アジャストと脳の部位

近年で特にチェックしておきたいカイロプラクティックに関する研究

2016年に発表された研究です。タイトルの通り、(自分の個人的な感覚ですが)近年一番カイロプラクティック業界を騒がせた研究ではないでしょうか。知り合いのカイロプラクターがこぞってSNS等でシェアをしていたのを覚えています。

カイロプラクティックアジャストメントが「どうやら脳に何かしらの影響を与えていそうだぞ」と言われてきましたが、この研究では特に脳のどの部分に影響を与えている可能性があるのかというところに触れています。

カイロプラクターが仕事をしていて経験することのある、提供しているカイロプラクター自身が驚くほどの改善や回復に関しての可能性を見出せるのかなと考えたりしています。

脳の前頭前野(Prefrontal cortex=PFC)という部位

脳の前頭前野の役割に関して調べてみると以下のような記述があります。

”前頭前野はヒトをヒトたらしめ,思考や創造性を担う脳の最高中枢であると考えられている。~中略~。この脳部位はワーキングメモリー、反応抑制、行動の切り替え、プラニング、推論などの認知・実行機能を担っている。また、高次な情動・動機づけ機能とそれに基づく意思決定過程も担っている。さらに社会的行動、葛藤の解決や報酬に基づく選択など、多様な機能に関係している。”

*引用元:脳科学辞典(https://bsd.neuroinf.jp/wiki/前頭前野

脳の中でも特に大切な部位ということですね。という情報を頭に置いてもらいつつ今回の論文の紹介です。

★機能低下がみられる脊椎関節に対するマニピュレーションが前頭前野における感覚運動統合に与える影響:A Brain Source Localization Study.

2016年にDr. Haavikのグループによって発表された研究です。この論文が掲載されているジャーナルの名前がすごいですね!「Neural Plasticity| Hindawi」

Dr. Imran Khan NiaziとDr. Kelly Holtという名前もよく聞きますが、彼らはCenter for Chiropractic Researchのメンバーです。

◎導入:近年カイロプラクティックで行う脊柱マニピュレーション(以下SM)が神経可塑性に影響を与える可能性が研究されてきている。それらの変化は一次体性感覚野・前頭前野・大脳基底核・小脳といった部位で起こっているとされているが、正確にどこでということはわかっていない。一次体性感覚野・二次体性感覚野・島皮質・帯状皮質・前頭前野において脊柱マニピュレーション後の脳のはたらきの変化を計測することで、どの部位に影響が出ているかを調べる。
◎方法:サブクリニカルペインをもつ19人の参加者。*サブクリニカルペイン(Subclinical pain/SCP)=繰り返す痛み(腰痛・首こりなど)を持ちながら、ケアなどをまだ受けたりしていない場合。19人は3つのセッションに参加(①スクリーニング、②コントロール、③カイロプラクティック)、順番はランダム。
SM群:脊柱全体と仙腸関節に対して評価の後必要なセグメントに行う。15年の経験があるカイロプラクターによって行われる。評価の際は以下の指標を使う(関節部の圧痛・触診による関節可動域の制限・脊柱周囲筋緊張の左右差・ジョイントプレー/End-feelの異常)。HVLAタイプのスラスト。
コントロール群では、被験者の頭をスラストを行う直前の状態に自動または他動で動かす。関節にテンションをかけないように注意する。この群では、皮膚・筋肉・前庭からの刺激が及ぼす影響に関しても調べることになる。体性感覚誘発電位によって測定されるN30と脳波を指標に、各群での前後の変化と、その変化が脳のどの部位で大きいかを調べる。
◎結果・考察:SM群では脳のはたらきの変化がみられた。変化を観察している中で最も大きい変化が起こっていたのは前頭前野であった⇒脊柱マニピュレーションが影響を与えているのは前頭前野では?前頭前野は実行機能を担っている部位であるため、ここでSM後に変化がみられるということは、先行研究で言われているような神経機能の改善の説明になる可能性がある。

この研究から思うこと

これまでDr. Haaivkのグループが発表してきた研究を読んでいる人にとっては基本的には同じ結論で、今回は脳のどの部位で優位に変化が起こっていそうかということを示したものでした。

上でも書きましたが、カイロプラクターとして仕事をしていると自分でも正確には説明できないような反応や改善に出くわすことがあります。人間の身体のことなので100%理解して説明することは出来ないとは思いますが、今現在の知識・理解で説明できることはしたいというのが自分の希望でもあります。

正しいフィードバック⇒正しい情報処理と統合⇒正しいフィードフォワードといったように、脳にとって身体からの情報というのはとても大切です。

その情報の1つが脊椎の動きであり、カイロプラクターとして的確にアプローチできるところです。この研究は今までの結論を踏まえた上で、より深いところに迫る手助けとなるものだと思います。

少しづつですが、カイロプラクティックがより正しく理解してもらえるように彼らの研究を大事にしつつ、より多くの人に知ってもらえるようにしたいと思います。

近江顕一, DC

研究に関してもうちょっと

研究方法に関して、今まで脳のある部位を特定することがなかなか難しかったものが、より改善されてきたということがあります。(* improvement for spatial resolution)

サブクリニカルペインという言葉は彼らの研究でよく使われるので覚えておいた方がいいと思います。痛いけどケアを探したり、受けたりはしていない状態というのが大切なようです。

今回の研究でも、N30という指標の変化を観察しています。SM後のN30の変化、そしてその変化はどこで起こっているのかということです。

HVLAタイプのアジャストメントを使う目的として、それが行われるのが200ms以下、反射などの神経生理学的な反応が起こる(低速度=Low Velocityでは起こらない)ことが観察されているから。
コントロール群では自動・他動で被験者の頭を動かしますが、アジャストメント直前の関節に負荷を与えた状態(Load)はすでに脳に刺激を送ってしまっているため、それがないように慎重に行われる。
SM群では、ほとんどの被験者が主観的に身体の感覚が変化したのを感じ取れた。
体性感覚誘発電位によって測定されるN30 peakはNeural generatorとして知られていて、この値はSMIのはたらきを反映しているとされている。
より具体的な結果として、N30がSM群で減少し(=SMIの改善)、その変化が最も大きく起こっていたのが前頭前野であった。
先行研究で調べられている神経機能への影響としては以下のものがある。位置覚の改善・反応時間・皮質での処理・皮質での感覚運動統合・反射興奮性・運動支配・下肢の筋力。
◎Limitation:SM後の効果がどのくらい続くのかはわからない。N30の減少はパーキンソン病患者にも見らえるので、より進んだ研究が必要。今回の部位の特定は、”正確にそこで起こっていると特定するよりもむしろ、その部位で優位に起こっていると言うためのもの”。

こちらもフルテキストは無料なので、是非読んでみてください!

*研究でマニピュレーションという言葉を使う理由に関してはこちらをご参照ください↓


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