H反射とV波

カイロプラクティックが神経のはたらきに及ぼす影響とは?

カイロプラクティックアジャストメントが脳やからだに何かしらの影響を及ぼす可能性があるということは、2000年以降よく研究されるようになってきました。

研究に携わる人達もいろいろな形でカイロプラクティックの効果を研究・説明しようとしてくれています。そんな思いをこちらで紹介がてらシェア出来ればいいなと思っているのでNoteでこういったまとめを書いているわけですが。

今回の研究はカイロプラクティックに関するものの中でも読むのがかなり難しいものでした。正直なところ自分で理解できる部分がかなり限定されてしまう研究ですが、わかる範囲でシェアしたいと思います。

アジャストメント後の筋力の変化

カイロプラクティックアジャストメントの前後で筋力が入りやすくなったという例がよくみられます。筋力チェック自体をアジャストメント前後の評価方法として使うこともあるくらいです。

それはどういったメカニズムで起こっているのでしょうか?

アジャストメントが脳や身体全体に影響を与えうるもので、筋力の改善もそういったレベルで起こっているとすれば、いろいろなことに応用できるように思います。

★脊柱マニピュレーション後のH反射とV波の変化

2015年に発表された研究です。Dr. Haavikのグループによるものですが、彼らも文中で言っているように、かなり新しい部分に挑戦した研究のようです。

H反射やM波、V波など聞きなれない言葉が出て来たため、発表された直後はなかなか読めずにいましたが、なんとか読んでみました。

◎導入:近年の研究で、脊柱マニピュレーション(SM)が神経可塑性の変化に影響を与えていることがわかってきており、SMによる求心性の情報への変化が脳での情報処理・統合に影響している可能性が注目されている。ただ、そういった変化が中枢神経のどのレベルで起こっているかなどは正確にはわかっていない。この研究ではH反射やV波を計測することでその変化について調べる。この2つの要素の測定が、SMのより深い理解につながる可能性。脊椎サブラクセーションがこの2つにどう影響するのかも調べる。
◎方法:18人の男性が研究に参加。研究1には10人、研究2には8人参加。SMに対する禁忌などはチェック済みで、サブクリニカルペインの状態であることが条件。*サブクリニカルペイン(Subclinical pain/SCP)=繰り返す痛み(腰痛・首こりなど)を持ちながら、ケアなどをまだ受けたりしていない場合。計測するものは、右足ヒラメ筋の表面筋電位/ SEMG(最大随意筋力/MVC)・H反射・M波・V波の反応・疲労度合い。
研究1では、10人がそれぞれ2セッション(SMとコントロール)受ける。順番はランダムで、それぞれのセッションは1週間空けて行う。それぞれのセッションの前後で上記項目を測定。研究2では、残りの8人が上記の2セッションを行うが筋力のチェック(MVC)のみ。SMは10年以上の経験があるカイロプラクターが以下の指標を基にHVLAタイプのものを行う(関節部の圧痛・触診による関節可動域の制限・脊柱周囲筋緊張の左右差・ジョイントプレー/End-feelの異常)。コントロールセッションでは自動・他動による頭部のポジショニング(スラストを行う直前の位置まで)。
◎結果・考察:SMセッション後はH反射の閾値が、8.5%下がり、MVCの値も増加、そして疲労の蓄積がコントロールセッションに比べて低かった。コントロールセッション後は、H反射の変化は1.5%で、MVCはむしろ下がった。フォローアップの8人でもMVCは同じ結果に。この研究における3つの主な発見として、①SM後にH反射の変化がみられた、②SM後にV波、MVC、SEMGの増加、③SM群では疲労の蓄積が少ない。SMが筋発火に必要な閾値を下げる、もしくはより効率よく神経を働かせている?MVCの増加やV波の変化はよりCortical drive(脳からの指令)の影響が大きいのでは?この研究はSM後の変化の指標としてH反射やV波を用いた最初の研究であるため、他の要素を加えてより進んだ研究が必要。SMがより効率的な神経筋作用に影響する可能性を示した研究。

この研究から思うこと

とても難しい内容ですね。V波に関してわかりやすい説明が見つからなかったので、専門の方には是非教えていただきたいです。

「アジャストメント後に筋力の増加、力の入れやすさに違いが出るのは、単なる脊髄反射ではなく、脳からの指令というレベルで変化が出ている可能性があるよ!」ということが伝わってもらえれば、とりあえずは良いかなと。

いろいろな指標や要素でカイロプラクティックの効果を解明していくというのはとても大切だなと思います。もちろん、ここまで神経生理学に精通したものは自分では無理なので、Dr. Haavikのグループの活動はとても貴重なもので頭が下がります。

論文の最後に、「この研究ではサブクリニカルペインの方を対象としていますが、同じような効果がスポーツパフォーマンスにおいて、または外科手術後の筋委縮の方などにおいてはどうなんだろう?というったところまで研究範囲を広げたい」とあります。

カイロプラクティックでそういったところにも何かできるのではないか?とても夢のある面白い研究ではないでしょうか。

近江顕一, DC

H反射とは

H反射:”Ia求心性神経の同名筋運動ニューロンに対する単シナプス性の投射。末梢神経に対する単発の電気刺激で誘発することができ、その神経が支配する筋に単収縮応答を引き起こす。筋電図信号や単収縮力として計測できる。ホフマン(H)反射。”

*「ニューロメカニクス 身体運動の科学的基盤」P172より引用

研究に関してもうちょっと

自分自身も理解できていない、専門用語や内容がこの研究の中にはたくさん出てきています。英語がわかる方は是非フルテキストをご参照ください。

H反射の測定はPresynaptic inhibitionとMotor neuron excitabilityの区別に利用できる。V波の測定はSupraspinal inputの状態を調べることができる。といった理由からこの2つの要素を研究内で用いています。

H反射の変化が腰痛患者や腰椎-仙骨の機能と関係しているという先行研究がある。
この研究でのMVCの測定は、3回の試技を行い、足関節底屈を5秒間、試技間は2分あけて行う。
HVLAタイプのマニピュレーションでは反射反応がみられるという先行研究がある。コントロールセッションでは、頭部の位置の変化により、皮膚・筋肉・前庭系の影響も併せて調べている。
H反射の変化から、SMが以下のような影響を与えた可能性がある、①低くなった閾値の運動ニューロンがより興奮しやすくなった、もしくは②筋肉からの求心性の情報(Ia)のシナプスがより効率的になった。
今回のSM後のMVCやV波における変化は長期的な筋力トレーニング後の変化と似ている。
◎Limitations:1回のセッションによる変化の観察なので、長期的な効果はわからない(30分は持続している)。MVCという指標はトレーニングや学習によっても変わる。今回の研究ではコントロール群では変化がみられなかった、むしろ下がったという結果がある。SMが心理的な影響を被験者に与えた可能性もある。

*アジャストメントではなくマニピュレーションという言葉を使う理由


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