楔のパスを何回も入れていた。あの試合はまさしくギュンドアンの試合だったと記憶している。

ラポルトじゃなきゃダメな理由

こうしてラポルトの離脱がカバーされた!かというとそうでもなく、今季はボール保持において昨季に比べて苦戦している。ラポルトがいる時と、ラポルト不在に伴ってここまで述べてきたような人選になった時とで、どのような違いがあるのか。これについて考えていきたい。

先ほども述べたように、大外を主戦場とするメンディの起用に伴って、LWGのスターリングは内側のレーンに場所を移動することとなった。WGに比べ低い位置をスタートポジションとするSBが幅を取ることでCBからのパスを受けやすくするという狙いはあるものの、その分相手の守備ブロックの奥深く、つまりよりゴールに近い位置には侵入しづらくなっている。サイドに張るWGがボールを受けたら、高さの関係上SBがファーストDFとして対峙することとなるのに対し、SBがサイドに張ってボールを受けてもMFラインの選手(=相手SH)が対応可能であり、直接チャンスにつながりにくいというのがある。シティの従来の方法のように、サイドに張る選手の存在によって相手SBを釣り出すということが出来なければ、その分中央を固めるに過ぎない。チャンスを作るには、メンディが縦突破で1枚剥がすなどしてもう一手間加えなければならなくなる。ラポルト不在をカバーしつつメンディの特徴を加味するような形を組んだことで、相手SBを釣り出しにくくなるという問題が発生した。

同時にギュンドアンに「RWGへのサイドチェンジ」を任せることにも問題はある。ラポルトのようにポジションがCBだった場合、押し込んでいるときには後ろにスペースがあるので比較的ゆとりを持ってボールを保持することができるが、ギュンドアンのようにポジションがMFだった場合、スペースがあまりないのが常だ。シティは攻撃時にCB2枚にRSBを含めた3枚を最終ラインに敷いているため、CB間に落ちる行為等(いわゆるサリー)は出来ないことが多い。CBに比べあまりスペースのないMFがサイドチェンジの役割を受け持っても、その機会は減ってしまう。

また、中継地点を使うにしても角度的な問題で中継しにくいなんて問題もある。CBの場合は降りてくるIHやアンカーに対して斜めに角度が付いているためパスを出しやすいが、MFの場合は角度が付かないためパスを出せないことも多い。結局後ろのCBに戻したり同サイドのSBに預けたりということが多い印象だ。CBに比べると、MFがサイドチェンジを担うのは厳しさが出てしまう。

このように、ラポルトの代役をMFとSBが担ったことで配置の変化を生んでしまい、その配置が様々な弊害を生んで、役割を全う出来ないという事態が続いていると言えるだろう。特に、ギュンドアンの起用でサイドチェンジが増えるというわけでもなく、各駅停車のパスが増えていることは影響として大きい。「時間」と「スペース」が与えられている逆サイドにボールを持っていきたくても、持っていくまでに時間をかけてしまうことで、その「時間」と「スペース」を小さくしてしまうなんてことは多々あった。

台頭する個の力

そんな現状に立つシティだが、実はそれほど得点数は昨季と変わっていない。シーズン途中なのでデータがないけど。「不調」と言われる所以が失点数の多さにあることは、昨季のリーグ戦での失点数をすでに上回っていることからも見てとれる。

失点の増加はさておき、得点数を維持できているのは何故か。ここまで述べてきたようにラポルトの離脱によって崩しの構造的な欠陥が生じたのに対し、得点数的にはさほど変化はない。

その要因として挙げられるのが、デ・ブライネとマフレズの質的優位性だ。独特のドリブルを持ち味とするマフレズは、対峙したSBを剥がすことができる。またデ・ブライネも、MFラインの後ろではなくライン上やラインの手前に立ってボールを引き出し、自らボールを運ぶことができる。こういった個の力を用いて相手を剥がす行為は、相手にとっての「予想外」を生み、守備組織の崩壊を招く。相手の守備組織が整っても、質で殴りかかることが出来るという場面が増えた印象だ。

いわゆる「パス回し」を色とするシティにとって、個の力が与える影響は大きい。CL制覇を視野に入れるとすれば、ファン・ダイクはじめ屈強なDF陣を相手にせざるを得ないなんてことも増えてくる。そこで目には目を!の理論で個の力で立ち向かう場面も少なからず出てくるだろうと考えられ、CLのマドリー戦はまさしくそれだった。デ・ブライネのあのクロス、普通出せないもん。

今シーズン第13節のチェルシー戦を覚えているだろうか。あの試合は、シティのボール保持率が47%と、ペップ就任後最も低いボール保持率となって話題になったわけだが、あの試合の決勝点はマフレズのドリブル突破からのものだった。こいつはドリブルがうまい!ってわかっていることと、こいつを止められる!というのは、必ずしもイコールで結びつかないことを目にする機会が、今シーズンになって増えてきたことは間違い無いだろう。

今後の展望

ここからは今後の展望をしていきたい。FFPやらウィルスやら、先が見えにくい状況ではあるが、ここではそれらは一旦抜きにして考えていけたらと思う。1人のファンの娯楽程度として。

ここで目を向けるとしたら、やはり新加入選手らだろうか。アンヘリーニョはレンタル先で躍動しているらしいので置いておくとして、ロドリとカンセロの加入は今後を考える上でのポイントとなるはずだ。

かつてアンカーとして攻守に渡って舵取りを担っていたフェルナンジーニョの後継として加入したロドリだが、先ほども述べたように今シーズンはネガトラの部分で弱さを露呈している。フェルナンジーニョほど守備範囲が広くない彼をアンカーとして君臨させてしまうと、どうしてもその脇を突かれてしまうという問題が発生した。

その問題に立ち向かうべく、ペップは2ボランチを採用する機会を増やしたように思える。攻撃の局面では試合による違いがあれど、守備の局面では明確に4-4-2を採用し、昨年の4-3-2-1のような形とはうって代わったものだ。ギュンドアンが後方でのボール出しを担うこととなったことは先述の通りだが、もしかしたらこの問題に対する解答として2ボランチを採用するようになったのかもしれない。前所属のアトレティコもフォーメーションは4-4-2。この変更は必然に思える。

高い位置でボールを引き出しラストパサーとなってきたD・シルバが退団すれば、同じような役柄をこなせるのはデ・ブライネのみになり(フォーデンもか)、ますます2ボランチの需要は高まる。12月のシェフィールド・U戦の後半から始まった3-4-2-1や、今シーズン度々見られる4-2-3-1も含めて、元来4-3-3を採用していたシティに2ボランチへの変革期が訪れているのは間違いない。となるとここまで述べてきたような弊害にぶつかってしまうんだけどね。

もう一つ、気になるのがカンセロの起用法だ。RSBをスタートポジションとしながらも、ボール保持時には右内レーンに絞って後方でのボール出しを担当するウォーカーの控えとして今シーズンは使われているが、カンセロはもともと優れたテクニックを用いてサイドを駆け上がるタイプの選手である。したがって、ウォーカーのようなタスクを担うに向いてないような気もするが、ペップはカンセロにウォーカーと同じようなタスクを背負わせている。

守備面で不安の残るカンセロを使うよりは、ペップシティの在籍期間が長くベテランの域に入りつつあるウォーカーの方が良い!となって、今シーズンはウォーカーが多用されている。それも、このままでは過労死するんではないかというくらいに。カンセロのこの位置での起用が、ウォーカーを休ませてあげるための止むを得ずのものだとしたらまだ納得がいくが、カンセロの起用法はまだまだ未知数であり、将来的なプランはペップのみが知るものである。

ここからは空想話。根拠も何もないので、「こいつなんか騒いでる」程度で読んでもらって構わない。異論反論も大歓迎。でも「ただの根も葉もない話だろ!」ってただただ言うのはやめてね。そんなのわかっとるわ!って返す。

ここまでの2ボランチへのこのカンセロの起用法から見るに、「左右への可変と使い分け」を目論んでいるのではと筆者は考える。現在はCB2枚にRSB1枚を含めた3枚で後方での組み立てを担っているわけだが、それをCB2枚+LSB1枚でも出来るようにし、試合の中でそれを使い分けようとしているのではと考えた。メンディがボール出しを担えるかは不明だが、体格だけ切り取って見ればウォーカーと通ずるものがあるように思える。また、サイドを主戦場とするカンセロがウォーカーの役割を担えるようになれば、この使い分けも可能だろう。

これをするにあたっては「大外を主戦場とする両SBが、内側に絞ってのプレーを(守備面も含めて)こなせるか」が鍵となる。メンディもカンセロも大外でのプレーが得意。そんな彼らが、ウォーカーのような「CB化」をするのを見てみたい気持ちが少しある。そういえば、いつかのカップ戦でジンチェンコがCB化していたような。

ほんとに空想話だし、超どうでもいい。けど、空想話の域に入ってもいいから、試合がない中だからこそファンの間の議論が盛んになればと思います。チームに影響を及ぼすわけではないし、自分が応援するチームについていろんなこと考えたり共有できたりしたら楽しいでしょ?Twitterとかいう情報共有の場があるんだから、くだらないことしてないで有効活用したいよね。


今回はここまで。体調管理に気をつけて、またいつか。

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